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災害や電力不足に負けないIT活用のヒント 第6回

大震災から1年!災害対策とデータセンターを見直そう

のど元過ぎれば……にならないための企業の災害対策【前編】

2012年03月22日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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未曾有の被害を出した東日本大震災から早くも1年が経つが、企業の災害対策やBCPの見直しが進んでいるとは言い難い。「のど元過ぎれば熱さ忘れる」の例えにならないよう、ここでは災害対策やBCPの概説やデータセンターに関する記事をまとめてみる。

改めて考える災害対策とBCP見直しの重要性

 2011年のほど、災害対策やBCPといったキーワードが誌面を飾った年はないだろう。3・11の東日本大震災では、地震や津波でコンピューターの物理的な破壊やデータの消失、ネットワークの途絶などが起こったほか、原子力発電所の事故の影響で、電力不足という事態に見舞われた。この結果、多くの企業は災害対策やBCPの見直しなどを強いられた。具体的には、震災をはじめとした自然災害や電力不足のリスクについて評価し直し、データ保護やシステムの可用性についての要件を再定義。データセンターへのサーバー移設や遠隔地にデータを保護するリモートバックアップ、業務システム自体を二重化し、無停止で運用するDR(Disaster Recovery)などの導入が検討された。

 しかし、実際に導入や刷新にこぎつけた企業は決して多くない。社団法人 日本情報システム・ユーザー協会から発表された「企業IT動向調査2012」のBCPに関する調査の速報値(2011年10月29日~11月21日)でも、BCP策定済みは半数にも満たないことがわかった。また、担当自身がいろいろなITベンダーに聞いたところ、確かに震災直後は災害対策やBCP関連の問い合わせも多かったものの、実際に受注に結びついた案件は少なかったと口を揃える。「のど元過ぎれば熱さ忘れる」の例えの通り、正直、災害対策やBCPの見直しが根付いたとは言い難いのが実情だ。

「企業IT動向調査2012」のBCPに関する調査の速報値(2011年10月29日~11月21日)での想定されるリスク別に見たBCPの策定状況

 企業の災害対策やBCP見直しの最大の障壁は、おそらくコストだ。BCP見直しのために見積もりをとってみたら、予算的にまったく見合わなかったという話はよく聞く。3・11では災害の範囲が広範囲に及び、そもそもデータセンター自体が停電の危機に陥るとか、事務所への出入りが不可能になるといった「想定外の事態」が起こった。そのため、BCPのコストも増大してしまったわけだ。このコストがネックとなり、検討自体をあきらめたという企業も多い。

 とはいえ、災害対策やBCPの見直しは、今後も重要な課題であり続ける。本震以降も余震が継続的に起こったこと、電力不足も解決にはほど遠いことから、そもそも自然災害の発生率がきわめて高い国土に腰を据えている現状から考えても、業務システムや事務所自体の移設を含む抜本的な対策が必要になる。近い将来、首都圏で大型地震が起こると予想する調査も相次いでおり、経営者も、情報システム担当者も、無策ではいられないはずだ。しかも、自然災害は対策の完了を待ってくれない。できることからスタートするのが最上の策だ。

データセンターへサーバーを移す

 すぐできる災害対策として導入を検討したいのが、自社サーバーのデータセンターへの移設だ。先日、JDCCの発表会で提供されたJEITAの調査(出典:ITの省エネ化動向ならびにグリーンIT化動向に関する調査報告書)によると都内に設置されている136万台のサーバーのうち、3/4にあたる102万台はオフィス内に設置されているという。改めて言うまでもないが、これらのサーバーを堅牢なファシリティを持つデータセンターに移設することで、自然災害はもちろん、停電や物理的セキュリティといった課題にも対応できる。加えて、二酸化炭素の削減などエコロジーという観点でも、データセンターへのサーバー移設の導入は大きい。

データセンターはサーバーの設置環境として、ファシリティ面やセキュリティでも充実している(写真はさくらインターネットの石狩データセンター)

 データセンターにシステムを設置しておくのが不安というのであれば、首都圏以外や海外のデータセンターにシステムやデータを待避させるという方法もある。現在、日本のデータセンターは7割が首都圏に設置されているが、東日本大震災を受けて、各事業者が首都圏外や海外へのデータセンターの構築を進めている。この流れはきわめて顕著であり、今後はロケーションもデータセンター選定の大きな条件となってくる。

 データセンターへのサーバー移設に関しては、サーバーが低価格化していることもあり、コストがネックになることが多い。あるいは手元にサーバーがないと不安という心理的な障壁もある。しかし、サーバー単体ではなく、災害対策やデータの保護まで考えると、実はかなりコストがかかるのも事実だ。その点、データセンターへの移行は災害や停電の対策、運用管理の負荷軽減などを見込めば、コスト面でも確実にメリットが出る。仮想化により、サーバーを集約すれば、さらに大きなコスト削減が見込める。サーバーやバックアップなどをパッケージにした中小企業向けのパッケージも次々登場しているので、改めて導入を検討すべきだ。

 後編では、データ保護に役立つバックアップと、新しいワークスタイルの実現という観点でも注目されている在宅勤務について見ていく。

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