6月14日、EMCジャパンは3・11の東日本大震災への取り組みとBCPについて解説するプレスイベントを開催した。20年の災害対策実績を持つという同社の経験や分析には、金言も多かった。
「想定外」に対応できなかった日本のBCP
プレスイベントではEMCジャパン マーケティング本部の若松信康氏が、「20年の災害対策の実績から見たIT面でのBCPのあり方」と題して東日本大震災とBCPに関して講演した。
まず、同氏は3・11の東日本大震災で顕在化した課題として、被害の広域化や電力不足、人やモノの移動における制約などさまざまな「想定外」を指摘。この想定外の事態に対して、ユーザーが策定したBCPの多くが機能しなかったと述べた。実際、「基幹系など重要なアプリケーションの切り替えを想定してなかったというお客様も多かった」(若松氏)といった例が見られたという。そして、この機能不全の理由には、想定外の事態に対して意思決定に時間がかかったこと、業務としての復旧ができなかったという2点を挙げた。
ちなみに2001年9月11日の同時多発テロの際は、ワールドトレーディングセンターに設置されていた288台のSymmetrixをすべて失なったとのこと。だが、このうち28のリモートレプリケーションは機能し、数時間以内にはすべて復旧したという。とはいえ、復旧の明暗を分けた点はいくつかあり、データセンターなども併設した場合はビルが単一障害点になったこと、業務全体をリカバリできないテープが機能しないこと、アプリケーション間の不整合がもっともクリティカルであること、などの教訓が得られたという。
続いて若松氏は、この2点をより具体的に掘り下げた。たとえば、意思決定に時間がかかったことに関しては、経営サイドが業務への影響を知りたいと考えても、迅速に対応できる体制がなかったとからだという。人や組織、システム、プロセスなどが分断しており、個別に収集しないと、震災の影響を知ることができないというわけだ。
また、業務として復旧できないという点も、同じく人や組織、システム、プロセスが分断していることに起因する。たとえば、DRサイトを用意してあっても、実際はインフラとアプリケーションの依存関係があるため、簡単に切り替えられないといった事態がある。また、切り返る際の静止点をきちんと確保しないと、トランザクションを維持できない。「システム的に考えると、データをコピーして、DRサイトに切り替えればよいのだが、実際はいろいろあって難しい」(若松氏)というのが実態だ。しかも、震災時は人員も少なく、手順書を見ながら業務システムを切り替えるというプレッシャーも大きい。また、可視化が行き届いていなかったり、テストや訓練が不足しているために、実際はBCPとして機能しなかったことも多いようだ。
こうした災害対策を練る上での常套手段としては、サービスレベルと保護対象を天秤にかけ、コストが見合うように実装するのがポイントとなる。データをどこまで復旧させるか、どこまでサービスを止められるかなどを業務ごとに割り出し、それを実現するためにかかるコストを算出すれば、理想的なソリューションが現れるが、実際は、「結局災害対策でもっとも重視されるのはコスト。最終的にはコストか、サービスレベルのいずれかを妥協した折衷案に落ち着く」(若松氏)という。
しかし、コストはDRサイトの構築だけにかかるわけではない。メインサイト自体が複雑すぎるため、バックアップサイトも自ずと複雑になり、コストが増大してしまうという点もある。「結局、短期間で片付ける話ではないというところに行きつく」(若松氏)とのことで、短期的には効率性の高い災害対策計画を練ると共に、長期的には仮想化や自動化などを駆使して、システムをシンプル化することが重要だと指摘した。
BCPの強化に役立つEMCの製品群
若松氏は、こうしたBCPに役立つEMC製品として、効率的なレプリケーションを実現する「RecoveryPoint」やアプリケーションとの整合性をとるための「Reprication Manager」、復旧の可能性まで分析する可視化ツール「DPA」、根本原因やビジネスインパクトを分析する「Ionix」などを紹介した。こうした製品は20年の歴史の変遷を経て、開発したり、買収したことにより、拡充されてきたもの。全体最適を目指して、今も製品の拡充や強化が続けられているという。
最近の一押しはWANのコストを削減し、電力消費やスペース削減にも貢献する重複排除ストレージ「DataDomain」。バックアップデータの統合に力を発揮する。さらに2つのサイトをアクティブ・アクティブで冗長化・負荷分散する「VPLEX」も、無停止での運用を可能にするソリューションとしてアピールされた。
さらにBCPを短期間で実装するための「IT-BCPアセスメントサービス」についても言及した。IT-BCPアセスメントサービスでは、ランニングコストを維持しながら、3カ月で方針を決定するというもので、6月より提供を開始する。
震災時、EMCはどのように動いたのか?
発表会では、マーケティングコミュニケーション部 部長の笛田理枝子氏により、東日本震災の発生時にEMCがどのように動いたかについても説明された。まず同社は本震の約2時間後にグローバルのサプライチェーンを「緊急体制」に移行。アイルランドから空輸された製品の一部が破損したため、代替品の早急に用意したという。保守部品も優先的に調達し、結果的に3月中の納品はすべて無事に完了したという。
また、顧客のリース契約に関しても、契約期間の延長などに対応し、支払い据え置き期間の猶予も行なった。さらに、社内の「EMC TV」においても、EMCジャパン社長の山野修氏が日本の状況を全社に説明。サプライチェーンの緊急体制への移行や義援金の募集もEMC TVで行なったという。
この連載の記事
-
第7回
サーバー・ストレージ
のど元過ぎれば……にならないための企業の災害対策【後編】 -
第6回
データセンター
のど元過ぎれば……にならないための企業の災害対策【前編】 -
第5回
サーバー・ストレージ
DRのトレンドは仮想化とアクティブ-アクティブ構成 -
第4回
TECH
シマンテックが見た3・11でのBCP成功例と失敗例 -
第2回
サーバー・ストレージ
アナログが功を奏したネットアップのDRサイト構築作戦 -
第1回
ビジネス
ポリコム自身が再認識した災害時のビデオ会議の価値 - この連載の一覧へ