このセッションでは、学習院大学法学部大学院の南谷和範氏より、CRTを見てコンピュータを操作することができない、視覚障害を持つユーザーが、いかにコンピュータやLinuxを利用するのかについての報告が行なわれた。
現状、視覚障害者に対するソフトウェアの設計として、大別して
- セルフボイシングアプリケーション
- スクリーンリーダ
の2種類の設計がこれまで行なわれてきた。
ARM Linux組み込みの音声読み上げ機器を持つ南谷和範氏。 |
前者は専用アプリケーションとして開発され、アプリケーション内で必要な情報のみ読み出し、視覚障害者が理解可能な形態での出力が行なわれる。たとえばワープロやOCR、辞書検索システムといった、日常的に利用されるアプリケーションがこの手法にて設計・開発されている。しかし、アプリケーション単体でのみ動作するものであり、連動性などは考慮されていないという問題は残る。
対して後者はOSが画面表示を行なう情報をすべて読み出して、理解可能な形態での出力を行なう。そのため、基本的にすべてのアプリケーションを利用することが可能となるが、利用者自身がある程度コンピュータの知識を持っている必要がある。
出力デバイスはオーソドックスな音声出力(読み上げ)のほかに「点字ピンディスプレー」というものが用いられている。出力情報の文字情報を動的にピンで点字を作り出すものである。点字が読める利用者にとっては非常に便利なものであるが、40文字表示するもので60万円程度と、高価なところに問題があるという。
Linuxの利用状況だが、点字ピンディスプレーのためのスクリーンリーダ「BRLTTY」、GNUscreenを点字ピンディスプレー対応させるパッチ、Emacsの音声読み上げを行なう「emacsspeak」などの開発が行なわれている。
南谷氏が利用している点字ピンディスプレー。44の点字ピン・セルを持っている。 |
発表者自身はBRLTTYを常用しているとのことで、日本語を使わないコンソールでのLinux利用はほぼカバーできるという。Linuxには/dev/vcsaというデバイスファイルがあり、これを読み出すことによりバーチャルコンソールの画面を読み出すことが可能になるとのことだ。この情報を点字ピンディスプレーに対して渡すことによって出力を行なっているとのこと。/dev/vcsaデバイスファイルはLinux固有のものであるため、他のUNIX OSにはBRLTTYの移植は行なわれていない。
また、Linuxのインストールはインストール開始時のブートプロンプトでシリアルコンソールへの画面出力を指定し、英語画面表示を行なうことで実現可能であるということである。
WindowsなどのGUI OSは、便利な反面、視覚障害者に対しては利用が困難なOSであるといえる。しかしLinuxは多様なユーザーインターフェイスを持ち、OSレベルでの情報の取り出しが可能なため、視覚障害者のコンピュータ利用への道を大きく提供している。
スクリーンリーダの日本語未サポートや、X Window SystemなどのGUIへのシフトなど課題は多いものの、Linuxの優れた一面を見た思いのする発表であった。“コマンドラインは難しい”などLinuxを敬遠している技術者も、今一度、コマンドラインでの利用を見直してみてはどうだろうか?