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スマホがPNDを殺すのか?――生き残りを模索するPND業界

2011年07月21日 12時00分更新

文● 末岡洋子

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スマホに対抗して、PNDもネットに繋がる時代に

 そんな中、明るい題材といえば、通信機能を持つ“Connected PND”という分野だ。アメリカのDash Navigation(Research In Motionが買収)が開拓した分野で、主要メーカーも端末を投入している。Connected PNDを急ピッチで強化したPND大手のオランダTomTomの自動車サービス担当副社長、Wolfgang Reelitz氏は、「エンドユーザーからの強い需要がある」と述べる。「Live」ブランドでConnectedラインを統一している同社は現在、ヨーロッパの通信機能付き内蔵型ナビシステムで90%のシェアを持つという。

 これらの機器で魅力となっているのは、ローカル検索などユーザーが自分で好きな機能を選べること。交通渋滞情報、スピードカメラ警告、シティガイド、駐車場やガソリンスタンド情報などのナビゲーション向けの機能はもちろん、「Foursquare」「Facebook」「Groupon」といった位置情報を利用するソーシャルサービスも使えそうだ。

 メーカー側にしてみれば、これまで販売すれば終わりだった顧客との関係が、ソフトウェアアップデートなど製品のライフサイクルを通じて継続できることになる。TomTomでは現在、クラウドを利用したテレマティクス、遠隔からの診断などのサービスを開拓しているところという。

 ABI ResearchのConnolly氏も、テレマティクスアプリに大きなチャンスがあるとする。わかりやすい例が、電気自動車に電池の残量を調べる、近くの充電ステーションを表示するなどのサービスだ。「PND市場はコンシューマーをエキサイトさせるようなイノベーションがなかった」と同氏、うまくいけばテレマティクスはスマートフォンアプリの脅威になる潜在性があると述べる。TomTomはConnected PND用のプラットフォームも発表している。WebKitをベースとしたもので、外部アプリケーション開発者にAPIを提供することでエコシステム構築を狙う。

 Connected PNDの課題は価格。本体価格はもちろん、サブスクリプションモデルの料金が年間200ユーロを越えることもあるというから、普及の障害となっている可能性は十分ありそうだ。端末本体については、500ユーロを下回る価格が主流だが、200ユーロラインを下回ると普及が進むとの予想が多い。TomTomは5月、199ユーロのConnected PNDラインを投入している。

ネットに繋がるPNDとスマホの両方をユーザーが持つか?
スマホのナビアプリに特化して生き残りを図る企業も

 だが、iSuppliの主席アナリスト、Egil Juliussen氏はConnectedによるPND市場の延命措置は長くは続かないと見る。「PNDは成長国市場でピークを過ぎた」とJuliussen氏。Connectedが市場のけん引役となるが、「それも3年から5年だろう」と厳しい市場観を見せた。

 PNDなどハードウェア向けソリューションからモバイルアプリにフォーカスを変えて成功したのが、ポルトガルのNDriveだ。同社のナビアプリ「NDrive」はスピードカメラ、天気情報などに加え、Facebook、Foursquareを統合、リアルタイムの交通情報アラートや近くにある店舗のクーポン配布などのサービスも拡充する予定だ。iPhone、Android、Symbian、Windows Mobile、WebOS、Badaなど主要モバイルプラットフォームに対応しており、ネイティブなUIも特徴という。

スマホ向けのナビアプリに特化したベンダーも

 NDriveで最高製品責任者、Ronen Bitan氏は、Connected PNDを真っ向から否定し、「ユーザーが2台の画面、2つ目のSIMを持つ必要があるのか?」と述べる。同氏は、ナビゲーションは最終的にスマートフォンが代用することになる、と考えている。一方のTomTomは、「スマートフォン、PND、さらにはインダッシュ型と複数の端末が共存する。問題はこれをどうやって連携させていくかだ」(製品マーケティング担当副社長、John Blackett氏)と述べる。

 GarminのOEM事業開発マネージャー、Henning Wiefilspuetz氏は、「単に接続するだけではダメだ。その上で何ができるのか、付加価値をつける必要がある」と述べる。Nokiaの地図サービス子会社、NAVTEQのコンシューマーマーケティング担当ディレクター、Frank Gaget氏は「交通情報に強い需要がある」と分析する。接続性を活用したリアルタイムの交通情報がキラーアプリになるとの見通しを示した。Connected PNDでどのぐらい接続機能が利用されているのかと疑問の声もあれば、家族で1台の車を共有するような場面も想定される。現状では、車にID(SIM)がいるのかどうかの考え方は立場により分かれていると感じた。

 スマートフォンアプリほどではないが、あちこちで言及されたのが欧州で標準化が進んでいる「ターミナルモード」だ。車載システムとスマートフォンなどのモバイル端末との連携を図るもので、スマートフォンの画面を車載システム側に表示し、アプリなどを操作できる。現在Nokiaと欧州の自動車メーカーが開発を牽引しており、Nokiaは2010年秋のイベントでも試作UIを披露していた。スマートフォン時代にPNDの存在意義はないと手厳しい見解を見せるNDriveのBitan氏も、ターミナルモードには期待を見せた。

 スマートフォンにはスマートフォンで、目的のアプリの発見がしづらい点など課題はある。今後PNDとスマートフォンがどのようなサービスを提供するか、運転手の心をとらえるのはスマートフォンなのかPNDなのか、模索はしばらく続きそうだ。


筆者紹介──末岡洋子


フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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