月刊アスキー 2008年4月号掲載記事
昨年末から、東京・荒川にかかる首都高速の五色桜大橋で「振動発電」の実証実験が行われている。1日あたり約6万2000台通過する自動車による振動を、橋桁の下に取り付けた振動発電機で電気に変えて、橋のイルミネーションを点灯させる電力の一助としている。
この振動発電とは、圧力を加えると電力を生み出す「圧電素子」を振動でごくわずかに変形させて、電気を生み出すものだ。開発したのは、慶應義塾大学の大学院生で、ベンチャー企業「音力発電」の代表でもある速水浩平氏。
速水氏は、モーターやスピーカの仕組みを知った小学生のころから、音や振動から電気を生み出す夢を思い描いていたという。実際に研究を始めたのは大学2年生から。周囲からは、「(発電効率が悪いので)やめたほうがいい」と言われたが、試行錯誤と改善を続けた。
圧電素子を積層し、また振動板を共振させて少しの振動でも多くの圧電素子に伝えられるようにするなどして、発電効率を向上させてきた。現在の研究開発モデルは、初期に比べればおよそ10倍の出力を持つようになった。
その発電量は、靴底に振動発電機を入れた場合、15分程度歩けば携帯電話で約5分間通話できる電力(0.1~0.3W)が溜まるという。もし首都高速全部に敷き詰めると、火力発電所1基分くらいの発電量があるそうだ。
短期的応用には、階段の照明や電池のいらないリモコンなどがある。将来的には、振動発電機を床や壁に付けて、ビルや道路を発電所にするという大規模な利用も考えられる。課題はコストだが、例えば振動発電機能付きの床材の場合、普通の床材の1.5倍程度の価格にすることを目指している。
発電のために特別なアクションをせず、「いつのまにか発電している」という形に、こだわって開発している。そして「日常生活で使われずに捨てられている“振動”というエネルギーを、利用できる形に変えたい」と、速水氏は想っている。