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STARTUP×知財戦略第2回

「知財アクセラレーションプログラム」選出の3社が事例を語る

知財戦略で注目 スタートアップ支援プログラムで攻める特許庁

2018年10月26日 07時00分更新

文● 森嶋良子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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 2018年10月、幕張メッセで開催されたCEATEC JAPAN 2018のイノベーショントークステージにおいて、「知財でビジネスを加速するスタートアップ特集!!」と題したカンファレンスが行なわれた。特許庁では近年、知財財産保護の視点からベンチャー支援を推し進めており、その一環として、夏からスタートアップベンチャー対象とした支援事業「知財アクセラレーションプログラム」(IPAS:IP Acceleration program for Startups)を開始している。同カンファレンスでは、特許庁の支援施策の紹介とともに、IPASの対象企業として選出された3社の事例が語られた。

スタートアップ企業の知財戦略の遅れを改善するための特許庁の取り組み

 最初に登壇したのは、特許庁でスタートアップ支援を担当する松本要氏だ。松本氏は、グローバル視点では、日本企業の知財戦略が遅れていることを指摘した。

 そもそもスタートアップ企業において、知財は非常に大きな役割を持つ。信用やマーケット、設備などを備える既存企業と戦ううえで、武器にできるのは知的資産しかない。

 諸国ではその認識が浸透しているため、自社の知財を守るための特許取得にも積極的であり、例として中国の新興企業の特許取得状況が紹介された。それによると、中国だけでなく、米国やヨーロッパ、日本でも特許の取得を行なっているという。さらに、自社技術で特許を取得するだけではなく、すでに特許を取得している企業も積極的に買収している実態がある。

 対して日本では、知的財産に対する意識がまだ低い。特許庁が日本のスタートアップ企業を対象に知的財産に関する意識調査をしたところ、知財意識を持った企業の割合が非常に低いことがわかった。

 背景には、日本のスタートアップ企業のイグジットの大半をIPOが占めているという事情がある。米国ではM&Aの割合が高いが、M&Aの場合、買収先の企業の価値を証明するための指標として特許が有効に働く。日本でも出口戦略としてのM&Aは増加傾向にあり、特許取得の重要性に対する認識は高まると見られる。

 松本氏は、M&Aのメリットとして、日本の大企業の持つインフラやマーケットと、スタートアップ企業の知財が交じり合うことで生まれるシナジーに期待を寄せる。M&Aの促進のためにも、スタートアップ企業がしっかりとした知財戦略を持つことが必要だという。

 だがなんでも特許出願をすればいいわけでもない。出願自体は、一方で技術をオープンにすることでもある。守るべきものはなにか、オープンとクローズの切り分けをどのようにするのか、たとえば特許侵害時の訴訟の可能性や標準化といったさまざまな視点を含めて考えることも必要になることも松本氏は説く。

 そのため、現在特許庁では、IPASプログラムを通じ、支援先ごとに的確な専門家チームを編成して派遣し、スタートアップの知財戦略構築のサポートを行なっている。さらにIPASのほかにも、海外展開や早期審査、料金減免などのスタートアップへの支援展開を厚くしていくと締めくくった。

有機ELが持つ課題を解決する「Kyulux」

 続いて、IPASの支援先スタートアップ企業による自社の紹介が行なわれた。

 1社目として登場したKyuluxは、九州大学発のベンチャーであり、次世代有機ELの実用化を行なっている。代表取締役CEO 安達淳治氏によって同社の手掛ける事業が紹介された。

 Kyuluxは、現在の有機ELが持つ課題を解決するテクノロジーを保有し、実用化へ進めているという。その1つ目は、TADF(熱活性化遅延蛍光)。現在の有機発光技術では、蛍光とリン光という2つの種類の発光技術が混在して使われているが、リン光に欠かせないイリジウムはコスト面で問題がある。同社の保有する技術であるTADFを使うと、イリジウムを使わずに発光が可能になるという。しかし、色純度が低いという問題が残っており、これを解決する技術としてHyperfluorescence(超蛍光)があると説明。

 TADFと蛍光材料を組み合わせることにより、高い輝度と低コスト、高い色純度を実現するもので、次世代の有機ELを担う技術として期待を寄せている。同社では、これらの技術を使い、発光材料市場を独占することを目標に掲げている。

 2つの技術の基本特許はもともと九州大学で保有していたが、同社への特許譲渡が成立している。さらに周辺特許についても100件以上の譲渡を受けて保有しており、いわば独占的に利用できる状態にある。ただし、材料となる物質の特許については、非常に複雑であり、強固な知財ポートフォリオの構築が重要であるという。

 現在の課題としては、ビジネスを考えた知財戦略が不十分であること、他社分析および対抗出願が不十分であること、また限られた知財部員のマンパワー配分や業務優先順位位置づけに苦慮していることなどが挙げられた。

無線の通信速度と通信範囲の広さを同居させる「ソナス」

 続けて登場したソナスは、東京大学の森川博之研究室出身のメンバーによって起こされた、無線通信技術をコアとするスタートアップ企業だ。創業メンバーでありCEOを務める大原壮太郞氏が、同社の取り組みについて語った。

 従来、無線の通信速度と通信範囲の広さは同時になりたたないものであるとされていたが、それを実現できる技術としてマルチホップ(メッシュ)が期待されている。しかし、マルチホップはルーティングが難しいため、なかなか実用化に至っていない。

 同社の技術、UNISONetを使うと、ルーティングを簡単に行なうことが可能になり、通信速度と通信範囲をともにカバーするとともに省電量や上下トラフィックの高応答性、時刻同期も実現する。実用として使える技術としては、世界で随一だとしている。

 同社の目論見としては、最終的には標準化し、無線技術単体で提供していきたいという。しかし、ベンチャー企業の規格は採用しづらいため、まずはソリューションとしての提供を始めている。電池で動く省電力無線センサー・ゲートウェイ、現場計測ソフト、クラウド上で動く測定ソフトをセットとして提供しており、実際の導入例も出てきているとのこと。

 また大原氏は、知財に関して危機感を覚えたことがあったと語る。ビジネスに手いっぱいで知財を後回しにしており、自社の技術に抵触していると思われる特許がすでに他分野で出願されていることがわかって肝を冷やしたそうだ。結果的には問題なかったが、今後は迅速な特許出願を心がけなければならないと認識を新たにしたという。

なりすまし検知サービスを提供「カウリス」

 3番目に登場したのは、カウリスの代表取締役CEO 島津敦好氏。カウリスは、Fraud Alertという「なりすまし検知サービス」を提供している。ウェブサービスなどのログイン時に、通常と異なるふるまいがあると検知して知らせてくれるサービスだ。

 現在、多くのサービスのユーザーIDとパスワードが流出しており、多大な損害が発生している。インターネットへの接続デバイスが増加すればその危険性はさらに増加し、特に昨今のフィンテックの広まりによって、不正ログインによる被害額は著しく増加している。不正ログインを防ぐための手法としては、SMSなどによる追加認証があるが、ユーザビリティーの低下を招くという一面がある。

 同社が提供するFraud Alertでは、異なる場所やデバイスからログインしたときのみ追加認証を行ない、さらにそのデータベースを共有することによって、ホワイトリストとブラックリストの作成を行なうことができる。このサービスはJavaScriptのソース提供とAPIによる連携で実現し、安価、かつ簡単に導入できるのが特徴だという。なお、この「その人らしさ」の判断は、機械学習によって行なわれている。

 同社では、この仕組みに関する特許を日本国内で取得しており、現在海外での特許出願も検討中だという。


 登壇した3つの企業は、今回IPAS支援対象企業に選ばれている。特許庁では、今年度に続き、来年度以降も知的財産面からのスタートアップ支援を続けていくとのことだ。

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