テレビの前に置くだけで7.1chを再現!?
ヤック・デカルチャーなバーチャルサラウンド技術
中西 「サイズが小さいのはありがたいんですが、そもそも2本のスピーカーとサブウーファーだけで5.1chサラウンドを再現というのは、ちょっと不安というか……」
鳥居 「その点はご心配なく。『YHT-S351』には、ヤマハ独自のバーチャルサラウンド技術『AIR SURROUND XTREME』が搭載されている。なんと、最大7.1chのサウンドを2本のスピーカーで再現できるんだ」
バーチャルサラウンド技術について詳しく説明しようとすると、頭部伝達関数とか聴覚心理学とか、難しい話が出てきてしまう。そのわかりにくさが、ちょっと怪しげな印象になっているのかもしれない。
けれども、要点はじつに簡単。人間の耳は2つだけで前後左右の音を聞き分けているのだから、この仕組みを応用すれば2本のスピーカーで前後左右の音を再現することもまた不可能ではない。これがバーチャルサラウンド技術と考えていい。
バーチャルサラウンドとリアル5.1chサラウンドを聴き比べると、やはり後方にスピーカーを置いたほうがサラウンドの効果が大きいことは確かだ。そして、最も大きな違いは、サービスエリアの広さにある。サービスエリアと言っても、高速道路の休憩設備ではなく、良好なサラウンド効果を得られる範囲のこと。
リアル5.1chシステムならば、リビングに家族みんなで集まっても十分な効果が得られるし、大きな映画館ならば100人以上の観客がきちんとサラウンド効果を得られるよう、チャンネル数は最大6.1chでも実際にはもっとたくさんのスピーカーが壁に埋め込まれている。
スピーカーの本数が少ないと、どうしてもサービスエリアが狭くなりがちで、特にバーチャルサラウンドの場合、良好な効果を得られるのはテレビの真正面にいる1人だけということも少なくない。
だから、店頭などで一般的なバーチャルサラウンド技術を採用した製品の試聴をするときは、誰もいない機会を待ち、テレビ真正面のベストポジションで聴かないと、その実力はまったくわからないということも知っておいて欲しい。
中西 「個人用ならば、スピーカー2本のバーチャルサラウンドでも大丈夫ってこと?」
鳥居 「一般的なバーチャルサラウンドの製品ならば、そう思ったほうがいいね。ただし、ヤマハの『AIR SURROUND XTREME』は、バーチャルサラウンドながら、サービスエリアが広いということが最大の特徴なんだ。実際に音を出したときの中西クンの感想が容易に予想できるよ」
AIR SURROUND XTREMEは、前方に置いた2本のスピーカーだけで、後方のサラウンド、サラウンドバックを含む7.1chのサラウンドを再現する技術。しかも、親子が3人並んで視聴するような場合でも、全員が良好なサラウンド効果を得られる。豊かな広がり感だけでなく、後方の音の定位感にも優れているのだ。
中西 「それは楽しみですね。うちはちょうど3人家族だから、ミニ書斎用に使うだけじゃなくて、リビング用にするのもいいかも」
鳥居 「そういう使い方をするなら、さらに発展させる方法も用意されているので、後で試してみよう。まずは、中西クンの持ってきたテレビと『YHT-S351』を接続しようか」
中西クン所有の薄型テレビは、東芝のレグザ「32ZP2」。シアターグラス方式の3D表示に対応し、高画質回路「レグザエンジンCEVO」搭載。さらに、アニメをより高画質で楽しめる「アニメモード」、低遅延を実現した「3Dゲーム・ターボ」まで搭載した、アニメやゲームを存分に楽しむならば、最適と言えるモデルだ。
視聴では、中西クンの書斎と同じ、6畳間程度の広さの会議室を使った。「YHT-S351」とテレビの接続は、HDMIケーブル1本だけ。ARC機能に対応しているので、「YHT-S351」から映像・音声信号を送るだけでなく、テレビの音声をデジタルのまま「YHT-S351」に戻すこともできる。
このため、BDソフトやゲームの音声をサラウンドで楽しむだけでなく、テレビの音声を高音質で再生したり、サラウンド化して楽しんだりもできるのだ。
中西 「AV機器の接続は苦手ですが、HDMIケーブル1本でOKというのはありがたいですね」
鳥居 「BDプレーヤーおよびゲーム機として使うPS3との接続もHDMIケーブル1本、計2本の接続だから困ることはないでしょう」
そして、センターユニットとスピーカーは、付属のスピーカーケーブルを使って接続する。それぞれプラスとマイナスの線があるが、色分けされているので、初めての人でも間違えずに接続できるようになっている。
感心したのが、スピーカー設置のためのスタンドが付属していること。このスタンドはネジ止め式で着脱できるので、タテ置き/ヨコ置きのどちらでも使用できる。設置部分にはゴム系の素材が貼られており、ガタつきもなくきちんと設置できる。
そして、センターユニットもタテ置き/ヨコ置きが可能だが、こちらもインシュレーター(脚部)が取り外しでき、タテヨコそれぞれの設置部分に装着できる。じつは、こうした配慮がされている製品は、決して多くはない。今回の視聴のために筆者は手持ちのインシュレーターを用意してきたのだが、無駄になってしまった。もちろん幸いなことだ。
安価なシアターシステムの場合、コストダウンのため、こういった部分を省略することが多いのだが、これが音に悪さをする。例えばスピーカーの振動で、設置した台や床を揺らし、音を濁らせてしまったりする。こういった点にきちんと対処しているのは、一製品として立派だ。
YHT-S351で楽しむ『劇場版マクロスF~サヨナラノツバサ~』の音響(2)
文=氷川竜介
ヒロイン2人の個性を「音響設計」で強調
まず、劇中のライブシーンにも、それぞれ大きな違いと役割があることを理解していただきたい。「銀河の妖精」と呼ばれるシェリル・ノームはディーバ(歌姫)タイプだ。『マクロス7』にちなんだ「あたしの歌をきけ!」というイントロを叫ぶのも、聴衆を自分の世界へと引きずりこむためである。
西暦2059年のコンサートでは、会場に自分の分身をホログラムで投影することが可能になっている。さまざまなコスチュームのシェリルが妖艶に絡みあいながら展開する歌曲は、アレンジも濃密かつ重厚でスキがなく、サラウンドもアレンジの妙と楽器の掛け合いで緊張感を高めて「引き込む」方向性であることがわかる。
(C)2011 ビックウエスト/劇場版マクロスF製作委員会 (C)2011 NBGI
一方のランカ・リーはアイドルタイプだ。前編「イツワリノウタヒメ」のラストでブレイク、人気急上昇した「超時空シンデレラ」という設定である。
魔法少女に変身する曲のアレンジも実にライトで、気持ちを入れる隙間がたくさん空いていて、癒しや解放感につながっている。ホログラムも小さなランカを飛ばして客席とステージをつなぎ、観客たちを大切にもてなそうとしている。
音響設計も「緊張と弛緩」の対極を意識しているが、2.1chでもキレの良い明瞭な音像が再現できているため、こうした楽曲や歌手の属性のデリケートな違いが、うまく伝わってきた。