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【特別企画】アプリケーションサーバで変わるWebサービス(最終回)~アプリケーションサーバの展望~

2003年11月17日 01時07分更新

文● 小橋一(日本IBM株式会社証券システム部)

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高可用性を求めて

 金融の世界で求められるシステムにもトレンドがある。ウォール街の金融センターでのニーズから、EJBの新しい規格が考えられ、形作られてアプリケーションサーバに組み込まれてきた側面があることは否定できない。最新の金融工学を駆使したシミュレーションに基づいたデリバティブの計算は非常に多くの処理能力を要求し、かつ取引が世界のどこかで行われている限り停止することは許されない。停止できるとしても、停止に伴うコストが非常に大きいのが特徴である。
 残念ながら日本の企業は非常に保守的なところが多いと言われ、実績を重視する傾向がある。技術的なチャレンジをせず、ビジネス的に前へ一歩踏みでることができないところが多いのは少々残念ではある。
 グリッドが脚光を浴びる以前から、非常に大きな数の規模でクラスタを構成し、事実上のグリッド環境によってシステムを稼動させていた金融グループ会社もある。公開されている事例としては、モルガンスタンレーなどだ。

 グリッドコンピューティングが注目されているもう1つの理由についても触れておこう。
 ワールドワイドを視野に入れた証券業界では、金融商品の注文時点からすべて人手を介さずにオンライン処理し、翌日には資金決済までを行える仕組みの整備を急いでいた。俗にT+1と呼ばれ、そのキーワードは経済誌面で踊ることもあるだろう。東京、ロンドン、ニューヨークと世界の3大市場を引き継ぎ続けることで、休日を除く24時間、シームレスな取引を行い続けることをワールドワイドで実現するインフラの整備でもある。こうしたインフラの整備は、期待されていたほどトレーディング需要の掘り起こしがうまくいかなかったことや、世界の3大市場に進出したNASDAQ Japanが日本から撤退することとなってしまうなど陰りが見え始めた。
 さらに追い討ちをかけるような大規模テロの発生によって、9・11以降、より広域で大規模な災害にも耐えうるためのシステム投資のニーズが大きくなり、より可用性が高く、分散型のシステムが重要視されるようになってきた。まずはほかのシステムとの連携よりも、耐災害性能の向上を優先する流れである。これを厳しい経済環境の中で推進するために、コスト面とスケーラビリティが重要視され、結果としてグリッドコンピューティングが着目されて現在に至っている。

開発ツール

 前回お伝えしたように、IBM WebSphere Studio Application Developerの新バージョンである5.1がリリースされた。筆者はまだWindows版しか入手できていないが、ベースとなるEclipseのバージョンが2.0から2.1に上がったようだ。
 なお、バージョン5.0と同一環境上にインストール可能だが、パースペクティブは別途再登録が必要となる。
 IBM WebSphere Studio Application Developerの商品としての市場シェアはまだこれからという側面もあるため断言はできないが、Eclipseが開発ツールとしてのデファクトスタンダードになりそうな勢いを持っているのは確かだろう。オープンソースのEclipseを使っているユーザーはカウントされないのだが、それなりのシェアは取る勢いもある。初期のLinuxのように、同じ母集団で統計が取れないので実際のシェアが計りにくいようだ。

 Javaの開発ツールでほぼデファクトスタンダードになった、Borland JBuilderのベンダーであるBorland(同社は、Eclipseコミュニティの幹事でもある)が、ようやくEclipseに対応したTogether SoftのUMLモデリングツールをパースペクティブプラグインとして提供し始めた。IBMからはRational SoftwareのXDE ModelerやXDE Tester向けに、COBOL開発用、PL/I開発用、AS/400環境での開発用のパースペクティブが用意されている。こういった商用のプラグインに加えて、オープンソースのものまでを含めると、実に300以上のプラグインが存在する。これらは、XP(eXtreme Programming)をサポートするプラグインや、デプロイメントやドキュメンテーション向けのものまで各種各様で、要件定義や、設計、開発、テストといった従来のプロセスをフォローするものだけではない。
 カバーする範囲が広がったことで、これから学習する人には若干敷居が高くなったようにも思えるが、同一の環境ですべてがまかなえるようになる長所は圧倒的であるといえるだろう。

最後に

 3カ月間という短い期間ではあったが、「アプリケーションサーバとはなんであろうか」という漠然とした雲のようにも思える存在を、なるべく技術的な側面を排除し、専門的な知識がない方でも理解してもらえるように解説してきたつもりだ。所属している会社のプロダクトについて触れるという都合上、自社に都合が良いようにはならないよう配慮したつもりではあるが、他者から見るとそうではないかもしれない。このあたりは、実際に製品を評価する読者と、市場の判断に任せたい。
 こうした開発ツールの情報や、IBMのアプリケーションサーバについての情報は、IBMが主催するdeveloperWorks(http://www.ibm.com/jp/developerworks/)で入手することができる。このサイトでは、開発者向けの技術情報や最新動向を発信している。もちろん、IBMに限った情報に限定されているわけではなく、業界動向や事例、Linuxについての情報を提供するポータルサイトでもある。興味があれば、一度覗いてみるといいだろう。

開発者を支援するdeveloperWorks

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