地球規模のビジネスを可能にするメインフレームとは?
――グローバルでは「メインフレーム=IBMのメインフレーム」という認識ができていて、その中でレガシーなものから新しいメインフレームへの移行とかも進んでいるわけですね。
亦賀:欧米の金融機関にも普通にIBMのメインフレームが入っています。オープンの技術を利用できるようになったとはいえ、メインフレームは大量のトランザクションを処理するために最適化された設計思想で作られたものです。システムとして完成されているんですよ。
では、同じことを完全にオープンサーバだけで実現できるか? 金融系の企業などがバックエンドでシステムを利用する際に、シックスナインという基準が使われます。「9が6つ」、すなわち「99.9999%の稼働率が確保できるか」ということです。オープンでシステムを構築する場合、基幹OSにはLinuxを使い、VMにはXenを使い、ということになります。そうすると、そのとき、システムの信頼性をどうやって保障するかということが問われてきます。もともとシステムとして設計され組み立てられたものと、オープン部品を寄せ集めてきたものでは、期待できる信頼性は異なります。オープン部品を現場で適切なノウハウ無く組み合わせた場合、機能を他から寄せ集めてくるたびに、9が1つずつとれてしまうようなことにもなりかねません。
国産ベンダーがメインフレームに関して、このまま新しい戦略を描こうとしないとすれば、オープンの分野で戦っていくしかないわけですが、そうすると今度は、信頼性を含めて現在のオープンのアプローチで本当にいいのかという問題が残ります。
――たしかにそうなんですが、これはあくまで金融など、システムの信頼性に本当にシビアな要求がされる世界の話ですよね。
亦賀:確かにそうです。国産ベンダーが動けない大きな理由のひとつは、こういった要求にこたえるシステムを作ったとして、果たしてどれだけそれを欲しがる人がいるのか? という事情があるからでもあります。グローバルに展開していれば、ある程度の顧客も見えますが、国内だけの展開で顧客を読みきれず、次の作戦を立てられない。
IBMのメインフレームの処理能力は2万MIPSあります。これだけの性能があるものを何に使うんですか? という話があります。2万MIPSという数値は、世界中からトランザクションが集中しても耐えられる数値です。そこまでの性能を備えたメインフレームが1台あれば、それだけで地球規模のビジネスを展開することも可能となります。そして現在このクラスのメインフレームは残念ながらIBMにしかありません。この「地球規模」というのは大きなキーワードです。それだけのスケールでビジネスを考えている企業がどこにあるか? ベンダーが、そういった顧客を抱えているか否かで、発想も展開も大きく異なってくるわけです。日本では要らないが世界では要るという顧客が存在する。このことが日本のベンダーとグローバル・ベンダーの製品戦略の差異の一つの大きな要因となっています。
――ベンダーだけの責任じゃなくて、ユーザー企業側の問題もあると言うことでしょうか?
亦賀:前回、日本はITバブルの崩壊の影響を回避できて、ある意味で幸せだったという話をしましたが、欧米はITバブル後に必死にITの存在意義を考えて進化させてきました。日本も世界もある種の「ITの曲がり角」に直面してることは事実ですが、ITバブル崩壊という曲がり角を経験してない日本は大きなハンディキャップを抱えてしまっている。
――同じ時期に曲がり角に突入するにしても、このままじゃ日本は「周回遅れ」になるということですか?
亦賀:その危険性は極めて高いと思います。周囲は次のステージに入ってますから。