エリアLOVEウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」第23回

日本中が熱狂したあの万博から55年 2025年開催の「大阪・関西万博」はSDGsとデジタル時代でどうなる?

文●土信田玲子/ASCII 撮影●曽根田元(人物)

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提供:2025年日本国際博覧会協会

 大阪・関西万博が開催される2025年が近づいてきた。SDGs時代におけるESMS(Event Sustainability Management System)、バーチャル万博やオンラインによるサイバー万博、会場でのDX万博の実現はどうなるのか? 2005年の愛知万博(愛・地球博)で当時、話題を呼んだロボットプロジェクトや愛・地球広場などを手掛け、今回も会場運営プロデューサーを務めるシンク・コミュニケーションズ代表取締役の石川勝氏に、エリアLOVEウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/大阪・関西万博会場運営プロデューサー、 株式会社シンク・コミュニケーションズ代表取締役 石川勝

大阪のすごい万博熱の背景には1970年の成功体験と旦那衆文化

――石川さんにとって、2度目の万博を手掛ける中での手応えは?

石川「まず、大阪の万博熱がものすごいこと。これはぜひお伝えしたいですね」

――民間企業も多数参画しています

石川「お声が掛かった当初は大丈夫かな?と思いましたが、大阪の人たちの熱量に触れたら、もうビックリしましたね。東京とは全然違う」

――参画企業の方が率先して進めていますよね。言われたからではなく

石川「大阪の地域文化もあると思いますが、その根っこには間違いなく1970年の大阪万博がある。僕は59歳ですが、当時小学生だった同世代の人たちが今、企業のリーダー層になっています。あの時の幼少体験を前提に、この万博を成功させたいと皆さんがおっしゃっていて。

 それに大阪には東京と比べて、旦那衆の文化がまだ残っていますよね。自立しながら資金を集めて社会的な責任を果たす、社会に対してアクションを起こすという文化です」

――大阪城の天守閣や中之島公会堂なども、民間が造りました

石川「旦那衆文化も相まって、今回の万博は誘致の時からすごい熱量があった。誘致が上手くいったなら、次は絶対成功させなきゃいけないと。それが本当に素晴らしい。

 でもちょっと冷静に見ると、70年万博と今では時代が全然違ってきている。70年代は大衆の時代。世の中の中心に大衆がいて、大衆向けの商品がたくさん増えて、万博に行くのも『みんなが行くから自分も』っていう行動様式だったんですよね」

――70年万博の総動員数は約6400万人

石川「一番多い日は1日82万人、すごいですよね。そういう大衆の時代に対して70年万博は大成功したけれど、同じことを今やってもダメでしょう。今は多様性の時代。具体的にはマルチクラスターやロングテール、価値観を共有する塊がある。その人たちの間では、同じものに向かって意思疎通が図れる1つのクラスターができていて、でも隣の違うクラスターだとまったく関係ない。それがずっとロングテールを成しているのが今の社会だと思います。

 そういう時代だから、いろいろなクラスターの人たちがどのように万博を受け止めて楽しめるか?がポイントで、多様性の時代ならではの万博を作っていきます」

アナログからデジタルへ DXで大きく進化する万博

――今回の万博は愛知万博での経験を踏まえてどう変わっていく?

石川「53年前の大阪万博と18年前の愛知万博、そして今回の万博との決定的な違いは、スマホとSNSの存在ですね」

――愛知万博の時に、iPhoneはまだなかった

石川「当時は、まだ世の中がアナログだったんですよ。70年万博からのアナログ的な文化が残っていて、それこそ角川アスキー総研の遠藤諭さんが、デジタルの黎明期から関わってきて、将来は何か違う世の中が生まれるんじゃないか、というワクワク感みたいなものがちょうどオーバーラップしていた時期で。未来のテクノロジー、デジタルが作る未来みたいなものがいろいろと展示されていた。

 あの時、僕は40歳ぐらいでしたが、意思決定するのはその上の世代。彼らの育ってきた価値観も、アナログ時代のものが色濃かったんですね」

――とはいえ、極小ICチップの導入は超先進的でしたね

石川「パビリオンの予約システムで、入場券にICチップを入れたんですよ。今、ユニクロのセルフレジでやっているような仕組みですが、実装はこの愛知万博が初めてでした。

 入場券はもちろん紙やカードでも用は足りるけど、そこにRFID(Radio Frequency Identification=電波を用いてICタグ情報を非接触で読み書きする技術)があることで、未来の世の中を入口から、もっと言えば開幕前からチケットを持って体験してもらえる。それはすごく上手くいきましたね」

2005年愛知万博での極小ICチップを導入した入場券

石川「ただICチップはコストが高くて。当時は、多くの企業の協賛によって実現できましたけど、最初のRFIDは入場のゲート認証だけで、実はすごく中途半端だったんです。でもRFIDを付けることで、万博来場者1人1人にユニークIDを振れるので、いろんなことができるようになります。

 そこでパビリオン予約をRFID入場券とセットにして導入したのですが、結局パビリオンで並んで待つなら、整理券で運用するのが一番確実だ、みたいなアナログ思考がまだ色濃くあって。それでも、せっかく導入したから少しは活用しようとしたけれど、会場全部合わせて1日2万人分の枠しか取れなかったんです。1日20万人も来る万博なのに2万人分だけ。さらにパビリオン予約をネットでやったら、1日2000万件もアクセスが殺到して、サーバーがパンクしちゃったんですよ」

――その経験を糧に、今度はDX万博を実現できそう?

石川「できます。愛知万博では、未来はこうなるという技術の展示はあったけれども、万博そのものはアナログだった。現実には整理券方式でゲート前に大量のお客さんが並んだり、整理券を求めてダッシュしたりしていました。

 もちろん行列はゼロにはなりませんが、愛知万博のような猛烈な混雑はテクノロジーの力を使って間違いなく改善できると思っています。今回は物理メディアではなく、スマホの電子入場券が使えます。紙の入場券も併用しますが、スマホが普及したことは大きいですね。

 さらに、先ほどお話ししたユニークIDが全員に振られるので、1人1人にオーダーメイド型のサービスができます。来場者エージェントみたいに、おすすめコースはここです、とか。また今回は何といっても、入場予約制を初めて導入します。一見、手間が掛かりそうですが、お客さんには混んでいる日と空いている日が事前に分かります。すると、わざわざ混雑する日に行きたい人はいないから、空いている日を選ぶ。その空いている日にチケットが安ければ、もっとそっちに流れる。こうして平準化することで、大混雑は間違いなく緩和できます」

大催事場でのプロジェクションマッピングのイメージ 提供:2025年日本国際博覧会協会

――バーチャル万博、サイバー万博はどうなる?

石川「バーチャルで行ったからリアルでは行かなくていいや、とはならないですよ。バーチャルにリアルの全てがあるなら、行く意味なくなっちゃうじゃないですか。そうではなくて、例えばアニメの第10話までは無料で見られて、最後の結末は映画館で。そういう関係性が作れれば、お互いに役割ができるのでぜひそうしていきたいなと」

――第10話まで無料公開って、まさに現代の感覚ですよね。絶対プラスになるし、オンラインで魅力的に作れれば、必ずリアルにフィードバックできる

石川「1つ1つのコンテンツについては、それぞれの参加者に期待するしかないんですが、大きな方針として、そういうところを共有できれば、面白いものになるんじゃないかと思います」

――運営側のDXも革新的なものになりそう?

石川「デジタルテクノロジーのすごくとんがったものを運営に取り入れるのには限界があるので、それは展示でやります。ただ、すごく進化して世の中で成果を挙げている先進的な技術は、積極的に運営に取り込んでいこうと思います」

愛知万博のロボットプロジェクトは今ではかなり実用化されている

――万博の花形と言えばロボット。石川さんが愛知万博で手掛けたロボットプロジェクトも、かなり先駆けでしたね

石川「ただ、スタートが遅かった。愛知万博は"自然の叡智"をテーマにいろんなプロジェクトを作っていきましたが、環境技術やエネルギーのようなことが中心だったんですね。環境とは、何かどこかで文明を否定するような匂いがある。人間が今まで築いてきた文明は、地球に悪い影響を与えているんじゃないか?という思いもあって。万博の『未来はバラ色』みたいな方向性に対して、少し距離感があったんです。

 でもやっぱり、万博では“明るい未来”を見たい。そういうものは必要だということで、環境系が一段落してから、未来型技術としてロボットを入れました。すると国も、それが絶対いい!とバックアップしてくれて、予算が付いてスタートすることになったんです」

――今となってはロボットなしの世の中は考えられません

石川「2つあったロボットプロジェクトのうち1つは、万博での6か月間の実証実験で、清掃ロボットや警備ロボットなど実用間近なロボットを動かすというものでした。万博会場は擬似的な都市環境なので、そこで半年間ちゃんと動けばロボットの信頼性も上がるし、それを見た人たちが、やがてロボットのユーザーになっていく。そういう効果を狙ってやったんですね。これはこれで上手くいきましたけど、地味なんですよ。なぜなら清掃ロボットは、お客さんが帰った後に動くので」

2005年愛知万博での清掃ロボット

――夜間に清掃ロボットが動いていると、当時話題になりましたが

石川「お客さんはそれを見られないから、プロジェクトの存在感が出てこない。そこで未来型プロトタイプを集めた展示会を、モリゾー・キッコロメッセでやったんですね。公募したら全国の企業と大学から、65種類も集まってくれました。当時のコンセプトが『2020年人とロボットが暮らす街』で、その2020年はすでにもう3年前ですけど、当時はきっとこうなる、と。手術支援ロボットやカフェなどで応対するロボット、HAL®など装着型のロボットスーツ、自立移動する車椅子などが展示されましたが、その後かなりの割合で実用化されましたね」

2005年愛知万博での案内ロボット

――もはや予言でしたね

石川「その展示会でも1つのチャレンジがあって。プロトタイプだから、基本的に開発した人じゃないと動かせない。そこで実際の展示は11日間ですが2週間、開発者に来場してもらい、研究室から実験機材を全部持ち込んで動かしてもらったんです。1台のロボットを動かすのに10人ぐらいいるというカオス状態で(笑)。

 でも普通、これは展示会では禁じ手とされていることです。動くかどうか分からないものをお客さんに提案するなと。動かないロボットはショーケースに入れて、隣でちゃんと動いている様子の映像を見せるのが常套手段だという。『そんなの絶対嫌だ』と言い張って、止まってもいい、むしろ止まることの方が面白い。もうギャンギャン言われましたけど、やってみたら結構面白いと評判になって、今ではそのスタイルが増えていますよ。

 実際に研究している人と直接会話ができたのもすごく面白くて、愛知万博協会長だった豊田章一郎さんも来て下さり、研究者と長い時間話されていましたね。大学院生なんか、まさか豊田さんにガンガン質問されるなんて、夢にも思ってなかったですから」

――今回のロボットプロジェクトはどうなりますか

石川「今回もいろいろな形で出るでしょう。ひと言でいうと、もうロボットは実用の段階に入っている。2025年は『人とロボットが暮らす街』と言っていた2020年から、5年も過ぎているわけですから、とっくに暮らしている状態になっているんですよ。今だって、ファミレスに行けばロボットが運んでくれるじゃないですか。

 世の中がすでにそうなっているのに、万博会場で“未来はこうなる”なんて言ったらおかしいので、ちゃんとそういう進化は取り入れていくと思います」

「未来を覗く窓」3つの課題と実践

――ESMS、DX、クリエイティブ・ドリブンという、3つの課題の具体的な実践は?

石川「バーチャルとESMS(Event Sustainability Management System=イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム)は、そんなに深いつながりはないかもしれないけれども、ESMSもまた大事で、2012年のロンドン・オリンピックから始まっているんですね。世界的に持続可能なものが求められていく中で、大規模イベントだけは例外とは言えない。ロンドン・オリンピック以降、万博もそれを継承しているので、当然僕らもやるわけです。例えば万博が終わった後に、大量の産業廃棄物が出ないようにするとか」

――2021年の東京オリンピックでもフードロスが話題になりました

石川「リサイクルやリユースを組み込んで計画するんですが、そこでさっきの入場予約システムのメリットが出てくるわけです。主催者側が明日や来週の入場者数を把握できるので、それに最適化した供給が可能になる。フードロス対策にも有効です」

――やっぱりDXは生きてきますね。リアル会場では、例えばスマホを使ったVRなどミックスリアリティみたいな部分も期待できますか?

石川「いろいろとコンテンツを作ってもらっている最中で、イベントも行う予定です」

――一見、普通の会場だけどガジェットを着ければ、いろんなデジタル展示が見えるとか

石川「パビリオンの中には、増えると思います」

――クリエイティブ・ドリブンについてはいかがです?

石川「クリエイティブ・ドリブン(クリエイター主導)は、主催者サイドで言うと8人のテーマ事業プロデューサーに尽きます。例えば愛知万博の協会企画事業では、最初に広告代理店や我々のような者が計画を作り、そこに協賛社を集めて財源が固まり、じゃあクリエイターは誰に頼もうか、という順番が普通だったけれども、今回はクリエイターが一番に来ています。まずクリエイターがこういうものを世の中に発信したい、という動機があって、それに賛同する企業からの協賛金の中でクリエイターに作ってくれ、と。まるっきり手順が違うんですよね。

 クリエイティブ・ドリブンはすごく挑戦的な手法ですし、恐らくこれからの時代、産業やビジネスの世界では、そういうやり方をしないと立ち行かないことがいっぱい出てくるでしょう。その1つのモデルを示すのに役に立つことが必ずあると思います」

――8人のプロデューサーによるパビリオンが展開される「テーマ事業」と、もうひとつ「テーマウィーク」とは?

石川「テーマ事業とテーマウィークは、それぞれ違う事業なんです。テーマ事業は8人のプロデューサー、8人のクリエイターたちが、自分たちの思うことを実現するもの。テーマウィークはいろいろな国から寄り集まって、週ごとのテーマについて対話をするというものです」

――今度の万博でも、そういう仕掛けを生かせる?

石川「2020年のドバイ万博で行われたことにはすごく敬意を表して、それをしっかりと継承し発展させて、次にバトンを渡すことが大事かなと。ちゃんと受け継いで次に渡すことで、これからの万博に定着していくと思っています」

――これまでにも、アブストラクトエンジンの齋藤精一さんを中心に、ものすごい数のシンポジウムを行ってきましたよね

石川「齋藤さんが本当に精力的で。またテーマ事業プロデューサーの中島さち子さん(音楽家、数学研究者、STEAM教育家)の試みは、まさにSNS時代の象徴ですね。従来の万博では、開幕まではこういうことをやるとマスメディアを使いながら、限られた情報発信をしましたけど、何をやるかは開幕してみないと分からなくて、会場に来て初めて分かるものでした。実はそこに至るまでのプロセスが重要で、テーマに基づいていろんな人たちが交流することが大事じゃないですか。それができるようになったんです」

――開催する半年間だけじゃなくて、前と後も含めた全部がプロジェクトだと

石川「中島さんとも早い段階から、そこは大事だからねと話していました。またテーマウィークについても、開幕前から閉幕後までインターネットで発信します。会期前も含めプログラムはバーチャル会場からも発信し、閉幕後は動画等をアーカイブとして残していきます」

屋外イベント広場イメージ 提供:2025年日本国際博覧会協会

ドバイで生まれた新たなレガシー 万博を世界各国の対話の場に

――2020年のドバイ万博について、9割は従来型のブラッシュアップだけど、1割のテーマ発信とビジネス交流がすごいと評価されていますが、クリエイティブ・ドリブンなども含め、ドバイを超えられそう?

石川「ドバイはすごく良かった。9割は従来のシステムをきっちり合理的に、ハイクオリティで実現していました。それはクリエイターが、ちゃんと役割を果たしたからこそです。会場はアラベスク模様で美しかったし、運営も秀逸。これはクリエイターを始め関係者のプランニングがしっかりしていたという証だと思います。

 残り1割の部分は、テーマウィークで万博を世界の対話の場にしたこと。過去の万博で誰もできなかったことを、ドバイはやってのけたんですね」

――一方的に見せるだけではなくて

石川「従来は、集まれと言ったら集まって、終わったらサヨナラだったけれど、そこで好き勝手を言うだけじゃなくて、対話を促していくことが面白いですよね。

 考えてみると万博は半年間、同じ場所に世界が集まっています。こんな仕掛け、イベントなんてほかに存在しない。ダボス会議だって数日間じゃないですか。半年間も世界が同じ場所に集うのは万博しかないわけですから、この場を生かして対話を深めることは、すごく意味がある。万博はもともと、文明が成し得た素晴らしいものを披露する目的だったけれど、1994年のBIE(博覧会国際事務局)決議で、未来に対しての地球規模的な課題解決機構になった。これを進めるには対話が一番合理的な方法で、それをドバイ万博が見事にやったんです」

――昔のパリ万博みたいに歴史の大きな転換点になった

石川「対話とは、お互いの言葉と言葉でイメージを膨らましたり刺激を受けたりするんですが、その先のアクションも大事で、それはビジネスです。万博にビジネスマッチングという仕組みを取り入れたのが、ドバイのもう1つすごかったところですね。

 ドバイは国自体が、世界中の資本を集めて成り立たせているから、すごく意欲的でした。会期中にマクロン仏大統領が来て、UAEがフランス製戦闘機を何十機も購入したとニュースにもなったじゃないですか。トップ外交をうまく取り入れるというのも、ドバイはとても上手にやっていました」

――そうしたレガシーを残していくことも大事

石川「ただ、僕は万博のレガシーの中身を最終的に突き詰めていくと“人”だと思うんですよね。TEAM EXPOに参加した人、協会に出向で来た人、パビリオンを展示した人たちも。

 万博というプロジェクトに参加する時間を過ごした人たちに残るものは、絶対プラスに働くに決まっています。そこで出来たネットワークで普段じゃ出会えないような人たちともつながるわけですから」

――物理的な面から言うと、松井一郎・大阪市長は夢洲をただの跡地ではなく、観光拠点にしていくとおっしゃっていますが、跡地の活用は?

石川「閉幕後のことは担当外なので分かりませんが、ドバイでは、Optiという警備ロボットが話題になりましたよね。あれはテルミナス社(中国のAIロボット会社)製ですが、万博跡地に拠点を造ると表明してオフィシャルスポンサーになり、会場内のロボットを独占したんです。

 そうして跡地の活用計画ありきで開催したのは、すごく合理的ですね。ただ、今回はそうなっていないので、ソフトレガシーを残していくことに尽きるんですけども」

――私、玉置は万博公園運営委員会の審議員もしていまして、あのエリアには日本最大級のアリーナを造り、その一帯を先進的スマートシティ化するという計画がある。50年を経て70年万博の経験も生きてきている。だからこれからの万博も、ドバイのように閉幕後の都市計画に組み込まれるといいですよね

石川「使用後の資材なども、そのまま産廃にはせず後利用を考えるので、ハードレガシーも消滅するのではなく、いろんなところに分散していくということですね。でもドバイのように、その場に魂を残す形もいいと思います」

提供:2025年日本国際博覧会協会

民間企業が万博に関わるメリット 未来につながるリターンは必ずある

――企業が万博にどう参画するか、いわゆるESG(Environmental, Social and Governance)についてはどうですか

石川「昔はトップが『万博出るぞ』と言ったら、それで決まりの時代でしたが、やっぱり今は、そうも行かなくなっている。会社としてROI(Return of Investment)、効果がどうなのか、その企業にとって、どういうメリットがあるかのバリューが問われるわけですよ。濃淡はあれども、ほとんどの企業はそこをしっかり意識してくるので、僕らはそれに応えるものを用意しなきゃいけない。それがもうESGそのものだと。

 万博は、すごく社会性があり環境にも優しいとか、企業のガバナンスにとってもプラスになる、人材育成やブランドイメージのアップにもつながる、といったエビデンスをしっかり用意して参画を促す。そこに大阪ならではと言える、万博は必ず成功させなきゃいけないというモチベーションとがうまく絡み合って、今、おかげさまで多くの企業が参画してくれているというわけです。

 僕は2020年7月にプロデューサーに就任したんですが、その直後に立てた基本マスタープランの中で、ESGをどうするか、特に環境はどうするかという話をしました。でも正直なところ、当初はわりと軽く考えていたんです。ところが半年ぐらいであれよあれよという間に、特に脱炭素に対する社会の重要性、注目度が高まっていった。これにちゃんと向き合わないと企業が参画してくれないことも明らかになってきましたから、とにかくしっかりやろうと。金融業界が脱炭素に向けて、大きく動いたことが影響していますよね」

――最初に石川さんからもお話がありましたが、関西の経済団体や企業は万博開催に熱心で、儲からんでもオモロイからエエんや、と夢を見る旦那衆がたくさんいると。さらに環境など社会にフィードバックできる万博になれば、まさに本当の意味でのESGになっていきそうですね

石川「とはいえ、出展すれば何億の投資ですから、企業としてはそれに対するリターンがなければ。でもそれはお金で返ってくることだけではなく、ブランドイメージのアップや人材育成とか、未来につながるリターンが必ずあるんだ、ということを僕はしっかりと伝えていきます」

コロナ禍でのマイナスの影響も万博でプラスに転換していける

――最後にコロナが万博に与えた影響と、万博が目指すこれからの世界について

石川「コロナの影響では経済の停滞で、多くの企業も本業が打撃を受けている中で、万博なんてなかなか考えられない、ということも確かにあります。

 ただ今回は、『いのち』がテーマになっています。これだけのパンデミックを経験して、命の大切さに世界中が関心を持ったわけです。それに対して次の世の中をどう作っていくのか、それこそ対話しながら世界の共通理解を築いていくのも、万博だからこそできること。コロナで受けたマイナスの影響を、万博でプラスに転換していく。それをしっかりやっていきたいと思っています」

 1970年に万博が開催された大阪で、55年後の2025年、2度目の万博が行われる。DX化などテクノロジーが進化する一方で、世の中ではSDGsが求められてもいる。そしてコロナの世界的パンデミックを経た今、半年間も世界中の国々が一堂に会する万博だからこそできることがある、と熱く語る石川氏。大阪・関西万博では、地球規模の課題解決に向けて世界がフラットに対話する場にもなるという、ドバイ万博が生んだレガシーを受け継ぎつつ、夢のある未来をも見せてくれるに違いない。

石川勝(いしかわ・まさる)●1963年、札幌市生まれ。プランナー/プロデューサー。株式会社シンク・コミュニケーションズ 代表取締役。2025年大阪・関西万博 会場運営プロデューサー、大阪公立大学客員教授。2005年愛知万博ではチーフプロデューサー補佐として基本計画策定に従事、ロボットプロジェクト、愛・地球広場、極小IC入場券をプロデュース。ロボット分野、コンテンツ技術分野に専門性を持ち、東京大学IRT研究機構プロジェクトマネージャー・IRTコンテンツ部門長(2006-2016)なども務める。プライベートでは大型自動二輪免許を持ち、バイクで旅に出るのが楽しみ。

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。現エリアLOVEWalker総編集長、KADOKAWA拠点ブランディング・エグゼクティブプロデューサー。ほか日本型IRビジネスリポート編集委員など。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。「70年万博の時は、小学3年生だったが6回通った。今回の大阪・関西万博では、還暦を越えた大人としてさまざまに関わっている。そういえば、2005年の『愛・地球博』では、食のパビリオンの専門委員だった。結局、万博が好きなのだ。ワクワク! 2025年の万博で何が起きるのか、楽しみで仕方がない今日この頃である」

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