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海の上でもブロードバンド!?――「さんふらわあ ふらの」で船上インターネットを体験してきた

2008年03月24日 15時00分更新

文● 編集部 小西利明

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さんふらわあ ふらののネットワーク設備を見る

フェリーターミナルから見たさんふらわあ ふらの

フェリーターミナルから見たさんふらわあ ふらの。1993年就航とのことで、けして新しい船ではないが、塗装されたばかりという外観は非常にきれいだ。内装も手入れが行き届き、古さは感じさせなかった

乗船した下部車両甲板

乗船した下部車両甲板。写真奥が船尾方向。トレーラーのコンテナやトラック用の甲板で、高さも高い。乗用車はこの下の乗用車甲板に止める

 さんふらわあ ふらのは、3層の車両甲板に乗用車100台、トラック180台を積載できる。乗客用の客室も多く、旅客定員は705名となっている。旅客用にインターネットサービスを提供している「インターネットコーナー」は、第5甲板(Cデッキ)にあるエントランスホールに用意されている。商船三井フェリーの船では、「夕方便」と呼ばれるさんふらわあ ふらのと「さんふらわあ さっぽろ」でサービスを提供している。

エントランスホール

旅客向けの船の玄関となるエントランスホール。左手奥にインターネットコーナーがある

インターネットコーナー

インターネットコーナーには3台分のマシンが用意されている。右横にはソファがあり、休憩スペースとなっている

 通信アンテナとつながり、船内LANの入り口となるルーターなどは、ブリッジ(航海船橋)の裏手にある小部屋(電話交換機室)に設置されている。ここには衛星受信ルーターやTCP/IP高速化装置(最新の構成ではソフトウェア化されている)、船内プロキシサーバー、船内LAN用ハブなどが設置されている。

さんふらわあ ふらののブリッジ

さんふらわあ ふらののブリッジ。航海中は旅客が立ち入ることはできないので、貴重な見学機会。喫水線からの高さは28mもある

一等航海士の大平清勝氏

船の説明を担当した、商船三井フェリー 大洗支店港務監督の大平清勝氏。さんふらわあ ふらのでは一等航海士を務めるベテラン

ルーターなど主な通信機器類

ブリッジ裏の小部屋にあるルーターなど主な通信機器類。上からアンテナコントロールユニット、衛星受信ルーター、ハブ。最下段はTCP/IP高速化装置

 さんふらわあ ふらのの船内LANは、船内の内線電話の回線を利用したVDSLにより実現されている。これにより、船内に新たな線を引き回すことなくネットワークを構築できるため、工事費用の低減と工期の短縮を実現できたという。ちなみに、無線LANは鉄の壁や扉が多いため、船内LAN用途には向かないようだ。

 船内LANにはブリッジや船長室、事務室、機関制御室などのパソコンが接続されている。これにより、航海や業務に必要なデータのやり取りが可能になる。電子メールはもとより、気象情報や寄港地周辺の波高計の情報など、航海に役立つ情報をインターネット経由で取得できる。航海や業務に役立つネット上の情報を、通信コストを気にせず利用できるのは大きな進化と言えよう。

パソコンやファクスが並ぶ、ブリッジの一角

パソコンやファクスが並ぶ、ブリッジの一角。航海に必要な情報を得ている区画。船の安全を祈願する神棚がある当たりが日本船らしい

同じウェブページを表示するのにかかる時間の違いなどを披露

メガウェーブマリンにつながっているパソコン(左)に加えて、既存の衛星通信を使うパソコンを用意。同じウェブページを表示するのにかかる時間の違いなどを披露した。当然ながらスピードの差は比較にならない

 一方、旅客用のインターネットサービスは、船内LANの先にあるハブに、パソコン3台を接続して実現されている。インターネットコーナーには、3台分の液晶ディスプレーとキーボード、マウスが用意され、ディスプレーの横にはコイン式課金装置が設置されている。サービスを利用する場合には、ここに100円玉を投入するわけだ。パソコン自体は利用者が触れない環境になっている。残念ながら、利用者が自分のパソコンを船内LANにつないで使うことはできない

インターネットコーナーにある旅客用パソコン

インターネットコーナーにある旅客用パソコン。液晶ディスプレー左にあるのは、パソコン本体ではなくコイン式課金装置

パソコンはコーナー近くに、利用者に触れられないよう収納されている

パソコンはコーナー近くに、利用者に触れられないよう収納されている。並んだパソコンの隙間に発泡スチロールらしきものが挟まれ、パソコン3台がまとめて固定されている。船の動揺によるトラブルを避ける工夫だろう

 料金は初回の基本料金が500円で、3000パケットまたは25分間の利用ができる(1パケットは128bytes)。追加料金は100円で、600パケットまたは5分間加算となっている。課金は送信時のみに加算される。インターネットコーナーのそばには両替機があるほか、売店もあるので100円玉の調達には困らない。

 基本的に使えるのはウェブブラウザーだけで、ブラウザーも設定画面などが見えないようにカスタマイズされたものを使用している(エンジン自体はInternet Explorer)。当然ながら、利用者が独自のアプリケーションをインストールするようなことはできない。その代わり、ウェブブラウザー上で動くサービスに関しては特に利用の制限はないようで、ウェブサイト閲覧やウェブメールの類は、ごく普通に利用できる。とはいえ、ADSL並みの回線(登りはアナログモデム並み)を共用している点を考慮すると、ストリーミング動画の視聴は難しいだろう。

ブラウザーのトップページ

ブラウザーのトップページ。パケット量を減らすべく、画像の少ない独自のトップページを設けて、GoogleやYahoo!の検索を直接行なえるようにしている。ブラウザーの見た目は独自だが、中身はIEそのもの

 実際にウェブブラウズを体験してみたが、ウェブサイトやブログ閲覧程度は問題なく利用できる。しかし、3台から一斉に重いサイトなどへのアクセスが行なわれたりすると、共用回線のうえ登り回線の細さが影響するのか、閲覧がスムーズに行なえない場合もあった。今回は利用者がIT媒体記者ばかりという特殊な状況でもあり、一般的なウェブブラウジングなら、問題なく利用できるだろう。

 共用パソコンを利用するという点で、キャッシュを通じた個人情報漏洩やマルウェア感染などのセキュリティーリスクが気にかかる。これについてはブラウズ画面以外を操作できないようにしているほか、パソコンを再起動するたびにHDDの中身を、導入直後の状態に初期化してしまう仕組みを取り入れているという。仮にサイト閲覧でマルウェアに侵入されても、再起動で初期化されてしまうため被害は局限できるというわけだ。地上のサポートを受けられない、船という環境ならではのシステムと言えよう。

 説明によれば、北海道にバイクツーリングに出かけるような若い旅客の多い5~6月などは、利用客が多いとのことだ。ウェブメールの利用のほか、旅行先の情報を事前にチェックするといった利用が多いそうだ。逆に高年齢層の旅客による利用はまだ少ないという。

 現状では、客室でのインターネットサービスは行なわれていない。船内に1室あるスイートルームについては、回線のみ用意してあるそうだ。将来的には客室での利用も可能になるかもしれない。

 また公衆無線LANのように、自分のパソコンを手軽に接続して使う、といった仕組みにはなっていない。アクセスポイントやサービス側にかかるコストもあがるため、十分な利用が見込めない場合は導入も難しい。しかし、船舶向けのブロードバンド接続サービスがより普及していけば、こうした問題も解決され、船旅を楽しみながら陸上と同じようにブロードバンドインターネットを使う、という環境も実現されるだろう。

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