SLSを実装した初の商用製品
System/38
このSystem/36と並行して生まれたのがSystem/38である。System/38もまたSystem/34の後継機種であるが、異なるのはアーキテクチャーを大幅に変更したことだ。アドレスは48bitに拡張され、しかもSLS(Single-Level Store)アーキテクチャーが実装された。
これはアドレス空間にメモリーだけでなくストレージもマッピングするというもので、商用製品としてはSystem/38が最初のものとなる。
この結果として、ストレージアクセスが極めて容易になった。なにしろアドレスを指定するだけでストレージ上のファイルの読み書きが可能であり、さらにRDBMS(リレーショナルデータベース)の実行メカニズムをファームウェアで実装したため、データベース処理が大幅に高速化した。
ここまで改良するとプロセッサーもまったく異なるものになる。System/38ではさらに仮想マシンのご先祖様ともいうべきMI(Machine Interface。のちにTIMI:Technology Independent Machine Interfaceに変更)を搭載していた。
要するにコンパイラは特定の命令セットではなく、高レベルの命令セットを生成。CPUはこの高レベルの命令セットを解釈して実行するという、なんというか古のTransmetaのCPUのような仕組みである。
これにより、将来プロセッサーの構造が拡張されたり変更されたりしても、プログラムがそのまま動くというわけだが、これはFrank Gerald Soltis博士(のちのSystem iのチーフサイエンティスト)と、連載493回で紹介したGlenn Henry氏のアイディアだったらしい。
もともとこのアイディアは、IBMが1971年からスタートしたFuture System Project用のもので、プロジェクトそのものは1975年に打ち切りになったが、SLSやTIMなどをそのままミドルレンジのオフコンに持ち込んだ(おそらくこれをやったのがHenry氏と思われる)結果がSystem/38というわけだ。
実はSystem/36は当初、このSystem/38との互換性も保つシステムになる予定だった。ところが、ここまで革新的だとSystem/34の後継といいつつ実際には互換性が低いといった問題があったほか、司法省との反トラスト裁判の絡みで、無理に製品を一本化するよりも分散させた方が賢明という判断があり、System/36はSystem/3~System/34までの互換性を保ちつつ低価格/高性能という路線を、System/38は高速データベースマシンとしての路線を歩むという形になった。
この連載の記事
-
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第790回
PC
AI推論用アクセラレーターを搭載するIBMのTelum II Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ