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コムデックス余話--哲学するリスとアメリカの投資家たちの目

1999年12月07日 00時00分更新

文● EC研究会 代表幹事 土屋憲太郎

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EC研究会の代表幹事である土屋憲太郎氏に、Comdex Fall '99におけるエピソードを、エッセー風に書いてもらった。

土屋氏のつけた本稿のタイトルは、“コムデックス余話--哲学するリス”である。これを“コムデックス余話--哲学するリスとアメリカの投資家たちの目”としたのは、編集部の判断である。

あるベンチャー企業の前で、COMDEX観覧とベンチャー企業訪問の視察団と。向かって左から3番目が本稿の筆者の土屋氏
あるベンチャー企業の前で、COMDEX観覧とベンチャー企業訪問の視察団と。向かって左から3番目が本稿の筆者の土屋氏



聞く耳を持ったパソコン

コムデックスの会場で、後ろから、優しい日本語で声を掛けられた。声の主は、ドラゴンシステムズ(株)の代表取締役、福田隆さんであった。音声入力のソフトの実演を見せていただいた。最初は福田さんがお手本となり、次いで筆者もトライしてみた。新聞記事のリ-ドを普通の速さで読み上げていくと、ほぼその通りの内容が自動的に入力され、表示されていく。これまでの口述筆記の大変さに比べてみたら、天地雲泥の差だ。

このソフトは富士通とソニ-のパソコンに、すでにバンドルされているというから、新聞というよりは旧聞に属するのかもしれない。しかし、このソフトとパソコンがあれば、大作家でなくても口述筆記が1人でできてしまう。かなり高いレベルの、聞く耳を持ったパソコンの登場と判定してよいのだろうと、率直に感じた。嬉しいかぎりである。

哲学するリス

耳といえば、日曜日から日曜日にかけての8日間のうち、1日を割いて行った、グランドキャニオンの展望台(=マザーポイント)で、耳を澄ませ目を凝らしながら、静かに大峡谷を見渡している1匹の、哲学するリスを見た。

リスは、観光客の立つ展望台の、真下約2メ-トルほどのところにある、岩のへりの部分に、悠然とその体を伸ばしている。観光客の物音に動じる気配もなく、大峡谷の風光に、静かに、堂々と、また考え深そうに、その身をさらし続けている。

哲学するリス。人工の街の極みラスベガス(=20周年を迎えたコムデックスはこの街の中心地で開催されている)の風景に倦み疲れた複数の旅人たちの眼に、そう見え、そう感じられたのは、ごく自然の成り行きであったかもしれない。

投資家の目

耳目と言えば、シリコンバレーのパロアウト市(=スタンフォード大学のある街)でお会いした、日本経済新聞シリコンバレー支局の記者である影木准子(のりこ)さんの話が印象的だ。

(1)アメリカの投資家たちの目はいま、完全に日本を向いている。

(2)デジタルコンテンツ部門のアカデミ-賞に相当する『ニューメディアインベンション99』の大賞(=応募2000件のトップ)を日本のチームが射とめている。

(3)ネット教育で優れた内容(コンテンツ)を公開した場合など、学校に来なくても実際に勉強ができてしまうが、困るのは既成の学校だけで、それではいけないのだろうか? コンテンツは誰のものか、を徹底的に検証してみる必要がある。

(4)日本にも起業家は生まれると思う。失敗例も多くなるだろうが、そもそもリスクの高いのがアントレプレナ-だ。1人でも多くの成功事例が出て、それが呼び水になってくれたらと思う。

(5)起業の際のインセンティブ(動機付け)はごく自然なもので良いと思う。

(6)米国では、ハンズオフが原則で、国益を守る時のみに政府が出てくるが、残念ながら日本では、その逆であることが多い。

晩秋でも緑したたるシリコンバレー
晩秋でも緑したたるシリコンバレー



反対方向を見る勇気

“インタ-ネットの普及率は日本がやがて確実に米国を上回る”という見方が少しずつではあるがその勢いを増しつつある。通信費の高さも解消の方向にある。あと欲しいのは、起業家精神、チャレンジ精神とその文化環境の整備だろう。強気にも弱気にもブレない、哲学するリスのような眼差しが欲しい。

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