2011年4月から9月にかけて放送されたアニメ『TIGER & BUNNY』。完全オリジナル作品であり、震災直後からの放送にもかかわらず、男女問わない熱い支持を受け大ヒット作となった。
これまで2回(前編/中編)にわたって、その立役者であるサンライズの尾崎雅之エグゼクティブプロデューサーにお話を伺ってきたが、最終回となる後編では、舞台・劇場版へと展開する“タイバニ”ワールドの展望について語っていただいた。尾崎氏がTIGER & BUNNYでチャレンジした3つの項目とは――?
舞台、そして劇場版へ。ライブエンタテインメントへの挑戦
―― 前回は、作品の二次利用、配信や商品化について伺いました。なかでも特に印象的だったのが、お話の最後に出た舞台『TIGER & BUNNY THE LIVE』、そしてその後発表となった『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』など、TIGER & BUNNYの“ライブエンタテインメント”展開です。
尾崎 「まず、舞台をやりたいという“想い”は結果論ではなく、だいぶ前からあったんですよ。放送前から、『舞台化できるぐらい、作品がヒットすればいいな』と。ただ、イベントを含めてここまでライブエンタテインメントとして拡がるとは想定の範囲を正直越えていました」
―― 音楽の世界でもパッケージの売上が減少するなか、ライブエンタテインメント市場への期待が高まっています。ただ、アニメを舞台化する場合、劇場で俳優さんが演じるとなると、デジタルコンテンツと違い、その場にいるお客様しか観られないという物理的制約が発生します。もちろん、その希少性が価値になることはわかります。つまり、ビジネスの拡がりがイメージしづらいというのが正直なところです。
尾崎 「確かに利益率は高いものではないですよ。リアルであるが故に、会場のキャパに縛られます」
―― その通りですね。
尾崎 「最初から収入の上限が決まってしまっている。そのチケット収入のなかで利益を確保できれば、1つのプロジェクトとして収支が立ちますが……それだけに留まっていました。
しかし、そのリアルな空間を超える術を僕たちは手に入れた。それがライブビューイングなんです。サンライズ自身がコンテンツの送り手として、ライブビューイング市場の成長の一翼を担ってきた自負があります。ただ、それとて(ライブ配信する)映画館のキャパを超えることはできないんですけどね」
―― たしかに、そうですね。
尾崎 「とはいえ、劇場1つよりは遥かに可能性があります。仮に、ライブビューイングのために100スクリーンをブッキングできれば、3~4万人動員可能な空間が(配信元の劇場以外にも)用意されることになるわけですから。
ただ、作品の舞台化が増えるなかで、すべてがそこまで拡げられるかと言えば……取捨選択もされるし、淘汰が始まっているのも事実です。
それに、正直迷いもあります。本会場以外に上映箇所を拡げれば利益率が高まるのはわかりきっていますが、舞台である以上、やはり生で観て欲しいという思いとのせめぎ合いになります。青臭いかもしれないけれど、作り手としては作品を目の当たりにしてその空気を感じて欲しいんですよ」
―― ユーザーからみても、生のほうが当然価値は高い。
尾崎 「おそらく『利益優先』といった批判もあるでしょう。そこは忸怩たる思いがある。需要はあるのに供給(生で観てもらうためのキャパ)が追いついてないことへのジレンマです。
一方、逆のケースも多々あります。私自身も経験してきましたが、本会場に足を運んでいただくだけで精一杯の興行がいっぱいある。TIGER & BUNNYは幸運にも「入りたい」と思ってくださる方が多いのですが、そういった惹きのあるコンテンツの視聴機会を広く設ける責任もあるだろうなと。そこでライブビューイングをやるという判断に至ったんです」
この連載の記事
-
第106回
ビジネス
ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる? -
第105回
ビジネス
AI生成アニメに挑戦する名古屋発「AIアニメプロジェクト」とは? -
第104回
ビジネス
日本アニメの輸出産業化には“品質の向上よりも安定”が必要だ -
第103回
ビジネス
『第七王子』のEDクレジットを見ると、なぜ日本アニメの未来がわかるのか -
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる - この連載の一覧へ