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「EC決済手数料3分の1」に隠された意外なカラクリ

2010年01月08日 19時14分更新

文●小橋川誠己/Web Professional編集部

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沖田氏

SBIベリトランス代表取締役 執行役員COO 沖田貴史氏

 「ワケあって安い」が、意外なところに広がっている。ネット決済大手のSBIベリトランスは1月5日、EC事業者向けの決済代行サービスを刷新し、トランザクション手数料を従来の3分の1となる5円/件に引き下げると発表した。

 業界では10円前後とされるトランザクション手数料を一気に半額にする、という今回の発表は、一見すると大胆な価格破壊にも見えるが、SBIベリトランスの沖田貴史代表取締役は「単なる値下げではない。品質と安さの両立を実現した」と強調する。それもそのはず、手数料引き下げには、あるカラクリが隠されているからだ。


決済完了画面をメディア化

 値下げのカラクリは、新開発した「決済連動型広告」の導入だ。ECサイトの顧客がカード決済時に入力したクレジットカードの番号から、発行会社やカードブランド、種別、利用金額などを特定し、決済処理完了後に関連するバナー広告を表示する仕組みを開発した。SBIベリトランスは新サービス「VeriTrans 3G」を導入するECサイトをアドネットワーク化し、広告主からのインプレッション収入を手数料値下げの原資に充てる。

ベリトランス3G

決済連動型広告のイメージ。自社カードの顧客に対してキャンペーン情報を紹介する

 出稿先はECサイト、それも決済処理完了画面という性質上、広告の内容には神経を使うが、VeriTrans 3Gでは当初、広告主をカード会社に、内容を自社カード顧客に向けたキャンペーン情報に限定して提供する。「顧客が不快にならず、積極的にクリックしたくなる情報」にこだわることで、EC事業者の理解を得たい考えだ。

 一方、カード会社にとっても、自社の顧客に狙いを絞ったWeb広告を効率よく打てるメリットがある。先行して実施した実験サービスでは「平均4%、カードによっては20%」(SBIベリトランス)という驚異的なCTR(クリック率)を叩き出し、すでに10社のカード会社が広告契約に応じた。

 今後は他のカード会社の参加を呼び掛けるとともに、コンビニ決済や電子マネー決済でも同様の広告商品を展開する計画だ。沖田氏は「決済連動型広告は、サービスの質を落とさず、低価格を継続的に実現するための知恵。将来的にはトランザクション手数料の0円化も実現したい」と意気込む。


初期費用、月額費用も実質3分の1に

 値下げに踏み切ったのはトランザクション手数料だけではない。初期費用や月額基本料も、EC事業者の実質的な負担を3分の1に軽減した。従来は「クレジットカード」「コンビニ」「電子マネー」と決済手段ごとに初期費用10万円、月額2万円が必要だったが、VeriTrans 3Gでは1契約ですべての決済手段が利用できるようにした。さらに、VeriTrans 3Gを利用するEC事業者には、同社が運営する中国向けECモール「バイジェイドットコム」の出店基本料を無料にする「おまけ」も付けた。

 とはいえ、「市場シェアを現在の15%程度から、3~4年で60%にまで高めたい」(沖田氏)という目標はいかにも鼻息が荒い。実は、VeriTrans 3Gで同社が目指すのが、決済システムのプラットフォーム展開だ。「装置産業」といわれるネット決済業界ではシステム投資の負担が大きいうえに、手数料以外での差別化が難しい。そこで、SBIベリトランスは、VeriTrans 3Gを同業他社や金融機関に対してOEM提供することで、スケールメリットを出すことを狙っている。OEM提供が進めば運用コストを下げられるだけでなく、決済連動型広告の収益を伸ばすチャンスにもなる。

 「現在のネット決済業界は過当競争。当社はイノベーションで業界をけん引したい」と新サービスへの想いを語る沖田氏。新しいビジネスモデルを模索するVeriTrans 3Gは、2010年のネット決済業界における台風の目になりそうだ。

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