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FIXERが支援し短期間でLINE公式アカウントを立ち上げ、サービスの拡充も進める

四日市市、LINE活用の行政サービス提供で気づいた「スピーディさ」の価値

2022年06月15日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 三重県の四日市市では2021年(令和3年)7月、LINE公式アカウントを開設して、LINEを活用した行政サービスの提供を開始した。まずはLINEのチャット型ナビゲーションを通じて、子育て、防災、ごみの収集日、コロナワクチン接種会場など、市民の関心が高い情報を市民が知りたいときに提供するサービスからスタートしている。

 さらに将来的には、市民からの各種相談や、市がオンライン化を進める各種行政手続きの“総合窓口”としての役割も期待される。こうした四日市市の取り組みを技術と企画の両面からサポートするのが、同市内に事業所を構えるFIXERだ。

 今回は、四日市市LINE公式アカウントの立ち上げと運営に携わってきた3氏に、これまでの取り組みの狙いや実績、FIXERとの提携、協業によって得られたものを聞いた。

四日市市LINE公式アカウントの画面。現在はさまざまな生活情報や防災情報、新型コロナウイルス情報などを、LINEでわかりやすく情報提供している

四日市市 ICT戦略課 基盤整備・情報グループ 課付主幹の丸山英之氏、主事の藤塚康博氏、主事の森本章裕氏

市民、市庁でそれぞれ抱えていた課題

 今回お話をうかがったのは、プロジェクトの立ち上げ時期に携わっていた丸山英之氏、サービスを公開した昨年度(令和3年度)の担当である藤塚康博氏、今年度(令和4年度)担当する森本章裕氏。つまり、サービスの立ち上げから現在までの歴代担当者3氏である。

 そもそも四日市市は、何を目的にLINE公式アカウントを開設することにしたのか。藤塚氏は、LINE活用をスタートする前に、市民側、市庁側でそれぞれ抱えていた課題を次のように整理する。

●市民側で抱えていた課題
・自分の欲しい行政情報は、市のホームページにアクセスして取りに行かなければならない
・市のサイトには膨大な情報が掲載されており、自分の欲しい情報を見つけにくい
・行政手続きや申請を行う際は、市庁舎や市のサービスセンターまで出向く必要がある

●市庁側で抱えていた課題
・市民向けにプッシュ型の情報通知を行う汎用的なツールがない
・コロナワクチン関連など特定の情報を必要とする市民、子育て世代の市民など、属性別に発信できる情報提供ツールがない
・今後、行政手続きの電子化を進めるうえでは、スマートフォンを使って容易に申請フォームまでたどり着ける“入口”が必要となる

 防災やゴミ収集といった一部の用途を除くと、四日市市では市民に対してプッシュ型で情報発信できるデジタルツールを持っていなかった。藤塚氏は「情報ニーズがあるのはわかっていても、それを届ける良い手だてがありませんでした」と振り返る。

 情報発信や電子申請のツールとして、国が運用する「マイナポータル」を使うことも検討した。だが利用者側でマイナンバーカードが必要になるなど、利用のハードルの高さが難点だった。「その一方で、LINEはすでに多くの市民がスマートフォンにインストールしており、親しみやすいツールでした」と丸山氏は説明する。

 当時、他の自治体でもLINE公式アカウントを行政サービスに活用する動きが始まりつつあったこともあり、四日市市でもLINE活用の検討を開始した。そこにFIXERからLINE活用についての提案があり、令和2年度末(2021年3月)ごろからその動きは一気に本格化した。

提供するサービスを徐々に拡充、リアルタイムな情報提供も

 四日市市がLINE公式アカウントを開設したのは、令和3年(2021年)7月のことだ。その後は市庁内の各部局に協力を依頼して、提供するサービスを徐々に拡充させてきた。なお、システムはLINE Fukuokaが提供する「LINE SMART CITY GovTechプログラム」のソースコードをベースにFIXERが開発を行い、Microsoft Azureクラウド上に実装されている。

 四日市市のトーク画面を開くと、わかりやすいボタンやチャット型の情報ナビゲーションが表示される。さらに「受信設定」ボタンを押すと、「コロナウイルス関連」「安全安心防災メール」「学校給食情報」「市議会情報」など、セグメント別の情報受信設定もできるようになっている。市民自身が必要な情報を選ぶことで、プッシュ型の情報配信が受けられる仕組みだ。

市民自身が指定して、プッシュ型の情報配信が受けられる受信設定機能。市内小中学校の給食献立を配信するサービスも

 リアルタイムな情報を発信するサービスもある。市立図書館では今年3月から、職員が館内や駐車場の混雑状況をリアルタイムに発信し始めた。「職員が目視で確認して混雑具合のボタンを押すというシンプルな仕組みですが、利用者からは好評をいただいています」(藤塚氏)。

四日市市立図書館では、開館カレンダーなどの情報に加えてリアルタイムに混雑状況を発信している

 さらに、新たな機能/サービスの追加を目指して実証実験も行っている。たとえば、市内の道路で見つけた損傷箇所を写真に撮ってLINEで報告することで、自動的に工事業者に通知され、迅速な改修につなげるという機能だ。現在はまだ一般公開はしておらず、市の職員による“ベータテスト”の最中だという。

 「道路の損傷状況をスマホのカメラで撮影し、地図上で場所を指定したうえで送信してもらいます。すると、自動的にその地域を担当する道路の工事業者にメールが送信され、業者はすぐ現場に向かうことができます。同時に、その報告は『Backlog』(プロジェクト管理ツール)にも登録されるようになっており、市庁の担当職員はBacklogを見ることで補修作業のステータスが確認できます」(藤塚氏)

「友だち」数は2万人まで成長、市庁内での横展開フェーズへ

 市庁内各部局の協力を得ながら、地道な広報活動とサービスの追加/改善を続けた結果、市民からの「友だち申請」は順調に増え、令和3年度末には登録者数が2万人を超えた。ユーザー数が増えたことで「市庁内の各部局でも徐々に、LINEを使った情報発信に対する認知が高まってきました」(藤塚氏)。

 それに加えてセグメント別のプッシュ配信など、今後のサービスの土台となる機能も出来上がった。これからは、市庁内の各部局から協力を得て、このLINE公式アカウントを通じてより幅広い市民サービスが受けられるようにしていくことが目標だ。

 「開始当初は市民の友だち登録数もまだ少なく、忙しい各部局に協力をお願いしづらいという気持ちもありました。しかしその後、登録数は順調に成長しており、各種サービスの土台となるLINE機能も実装できました。これまで実現してきたサービスは他の自治体とあまり変わらないですが、今後はさらに幅広い部局の協力を得ながら、四日市市独自の取り組みも検討していきたいと考えています」(藤塚氏)

 今年度から担当となった森本氏は、これまで税金関連の窓口部署にいた経験を生かし、「窓口が混雑しやすい時期をお知らせして混雑を緩和したり、納税忘れを防いだりといったサービスができれば、市民に役立つものになると思います」と語る。

 また、まだ活用していないLINEの基本機能についても、サービスの中で活用できないかどうかを検討していく方針だ。

 「たとえば、LINEにはキャッシュレス決済機能があります。四日市市では今後、さまざまな行政手続きを電子化していく方針ですが、その手数料の支払いにこの機能が使えないか。ほかにもLINE上での相談/問い合わせ対応など、市民の利便性を高められるような取り組みを検討していきます」(藤塚氏)

 国が策定した「自治体DX推進計画」に基づき、四日市市では2022~2027年度(令和4~7年度)の4年間を対象期間とする「四日市市情報化実行計画」をスタートさせている。計画の中には行政手続のオンライン化も含まれており、上述のような仕組みも検討できる。

FIXERから学んだ「スピーディーさ」を業務改革に生かしたい

 四日市市がLINE公式アカウントを立ち上げるにあたり、なぜFIXERをパートナーに選んだのか。市内に事業所を構えているだけでなく、「四日市のIT化に造詣が深いと考えたため」だと藤塚氏は説明する。

 「前年(2020年3月)には当市と『高度IT人材育成にかかる連携協定』を締結しており、四日市市のIT化に造詣が深い会社だと考えました。また、LINEのさまざまなサービス導入についても知見を持っていたことから、LINE活用を考えるうえで良いパートナーだと考え、契約を締結しました」(藤塚氏)

 上述の高度IT人材育成だけでなく、FIXERでは市のプレミアム付きデジタル商品券「よんデジ券」やデータプラットフォームなどの事業にも関わっており、LINE公式アカウントの取り組みでも「総合的な視点で、市民や企業の利便性を向上させるさまざまな提案をしていただけると期待しています」と述べる。

 立ち上げ期の担当者である丸山氏は、FIXERから「スピーディーさ」を学んだと振り返る。市役所という組織は、基本的に年度単位で業務を執行していく「堅実だがスローなカルチャー」(丸山氏)である。その中で、今回のLINEサービスはわずか3か月ほどの短期間で立ち上げられ、その後も短いサイクルでサービスや機能の改善を繰り返している。丸山氏自身も「刺激を受けました」と語る。

 「FIXERからは、いろいろな行政サービスについてとてもスピーディーに提案していただきました。企業としては当たり前なのかもしれませんが、市役所にとっては、そういうスピーディーなスタイルはまだまだ“チャレンジ”です。しかし、市民の方はスピーディーな対応を望んでいます。少し大げさかもしれませんが、これが市役所全体の仕事スタイルや意識を変革するきっかけのひとつになるかもしれない、と期待しています」(丸山氏)

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