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開発者インタビュー

原点に戻った新しいウォークマン“ウォークマンA”

2007年07月13日 11時10分更新

文● 山本雅史 構成●編集部

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消費電力にこだわらず音質のクオリティーを高める

―― 使ってみて感じたのですが、ウォークマンAシリーズは、音質に非常に神経を使って開発された印象を持ちました。

木野内 以前のモデルでは、“急速充電、長時間再生”というコンセプトにより、消費電力にこだわってすべてを1チップに集約していました。
しかし音質という点では、電力消費を優先したことで、いろいろと犠牲になっていた部分が多かったのです。例えば、すべてを1チップで処理するのではなく、オーディオ専用のチップを搭載した方が音のクオリティーはよくなります。しかし、その分消費電力は大きくなる。今回の製品は、オーディオの連続再生時間が約30時間(ビデオは8時間)。一方でフル充電には約3時間(USB端子使用時)かかります。
消費電力にこだわらなくなった分、音質のクオリティーを高めるように再設計し直したというわけです。もちろん、再設計においても、できるだけ長時間の再生ができるように配慮しています。

―― 音質という面では、高いクオリティーが実現されたと思います。しかし、細かく聞いてみると、まだ“圧縮オーディオ特有の音”という印象を受けます。このあたりは、今後改善の余地があるのでしょうか?

細萱 圧縮オーディオは、原理的に音を圧縮してデータ量を小さくすることで、ストレージ上に多くの曲を保存できるようにします。しかし今後のハードウェア、特にフラッシュメモリーのトレンドを見れば、メモリー容量はどんどんアップし、コストはどんどん下がっていくでしょう。このトレンドを考えると、“圧縮オーディオでなくてもいいのでは”というアイデアが出てきます。
今回、音声コーデックに“ATRAC Advancedロスレス”というモードを用意しました。ロスレスのオーディオデータを使ってもらえば、音にうるさいユーザーの方にも満足していただけると思います。
もちろん、ロスレスのオーディオを使うと大量にメモリーを消費するため、格納できる曲数は少なくなってしまいます。ですので、数多くの曲を1台で楽しみたいというユーザーに向けて、“DSEE”(Digital Sound Enhancement Engine)という新機能をAシリーズに搭載しました。
この機能を使うことで、圧縮オーディオで失われがちな高音域を補正して、より原音に近い音で再生できます。DSEEも単に高音域を付け加えるだけでなく、音の波形を分析して、なだらかに高音域を補正しているため、いびつな補正ではなく、非常に聞きやすくなっていると思います。
さらに、2006年秋のシリーズから採用している“クリアステレオ”(ステレオの左右の音が反対側に漏れる音漏れを防ぐ機能)や、力強い重低音が出せる“クリアベース”などの機能を用意しています。

お詫びと訂正:掲載当初、“リニアPCMに対応”と記載していましたが、実際には対応しておりませんでした。ここに訂正するとともに、お詫びいたします。(2007年7月13日)

―― DSEEを試してみたところ、ビットレートが高い圧縮オーディオでは、あまり効果が感じられないのですが。

木野内 我々もテストしたところ、MP3の64kbpsぐらいだと、ある程度の効果が分かります。しかし、これ以上のビットレートになると、DSEEのメリットはあまりないかもしれません。その点でも、DSEEは低ビットレート向きの機能といえるでしょう。
圧縮オーディオはコーデックによって、高音域のどの部分をカットするかが異なります。DSEEでは圧縮されたオーディオデータを分析して、それぞれのコーデックに合わせた補正を行なっています。

操作感を良くする工夫はソニーの強み

―― Aシリーズではオーティオとビデオを追求したとのことですが、本来用途の違うものをサポートして両機能とも満足のいく製品になりましたか?

木野内 確かに、犠牲にした部分というのはあります。あまり言いたくないのですが、メニュー表示などは、液晶画面を横向きにしても、縦位置で表示されてしまうといった部分です。しかしほかの部分は、高いレベルにまで作り込めたと思っています。

ウォークマンAでは、ビデオ表示時に横画面で表示する機能を持つ。しかし横画面表示の最中でも、メニューは縦画面の状態で表示されてしまう。木野内氏が挙げているのはこの点

木野内 例えば、早送りという機能ひとつをとっても、ビデオとオーディオではまったく動作が異なります。他社製品では、ビデオもオーディオもまったく同じような早送りや巻き戻しになっています。しかし、これはコンテンツの種類によって、変更されるべきだと考えています。
ですのでウォークマンAでは、弊社のHDDレコーダー“スゴ録”と同じように、1回押せば10倍速、2回押せば30倍速、3回押せば100倍速と変速するようになっています。このような操作に関する工夫が、全体の操作感を良くするものだと思っています。こうした工夫は、ビデオ関連製品を出しているソニーの強みだと思います。

―― Aシリーズには音楽を再生中に、付属ソフトの“SonicStage”(ソニックステージ)を使ってパソコン上で取り込んだCDのジャケット写真を表示する機能があります。しかし実際に使ってみると、自動的にジャケット写真が取得できないケースが多いようで、うまく活用しきれていないような気がしますが。

木野内 SonicStage側で、曲名はデータベースにヒットしてもジャケット写真がヒットしなかったり、自動的にジャケット写真が登録されなかったりすることもあります。ジャケット写真があまりヒットしないというのは、今後改良すべき部分です。ハードウェアを提供している側としては、ジャケット写真の自動取り込みなどユーザーに便利に思える機能を付けたいのですが、音楽業界側から見ると問題もあるようで、一歩一歩進めていくしかないですね。

―― パソコン側のソフトですが、今はオーディオ転送用のSonicStageとビデオ転送用の“Image Converter”(イメージコンバーター)の2つに分かれていて、使い分けが面倒に思えます。今後は統合されるのでしょうか。

木野内 オーディオとビデオは使い方が異なるため、当面は2つのアプリケーションを併用することになるでしょう。確かに、ユーザー側から見ればひとつのソフトに統合された方がいいと思います。ビデオコンテンツをどのように扱うかによって、パソコン側のアプリケーションも変化していくでしょう。

―― ポータブルビデオがどう使われていくかで、パソコンソフト側も変わるということですね。本日はありがとうございました。

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