本連載の前回で、手首にあるApple WatchのSuicaの精算処理で、自分に情報が書き込まれるような感覚を覚えた、という話をしました。
これは、身に着けているApple Watchに対して、改札にあるICカードリーダー/ライターから情報が書き込まれるごとに、手首が振動してそのことを通知してくる様子を見て、自分に情報が書き込まれていく感覚を覚えたのです。
身体的には何も変わっていないけれど、書き込まれる以前は精算が必要な身だったのが、書き込まれたら精算済みの自分になっているわけです。こうした変化を体験して、チップが埋め込まれてそこに情報が書き込まれる感覚って、こういうことなのかな、と思いました。
WearableにHearable
このApple Watchと駅の改札での体験は、身に着けるウェアラブルデバイスで起きたことです。
そのときはAirPodsを装着してiPhoneから音楽を聴いていました。こちらもウェアラブルデバイスであり、iPhoneから音声を聞き取ったり、セカンドバージョンならHey Siriと先行動作なしで直接話してコマンドを送ることができます。これを「Hearable」(ヒアラブル、聞くことができる)なんて呼ぶ表現が生まれつつあります。
ちなみに英語では、Hearableより「Audible」の方が一般的なようですが、テクノロジー業界で「Audible」というと、Amazonに買収されたオーディオブックの会社のことを指すことが多いため、これを避けているのではないかと思います。
もちろんウェアラブルにしても、ヒアラブルにしても、デバイスとして身に着けられる、聞けるといった特性を実現していると同時に、その状態で人やコンピュータの役に立つよう、他のハードウェアとの連携やソフトウェア、アプリケーションからの情報の入出力できるようになる基盤も必要となることは、言うまでもありません。
そして、スマートウォッチとしてApple Watch以外がなかなか成果をあげられていないところを見ると、意外とこの基盤部分が難しくて、製品を活かすまでに落とし込めていないのではないかと考えてしまいます。
〇〇-ableな新しい何かを探す
これまでコンピュータを使う環境は非常にスタティックなものでした。部屋を1つ埋めるほどの巨大な計算機から始まって、デスク上に収まるようになった「デスクトップ」、膝(ラップ)の上に乗せられるようになった「ラップトップ」が登場しました。
そして、「モバイルノート」というカテゴリが、現在のコンピュータの主流となっており、タブレットを含めたモバイルコンピュータの割合は8割にまで高まっています。
「モバイル」という言葉はすでに日本でも定着していますが、英単語としては「Mobile」で移動できる、動きやすい、という意味で使われます。
持ち運べることが、コンピュータとしては非常に先進的だったのです。しかしいま、スマートフォンが当たり前になり、むしろモバイルではないコンピュータは2割のシェアしか無くなってしまいました。今までと異なる特性として「モバイル」とつけていましたが、それが当たり前になった、というわけです。
そして、これがだんだん、異なる「〇〇-able」の方向へと進み始めています。
スマートウォッチやアクティビティトラッカーなどの“Wearable”は、これまでものとして持ち歩いていたコンピュータを身に着けられるようになったことが特別です。
イヤホンやスマートスピーカーなどのHearable(聞くことができる)は、いままでモニターで見て確認しながら操作するのが当たり前だったコンピュータを、音をインターフェースとして活用することができるようになったのです。
このように、必然性や技術的な裏付けはもちろん必要になりますが、1つのアイディアとして、「動詞+able」をテクノロジーの未来の姿として考えていくことができるのではないか、と思いました。もちろん、すでにあるものの再定義になっても良いのかもしれません。
たとえば
・Breath(呼吸で取り入れられるテクノロジー?)
・Eat(食べられるテクノロジー? 英語的にはEdible。eatableはまだ傷んでない食べられるもの、という意味合いになってしまいます。)
・Embed(埋め込めるテクノロジー?)
・Fold(折りたためるテクノロジー?すでに今年は折りたたみ型スマホがアナウンスされています)
・Gaze(見つめるテクノロジー? 視線入力的なイメージ)
・Ride(電動スクーターなどの未来のモビリティ?)
などなど、すでに登場しているものから、なんだかよくわからないものまで、色々と考えていくことができます。
最終的には人がテクノロジーを体験することになるため、人間の認知や身体性、そもそも健康かつ安全に利用できるかという点も含めて検討されるべきですが、行動や身体性そのものを拡張する形でテクノロジーを利用するアイディアは、今後より活発に試されていくのではないか、と思います。
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