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学生のやる気が高まる3D都市モデル。テンションを保つ工夫とは?

~アカデミア研究開発事例~【後編】

特集
Project PLATEAU by MLIT

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この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 アカデミア発の研究成果やゼミ学生への教育として、ゲームエンジンを使った都市空間シミュレーションを多数制作している文教大学情報学部情報システム学科の川合康央研究室。後編では、川合康央教授に、現在の取り組みやPLATEAUを使って今後やってみたいこと、そして、これからはじめるひとへのアドバイスを聞いた。

大きなデータは小さく切って軽量化する

 ――今回PLATEAUを用いるにあたって、技術的な考慮点、難しかった点、工夫すべき点などをお願いします。

川合:一番は、データの重さです。大きなデータを扱うので、それなりに時間がかかります。慣れれば問題ありませんが、学生が初めて扱う場面では、処理中なのか、それとも止まっているのかがわからないことがあります。また、同じ方法で東京都ではうまくいったけれども、横浜市ではうまくいかないなど、地域によって、少しデータ設定が違ってくることもあり、そのあたりも考慮が必要です。

 PLATEAUでは、地形データの範囲は2次メッシュ、建物データは3次メッシュというように、地域の大きさが異なるデータが組み合わされているので、たとえば、LOD2の建物データと地形データを組み合わせると、地形データが、とても大きな範囲になってしまいます。不要な部分をカットして使うとか、そうした工夫も必要です。

 一方でデータの大きさ・重さとの兼ね合いで矛盾するのですが、今後出てくるであろうLOD3やLOD4などのより詳細なデータが都市の近景にあると面白いですね。

画像提供:川合 康央氏

 ドライブシミュレーターで言うと、テクスチャーデータがLOD2なので、近くまで行くと、これはテクスチャーだとわかってしまいます。津波避難シミュレーションも、今は三人称視点というか、神の視点で見ているわけですが、一人称視点で見てみようとすると、高解像度データとかLOD3とか、あるいはLOD4であれば建物内避難や垂直避難など、さらなる検討ができるので、面白くなってきます。その一方で、よりデータが大きくなってしまうので、いったいどうやって実現するんだろうというところは、課題でもあります。

[補足] メッシュは、正式には「地域メッシュ」と呼ばれるもので、国土を緯度・経度により方形の小地域区画に細分したもの。総務省が定めたもので、国勢調査をはじめとする、さまざまな統計の区切りとして使われている(https://www.stat.go.jp/data/mesh/m_tuite.html)。PLATEAUで提供される主な地図は、約10km四方の「2次メッシュ」や約1km四方の「3次メッシュ」で区切られている。

――2次メッシュと3次メッシュのお話ですが、具体的に、どのように分割するのでしょうか。

川合:これは難しいです。航空写真は横に10分割して、さらに縦に10分割すればよいだけなので、画像ソフトで単純に切ってしまえばよいのですが、3Dモデルに関しては、ツールでカットしようと思っても、変な形にポリゴンが割れてしまったりするので、課題のひとつです。きれいに形が切れていません。

知っている街の3Dモデルは、モチベーションが上がる

――PLATEAUを使ったり、都市空間シミュレーションシステムを作ったりしたいと思っている人に向けて、ここから学ぶとよいというアドバイスをお願いします。

川合:ゲームエンジンやコンピューターグラフィックスというのは、最初のモチベーションをもたせながら使っていくことが大事なのではないかと思います。

 たとえばLOD2のデータは、学生が最初に触ったときに、すごくモチベーション上がります。これは「知っている街の3Dモデルだ」ということで、テンションが上がる。テンションが上がるだけではなく、LOD2データをダウンロードしてUnityに入れてみる。そこでキャラクターを一人称視点で歩かせる。あるいは車のモデル、それも最初からあるようなものでよいので、それで街の中を走ってみる。そうすると、このモデルがどこまで作り込まれているかとか、あるいはスケールも修正しないとだめだとか、いろいろ一通りの手続きみたいなものができます。

 このように、まず、LOD2データをダウンロードしてゲームエンジンに入れる。そこで何かインタラクションのあるキャラクターを歩かせる、車を走らせるというところをスタートにするとよいと思います。

 ここを起点に、ほかの技術を取り入れていけば、さまざまなものが作れるようになるはずです。

 うちのゼミは情報系ですが、他の分野を専攻している人たちも、それぞれの使い方があると思います。

 たとえば僕はもともと建築学科でしたが、建築学科の学生にとって建物を設計するということは、建物単体で設計するのではなくて、周辺敷地の中で、その建物がどういったデザインや機能を持っているのだろうというのが大事です。

 建物の模型を作るときも、その建物だけではなくて、周りの建物をたくさん作ります。こうした模型でやってみるのと同じように、PLATEAUに含まれている本物のデータを使って、そこに自分の設計した建物をCADデータで置いてみると、ものすごく現実味を持ったプレゼンテーションができますし、考え方も変わってくることでしょう。

 実際にやってみると、こうした操作は、それほど難しくありません。昔のBlenderのほうが、よほど使いづらかったです(笑)。PLATEAUは、使いやすいデータセットなので、ぜひLOD2データから始めるとよいかと思います。

[補足] 昔のBlenderは、キーボード操作が多く、習得が難解なソフトだった。

――今まで、ほかの分野の先生に勧めたり、逆に何か聞かれたりしたことはありましたか。

川合:交通事故の話は、土木系の研究室からお声がけいただいてます。最初は車メーカーでしたが、そのシミュレーションを見たあと、土木の人からお話がありました。

画像提供:川合 康央氏

 サイクリングシミュレーターの活用についての話もありました。電動バイクが話題になったことがありますが、そのころ警察の方が、電動バイクは推進してよいのか、それとも止めたほうがよいのか迷っていて、検証してくれといった話です。

 実際に街中で電動バイクに乗って走らせることは、事故などのリスクもあり、研究倫理的に採用できません。そこで仮想空間のシミュレーターの中でやればよいのではないかと考えました。

 電動バイクは、こういう使い方であればよいのではないかとか、こういうシーンは危ないなど、自転車の事故と同じようなことが起こり得るケースと起こり得ないケースなど、いくつかの環境を作ってほしいという依頼をもらいました。いま、そうしたものを進めています。

 ほかにも、まだPLATEAUには落としきれてないのですが、観光との組み合わせも進めているところです。

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