このページの本文へ

銭湯が並ぶのはダメ!意外な「隣り合ってはいけない店」のルール

2018年11月14日 06時00分更新

文● 島野美穂(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

街を歩いていて、同じコンビニが近距離に出店しているのを見かけたことはないだろうか。同じコンビニが隣同士、あるいは極近距離に出店するのには、企業側の戦略など、さまざまな理由があるそうだが、実は出店すること自体は問題ないらしい。その一方、業種によっては近距離で出店することが法的に禁じられている店があるというのは、あまり知られていない。弁護士の高畑富大氏に聞いた。(清談社 島野美穂)

公衆浴場は300メートル以上
離れていないと営業できない

銭湯が隣接して営業することは、なんと法律で禁止されています。
銭湯や小売市場の開設には法律で距離制限が定められているが、コンビニやラーメン屋は自由。一体、そこにはどんな理屈があるのだろう?(写真はイメージです)Photo:PIXTA

「公衆浴場は、隣接して営業することが法律で禁じられています」──。

 公衆浴場の定義は、『温湯等を使用し、男女各一浴室に同時に多数人を入浴させる』というもので、いわゆる銭湯のことを指す。言われてみれば銭湯が隣同士にあるのは見たことがないが、法律的に禁止されているのはどういった理由からなのか。

「公衆浴場の営業には距離制限が設けられています。具体的な距離は各都道府県によって異なりますが、たとえば東京都の条例には、【既設の普通公衆浴場と三百メートル以上の距離(浴場本屋の四壁中最近の部分間でこれを測定する。)を保たなければならないこととする】と書かれています。仮に公衆浴場を営業するとなったら、既設の浴場から300メートル以上離れた場所でないといけません」(高畑富大弁護士、以下同)

 ただし、土地の状況、構造設備、予想利用者の数、人口密度等を考慮し、知事が公衆衛生上必要であると認める普通公衆浴場の設置場所については、この限りではないという。

「実際に、公衆浴場を営業しようとしたものの、距離制限によって不許可処分を受けたため、その取り消しを求めて裁判になったケースがあります。その際に裁判所は、『距離制限は、既存の公衆浴場業者の経営の安定化を図ることにより、自家風呂を持たない国民にとって必要不可欠な厚生施設である公衆浴場を確保しようとしており、必要かつ合理的である』と判断し、不許可処分の取り消しを認めませんでした」

 こうした条例には時代背景が大きく関係している。この裁判が行われたのは平成元年(1989年)。当時の日本は、自家風呂の普及に伴い、外風呂の利用が著しく減少していた。公衆浴場の建設を規制することで経営の安定化を図ることは、すなわち、国民の生活を守ることでもあった。

コンビニ、ラーメン屋はOKでも
小売市場はダメな理由

 同様の理由で、小売市場にも距離制限が設けられている。小売市場とは、『ひとつの建物の中に、生鮮食品や一般食料品、日用品などを扱う小売店が出店している小売業態』のことを指す。こちらも過去に無許可で営業していた人物が、自治体から訴えられた例がある。

「そもそも小売市場は、その開設が許可制になっています。そのなかの条件の1つが距離制限で、その理由は、小売市場が乱設されると、小売商間で過当競争が起こり、小売商が共倒れになりかねないため、これを保護しようというものです。裁判では、『憲法22条1項にいう職業選択の自由』の問題について争われましたが、小売市場の経営を守ることが重視された結果、憲法に反しないという結論に至ったのです」

 この小売市場裁判も、昭和40年代とかなり昔の出来事。小売市場が乱立すれば、経営が立ち行かなくなる可能性は十分あった。

 価格競争で経営困難が予想されるのは、現代のコンビニも同様かもしれないが、当時の日本における公衆浴場や小売市場の重要性から、これらについては経営の安定化を図る必要があるというのが法律的な見方だという。

「たとえば、ラーメン屋激戦区と呼ばれるところでは、オープンして数ヵ月で閉店ということも珍しくはなく、同じように経営の安定化を図る必要があるとも思えますが、公衆浴場、小売市場はいずれも当時の日本において重要な役割を担っていたため、特別な保護が設けられ、今でもこれが続いているということです」

薬局が隣接して営業すると
不良医薬品が飛び交う!?

「かつては、薬局にも距離制限が設けられていましたが、昭和50年(1975年)の裁判を機に撤廃されました。裁判所は、薬局には距離制限を設ける必要はないという判断に至ったのです」

 事の発端は、営業許可の申請をしたところ、距離制限に触れ、不許可処分となったことから裁判になったのだ。

 裁判において、不許可処分とした行政側は、「薬局の乱立により、競争が激化し,経営が不安定となる結果,不良医薬品が供給される危険性がある。距離制限はこういった危険性を防止するために設けたものであり、合理的だ」との主張をしたが、裁判所はこれを「単なる観念上の想定で、確実な資料に基づく合理的な判断ではない」と判断した。

「要するに、薬局が多く、競争が激化するからといって、不良医薬品が供給される危険性が高いと考えるのは飛躍しすぎだということです。薬事法で守られるべきは国民の生命や危険の防止であって、薬局経営の安定を守るものではないのです」

 近距離での経営が認められていない店は他にもあり、たばこ屋もその1つ。ただし、こちらは税収面の問題も関係している。

「たばこ事業法22条によって、たばこ屋の営業には、財務大臣の許可が必要とされています。許可の条件の中に、距離制限も含まれていますが、その理由の1つとして、税収の確保という点もあるのです。日本にはたばこ税があるので、好き勝手に営業されると、税収が乱れる可能性があるためです」

 また、やや特殊な例ではあるが、温泉にも距離制限が設けられている。温泉のすぐ隣で、温泉を掘ってはいけないのだ。

「“既存の温泉の近くで新たな温泉を掘ってはいけない”との決まりです。温泉源の枯渇等を防止するために定められており、温泉を掘るには都道府県知事の許可が必要です。掘削できない場合には、既存の源泉を利用することになろうと思います」

 隣接が禁止されている店には、経営の安定化、国民の健康、税収の確保など、さまざまな理由があった。とはいえ、時代や状況が変われば、法律も変わるもの。いずれは距離制限も変更、撤廃されていくのかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

アスキー・ビジネスセレクション

QDレーザー販促企画バナー

ピックアップ