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T-01Aがすごい理由──遠藤諭が開発者に聞く(後編)

2009年07月01日 10時00分更新

文● 秋山文野、遠藤諭、構成●小林 久、写真●小林 伸

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後編ではT-01Aのハードウェアに迫る

 前編では、T-01Aを開発した背景、インターネットマシンが求められる理由などを中心に聞いた。そんなT-01Aのコンセプトを形にしたのは「堅実な物作りの力」である。後半ではハードウェアを主軸に据え、T-01Aの魅力に迫ってみた。



ポケットに入る最大サイズを考えた


遠藤 T-01Aの魅力のひとつに「画面が大きいこと」があると思うんです。初心者がパッと見ても気付かない違いかもしれませんが、よく分かってる人に説明されると「なるほど」と感じる。この約4.1インチというサイズを決めた基準はなんだったんでしょうか。

魅力である画面の大きさはどのように決められましたか?

湯嶋 画面サイズについては、いろいろベンチマークしたのですが、既存の製品では、60~65mm程度の幅が最大で、65mmに届く製品すらあまりないんです。T-01Aは70mmあります。胸ポケットに入れられる最大の幅と、気にならない厚さは何かを考えて選択しています。そのためにLCDも新規に開発していて、薄くて発色のいいものを作りました。

 グローバル展開を考えると画面サイズも重要です。日本では携帯電話向けのサイトが充実しているので気付きにくいのですが、海外にはそういったサイトが少ない。だからPC向けに作られたインターネットサイトに対する需要が大きくなります。

 同時に日本のユーザーも「この情報量では足りない」と不満を持つ時が必ず来ると思ってます。情報量を増やすためにはやっぱり画面が大きくないといけないなと思います。もちろんポケットに入るか入らないか、というせめぎ合いになってきますが……。少し持ちにくいという意見もあったのですが、議論を重ねる中でやはり大画面で情報量が多い方がいいという意見に落ち着きました。



「一枚の紙に見せる」デザイン


── 薄型のボディーも印象的ですが。

湯嶋 スマートに見えて、かっこいいものでないと先進性が伝わりにくいですから、見た目にもこだわっています。厚さは約9.9mmですが、数字以上に薄く見えるフォルムを検討しました。シンプルで大きさをなるべく感じさせない。「インターネットをポケットに」というコンセプトに非常に合わせられるデザインです。

── dynabookのノウハウを応用されたと聞いています。

湯嶋 薄型化すると、まず最初に堅牢化が必要になりますから、材料、材質の段階から工夫しなければいけません。しかし技術的に一番苦労したのは縁の曲線なんです。相当に苦労しています。

薄型化では堅牢性の確保が重要になる。さらに曲線を実現する苦労があったという

 小型化を実現するために配線はボディーのキワまで来ているんですが、縁を曲線にするとそこに部品が置けなくなってしまいます。

 一番スペースを取るのは、コネクターや外部インターフェースなんですが、ここには徹底的にこだわりました。スピーカーやカメラもなるべく目立たないデザインにして、穴もサイドに少しあるくらい。「一枚の紙のように」、分厚く何枚も束ねた紙ではなくて、なるべく余分なデザインはそぎ落として洗練されたデザインになるよう工夫しています。

 さらに、グローバル展開するためには複数のアンテナに対応することが必須になります。世界各地の規格に合わせられるアンテナの仕組みが必要ですから。ドコモさんでも周波数帯は複数ありますし、海外ではまた別の規格がある。さらにGPSやWiFiを実現した、無線技術のカタマリとなっています。

 これを薄さと両立するために、どういう形でアンテナを配置するかは一つの課題でした。



コミュニケーションを加速する、イチオシの動画機能


── YouTubeの動画がHDで再生できる点もトピックスのひとつですよね。

YouTubeが見られる点は、T-01Aの見所のひとつだ。動画編集もできる

遠藤 昔からのWindows Mobileユーザーに言わせると、動画がここまで快適に扱えるようになったことは大きいですよね。動画は面倒でダメ、音だけみたいな時代も長かったですから。

湯嶋 Windows Mobile 6.1のInternet Explorer Mobileを使えば、YouTubeの動画もかなりスムーズに再生できます。そのために液晶テレビREGZAの技術も応用しています。YouTubeはネットのキーワードですし、フレーム補間なども含めて、入れられる技術はどんどん入れています。

遠藤 その技術はどの段階で活かされてるんですか?

湯嶋 最終的に動画ファイルを再生するところです。

遠藤 どのソフトでも活かされるんですか?

湯嶋 すべてではないですが、Internet Explorerで再生する際には確実に利いてきます。

ブラウザー「NetFront」のウィジェット画面。こういったアクセサリーソフトも大画面だから生きてくる

遠藤 YouTubeの動画が再生できると言っても、機種ごとに差がありますから、見比べると違いを感じますね。ある統計によると、日本で一番使われているサイトは、Yahoo!でもGoogleでもなく、YouTubeなんだそうです。ブログに貼ったりするので、知らず知らずのうちに使っていると。そういえば日本では、YouTubeはわれわれみたいなパソコンマニアよりも、パソコンはネット中心というライトな層が最初に反応しましたよね。

 これはYouTubeの本質がコミュニケーションだからだと思います。「この映像を見て」とURLを送るのは、実は言葉を百万言尽くすより何かを伝えられる。T-01Aは、外出先でYouTubeにアップロードすることを想定して、動画編集機能まで搭載したそうですね。

湯嶋 そうなんです。これには「どうせなら動画をやりたい」という担当者のこだわりがありました。「自社開発せずにサードパーティーのソフトを入れるので十分」という話もあったんですが、「イチからきちんと開発したい」という熱意を見せられた。それで標準アプリとして載せました。

遠藤 動画を介したコミュニケーションは、趣味や遊びだけじゃなくて、ビジネスマンにとっても(情報共有という観点で)有益だと思います。そこの理解がないと「動画いるの!?」みたいな話になる。だから、動画がきれいに見える/見えないにこだわるというのはものすごく大切なことに感じます。



ウィンドウズモバイルの柔軟性が個性的なシェルと拡張性に


── UIに関しては一部独自のものを採用されていますが。

画面の大きさは、動画視聴に有利に働くのはもちろん、ソフトキーボードなどの使い勝手のよさにもつながっている

湯嶋 Windows Mobileの画面は少し無機質ですので、それを感じさせないようなユーザーインターフェースにしました。ぱっと遠くからでも見てわかる、色彩感のあるストライプメニューにして、さらにそれを遊び心でくるくる回してみたり。ビジネスユーザーには特に必要な機能ではないですが、コンシューマを意識するならそういう部分もあっていいだろう、ということで3Dのユーザーインターフェースを付けたんです。

遠藤 キーボードなどの周辺機器はサードパーティから出されますが、QWERTYキーボードを本体に搭載する考えはなかったのですか?

湯嶋 キーボードについては最初から搭載するつもりはありませんでした。拡張性があるのがWindows Mobileの利点ですから、必要に合わせて周辺機器を追加してもらえばいい。Bluetoothキーボードもいろいろとありますから。

遠藤 T-01Aのコンパニオン的なハードもサードパーティー製で提供されていますね。ディスプレーアダプターとキーボードのセットとか。こういった拡張もまた面白そうですね。



今後はどうなる? どうする?


遠藤 今後はどういった方向へ進まれるのでしょう。僕は「より通信機能に力点を置いた端末のニーズはある」と思いますが……。

T-01Aの成功が、第2、第3のモバイルインターネット端末の登場を生むかもしれない

湯嶋 それなら、もうちょっと画面が大きくてもいいかもしれませんね……。10インチまではいらないかもしれないですが……。

遠藤 おっと!? ただ、ポケットに入るというポイントは大きいのではないですか? 今のサイズは結構絶妙な、マジックサイズじゃないかとも思いますが。先ほど前編でこの種のサイズの端末で、米国ではビュアーのひとつの標準的なUIができてきているという話が出ました。しかし、10インチと言われるとまたグラっときますね。今後こういった端末がどう進化していくのか。

 ハードのコンセプトを練り上げて、どんなものがあり得るかを考えるのは、物作りをされる側としては一番楽しいところ、知恵の働かせどころですよね。いろんなものが変わってきてるいいタイミングですし、これこそがコンピュータ、「これでいけるんだよ!」みたいな提案をやってもらいたいですね。

湯嶋 きっと一年後には、T-01Aのようなインターネット接続に特化した端末のバリエーションが増えてくると考えています。

遠藤 ネットと端末の間で何が可能になるかが最大のテーマになるべきですよね。そして、今回のT-01Aのサイズというのは、そのためのまさに基本的なスタイルだと思うのですよ。その意味で、まさにここから始まる注目の端末だと思いました。

終わりに

 この記事の前編では、私が「T-01A」で感じたことも書かせてもらった。


 なんといっても解像度が高く、画面サイズも大きく、それでいて薄くてスマート。無線ブロードバンド環境が進化するのに合わせて、それに十分に答えるCPU性能と省電力という問題も、クアルコムとの二人三脚で高水準でクリアしている。なんといっても「ハードウェアが最高」ということを書かせてもらった。


 いま全面液晶のフルタッチ型のスマートフォンが、世界的に注目を集めているのはご存じのとおり。しかし、モバイルにおいてはハードウェア性能というのが非常に重要なカギを握ることだけは確かだ。しかし、ぼんやり眺めているとその意味というのは見逃しがちなものも事実である。たとえば、映像を持ち出して見る、Excelやサイト閲覧において、T-01Aの大画面と動作性能は、決定的なアドバンテージを持っている。ソフトウェアキーボードの打ちやすさだってまるで違うのだ。


 ある積極的な目的をもってモバイルするユーザーに対しては、必ず答えてくれる端末がT-01Aなのではないかと思う。しかも、1980年代の終わりから、ノートPCというモバイルの世界で、圧倒的に世界をリードして来た東芝が、ふたたび未来のコンピュータで世界標準を目指す。T-01Aの持つポテンシャルもさることながら、世界戦略をめざす気概というものを応援したい気持である。

(アスキー総合研究所 所長 遠藤 諭)

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