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【特別企画】HPCで新たなマーケットを開拓するJCSのサーバビジネス

2004年02月07日 00時00分更新

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■HPCクラスタは次の一手となるか

PCクラスタを用いて安価で高速に複雑な計算ができるようになれば、そこに新たな需要が産まれる。つまり、これまでスーパーコンピュータでは高コストゆえに利用がかなわなかった分野が、HPCの新たなユーザーとなりうるのである。JCSが今後のビジネスとしてHPCクラスタに着目しているのは、このような新市場と言ってよいだろう。

HPCクラスタは、今まさに進化している技術だといえる。そのエッジでビジネスをしていくために、同社はHPCクラスタの実現に必要なさまざまな技術を蓄積し、一方で日本発のPCクラスタソフトウェアSCoreを開発しているPCクラスタコンソーシアムに参加し、サーバを提供している。

このように同社が熱いまなざしを向けるHPCクラスタリングであるが、専門家は今後のHPCクラスタ市場をどのように見ているのか。PCクラスタコンソーシアムを主催する、東京大学の石川裕先生を訪問した。

鍵はアプリケーション

石川氏は、今後HPCクラスタが市場として成長するかどうかは、SCore対応アプリケーションがどれだけ増えるかにかかっている、と言う。このようなアプリケーション開発の主力になると考えられるソフトウェアベンダーのSCore対応も徐々に進んではいるが、まだまだ途上であるようだ。

JCSの次期主力Itanium2サーバ製品群 JCSの次期主力Itanium2サーバ製品群 JCSの次期主力Itanium2サーバ製品群
JCSの次期主力Itanium2サーバ製品群 1U 2CPU~4U 4CPU までフルラインナップ

ソフトウェアベンダーがなかなか積極的にならない理由のひとつは、HPCクラスタシステムの性能が、ハードウェアのチューニングに依存し、アプリケーションを開発しても、それが稼動するまでのサポートが大変だからだ。たとえば、クラスタを組むサーバそれぞれのBIOS設定によっても、性能が大きく変わってくる。このような世界では、ソフトウェア企業だからソフトウェア以外は関知せず、というわけにはいかないのである。

フロントエンドで活躍するJCSのXeonプロセッサ搭載サーバー JCSのディスクアレイシステム
左側:フロントエンドで活躍するJCSのXeonプロセッサ搭載サーバー 右側:JCSのディスクアレイシステム 3Uサイズの筐体にHDDを16基搭載する。インターフェースはUltra160 SCSI/Fibre Channelより選択できる。

ただし石川氏は、このような状況は大企業も中小企業も同じだとも述べた。つまり、ハードウェアとソフトウェア双方の総合的な技術力を持っていれば、中小ベンダーでも大企業と対等に渡り合える余地があり、ビジネスチャンスと考えることもできる。

石川氏は、HPCクラスタの将来に対して必ずしも楽観的ではない。何ごとにつけ、新たに始めることはなかなか簡単には進まないという説明であった。しかし、何もないところに市場を切り拓くからこそ先陣を切れるのであって、最初から拓けている市場には熾烈な価格競争が待っている。ビジネスは一朝一夕には成らないということだろう。

■HPCビジネス勝利への道を語る

JCSの岩本氏も、この点の困難については十分に承知し、この分野でビジネスを展開するには、まずHPCクラスタリングのさまざまな技術要素のノウハウ蓄積が不可欠だとしている。PCクラスタコンソーシアムに参加して自社のサーバ製品を提供していることもその一環である。提供マシンにSCoreの開発で要求される機能を実装すれば、その過程を通してHPCクラスタリングの技術力を蓄積できる。また、SCoreで実装される機能がまずJCSのサーバで検証されるということは、HPCサーバの販売にとっても大きなプラスになると考えてよいだろう。

しかしながら、HPCクラスタを作り上げるためには、SCoreだけでなく幅広い多様な技術を必要とする。ユーザーが必要とする計算やシミュレーションの種類によって、ソフトウェアを含む最適なシステムが変わってくるからである。実行する計算プログラムによっては、むしろ従来から使われていて、すでに十分に実績のあるシステムを使ったほうが良い場合もあるだろう。

HPCクラスタリングの世界は、このように数あるソフトウェアや通信プロトコル、それらに合わせたハードウェアの設計と実装方法など、数多くの選択肢のなかから最適な技術を選んで組み合わせ、ユーザーに提供することができて初めて成り立つビジネスである。HPCクラスタリングに限らないことではあるが、ビジネス成功のポイントは、技術的なバックボーンに裏打ちされたコンサルテーションができるかどうかにかかってくる。

岩本氏は最近、ネットワーク上から自分のPCにダウンロードしたPDFの技術文書の数を数えたら、数万ファイルになったという。もちろん、すべてを読んでいるわけではないというが、文書の要旨を拾うだけでも容易ではない。「我々のビジネスは、単に製品を売るのではなく、常にそこに価値―それは情報かもしれませんが――を付加してユーザーに売ることです。その付加価値とは、自分たちが本当に身につけた技術でしかありえません。その技術やノウハウによって、他社との差別化を図っていくわけです」(同氏)。

JCSのクラスタリングサーバはXeon(2.80GHz)32CPUを搭載した16ノードからなるクラスタリングシステム サーバラックから専用筐体を引き出した状態の写真
PCクラスタコンソーシアムでSCoreの開発のために使用されているJCSのクラスタリングサーバはXeon(2.80GHz)32CPUを搭載した16ノードからなるクラスタリングシステムだ。Xeonプロセッサを使うため発熱と、冷却ファンなどによる騒音が問題になるため、冷却効率を上げながらも静かなシステムになるように筐体を含めて完全にJCS独自の設計になっている。サーバラックから専用筐体を引き出した状態の写真。冷却効率を上げるため無駄なカバーは取り払っている。

しかし、HPCクラスタシステムもいずれ市場に浸透すれば、コモディティ化し価格競争になっていく。それまでに、どれだけHPCクラスタの最新技術を取り込み、マーケットリーダーとしての地位を確立できるかが勝負の決め手だというのである。しかしまた同氏は、この3年間でHPCクラスタリングに対する技術力を着実に自分たちのものにしたので、これからは積極的に営業を展開していく段階だと自信を見せた。PCサーバの低価格化とともに、日本中の大学の研究室がHPCクラスタシステムを備えてもおかしくない時代が、すぐそこに来ていると見ているようだ。

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