富士通は13日、モバイル端末などを無線で充電できるワイヤレス給電デバイスの解析・設計を高速・高精度に行なえる技術を開発したと発表した。これにより、ワイヤレス給電のためのシステムをよりスピーディに、より正確に開発できるようになることが見込まれている。この技術を使い、富士通では2012年にはワイヤレス給電デバイスを商品化したい考えだ。
今回の技術は、富士通研究所が開発した。ワイヤレス給電は、電源ケーブルと端末を接続しなくても給電が行なえるシステムで、携帯電話やノートPCなどの端末を充電台に置くだけで充電といったことが実現でき、同様の技術はさまざまな企業が開発を行なっている。
離れたデバイスに対して電力を供給するための技術としては、電波やレーザー、電解を使うなど、さまざまな方法があるが、今回同社が用いたのは磁界を使った技術。その中でも「磁界共鳴方式」を採用した。送電コイル側に電力を流して発生する磁界を受電コイル側は受け取り、デバイス側で電力に変換して給電を行なうというもので、同様の技術には「電磁誘導方式」もあり、数mm程度の近い距離ではどちらも同等(やや電磁誘導の方が有利だという)の給電が行なえる。
しかし、電磁誘導方式では送電・受電コイルを離すと給電が行なえない。一方磁界共鳴の原理を使った磁界共鳴方式では、数cmから数mの離れた位置や、送電・受電コイルの位置がずれた場合でも、効率良く給電できるのが特徴だ。また、複数のデバイスに対して同時に給電できるのも特徴で、「電磁誘導方式はすぐに実用化できるが、応用性は磁界共鳴方式の方が高い。将来有望な技術」(富士通研究所ITS研究センター主管研究員 田口雅一氏)だ。
この磁界共鳴方式のワイヤレス給電技術自体は他社も開発しており、「目新しいものではない」(同社)が、今回はその給電システム開発に当たってさまざまな条件を解析して、設計するための技術を開発した。従来、「一晩や二晩」(同)かかっていた解析を高速化し、10分未満で解析できるようになったそうだ。解析・設計時間は従来の150分の1にまで短縮でき、しかも解析を高精度に行なえるようになったという。
ワイヤレス給電を実現するためには、内蔵するデバイス自体の部材やバッテリー、回路など、さまざまな干渉が起きる可能性があり、多くの要因を解析して設計する必要がある。また、複数のデバイスに同時給電する場合、そのデバイス間で干渉を起こして給電できない場合があるので、こうした点も解析しなければならず、そこで多くの時間が必要になっていたという。
新技術では、電磁界解析と電流/効率解析で2つのシミュレーターを用い、解析の役割分担を行なうことで高速化を実現。専用回路シミュレーターによって複数デバイスの解析にも対応したという。
今回の技術を使い、既存の携帯電話に受電デバイスを組み込み、送電台を使って2台の端末に同時給電する試作機も開発。電力効率は85%、給電可能距離は15mmとなっており、通常の電源ケーブルを使った場合と同程度の時間で満充電できるシステムだという。なお、今回の試作機は、国内の電波法や電波防護基準のガイドラインに抵触しない形で開発されているという。
同社では、まずは携帯電話やノートPCといったモバイルデバイス向けへの展開を考えており、12年には実用化にこぎ着けたい考えだ。現在の電波法などの法制度の中では、大電力、長距離のワイヤレス給電は難しいが、総務省の電波政策懇談会がまとめた「電波新産業創出戦略」では、2015年までに「ワイヤレス電源供給」を実現するとしており、VHF帯とマイクロ波帯ISMバンドが利用できるよう検討する方針を示している。
こうした点を踏まえ、同社では2015年をめどに電気自動車のような大型機器、微細化技術によりLSIへの搭載といった応用研究も進めていきたい考えだ。