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トヨタ、ソフトバンクとの提携はグループ企業への「ショック療法」だ

2018年10月15日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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トヨタ自動車とソフトバンクが電撃提携
Photo:NurPhoto/gettyimages

日本の時価総額ランキングのツートップが、モビリティーサービス分野で電撃的に手を組んだ。想定外の組み合わせに、両社の競合のみならず、トヨタグループにも激震が走っている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之、浅島亮子)

「トヨタ自動車の動きは早くから察知していた。ソフトバンクからの協業依頼はうちにも来ていたから。それを先に形にできなかったのは、トヨタとの危機感の差だ」。ホンダ幹部は自嘲気味に言う。

 ホンダの面目は丸つぶれだった。トヨタ自動車とソフトバンクが電撃提携した前日の10月3日、ホンダは米ゼネラル・モーターズ(GM)と自動運転分野での提携を発表し、GMのライドシェア子会社、GMクルーズホールディングスへ総額27.5億ドル(約3100億円。出資金と事業資金の合計)を拠出する計画を明らかにした。

 日本の時価総額ツートップであるトヨタとソフトバンクの異業種タッグの一報が駆け巡ると、ホンダの社運を懸けたビッグディールはかすんだ。GMクルーズは他ならぬソフトバンクの投資先である。ホンダが近しいと信じ、コネクテッドカーで連携するソフトバンクに裏切られた格好だ。

 実は、ホンダがはしごを外されるのは2回目のことだ。トヨタとパナソニックの車載電池における提携がそうだ。ホンダが信頼関係を築いていたはずのパナソニックは、電池の安定調達と巨額の設備投資を約束したトヨタになびいた。

 ホンダが歯がみして悔しがる思いは、トヨタを大株主に持つKDDIにも通じるところがあるだろう。すでに、KDDIはコネクテッドカーでトヨタと連携しているからだ。

 しかし、今回の提携で激震が走ったのはトヨタ・ソフトバンクの競合ばかりではない。むしろ、トヨタグループの企業群が受けた動揺の方が大きかったといえるかもしれない。

 目下のところ、トヨタは資産の入れ替えに躍起になっている。ソフトバンクとの協業対象でもあるモビリティーサービスやAI(人工知能)など新領域への投資が相次いでいるため、「トヨタへの貢献を生まない不稼働資産は切り離していく方向」(トヨタ幹部)なのだ。

 その典型が、8月のいすゞ自動車株式の売却だ。2006年にトヨタといすゞは資本提携を結んだが、ディーゼルエンジンの協業が頓挫し提携解消に至った。

 もっとも、両社がビジネス上の成果を生んでいないことは長きにわたって公然たる事実だったので、いすゞにとって解消は寝耳に水だった。そのため、「トヨタ本体が本気でグループ整理に着手しようとしている」(アナリスト)と株式市場では受け取られている。

 ものづくりに強みを持つ堅実なトヨタが、挑戦的な企業文化を背景に世界のテクノロジー企業の“投資家”と化したソフトバンクと組んだ。従来ではあり得ない、対照的な企業文化やビジネスモデルを持つ両社の急接近は、トヨタグループ内部に「身内であっても、トヨタ本体とギブ・アンド・テークの関係にない企業は切り捨てられる」というメッセージを植え付けるには十分な効果を発揮した。

 ショック療法ともいえる荒業に打って出るくらいに、「100年に1度」の自動車業界の変革に臨む豊田章男・トヨタ社長の焦燥感は強いということなのだろう。

中国大攻勢の“切り札”

 そして今、トヨタの焦燥感を増幅させる懸案事項が持ち上がっている。世界の二大自動車市場で繰り広げられる米中貿易戦争の長期化だ。そのリスクを最小化する手段としても、ソフトバンクとの提携は大きな意味を持つ。

 日米首脳会談で自動車関税の引き上げは見送られたものの、11月の米中間選挙の結果次第では、米国が対米投資など日本への強硬姿勢を一層強めるかもしれない。

 米国リスクが高まる一方で、トヨタの中国ビジネスはさえない。中国販売では、独フォルクスワーゲンのみならず、日系のホンダ、日産自動車の後塵を拝している。トヨタ劣勢の理由として、1980年代に中国政府の現地化要請に応じなかった決断がいまだに尾を引いているとされてきた。

 現在、トヨタ社内では中国戦略を加速させる大号令が掛けられている。今年5月、李克強・中国首相が来日時にトヨタの生産拠点を視察したあたりから、中国での生産能力の拡張など、トヨタの中国シフトが鮮明になってきた。

 30年以上も事あるごとに中国政府に冷遇されてきたトヨタが、中国に恩を売る絶好の機会でもある。トヨタ幹部は、「米国が厳しいから中国へ行くわけではない」と、中国てこ入れと米中経済戦争との相関を否定するが、中国シフトが対米リスクのヘッジに働いていることは確かだ。

 そして、トヨタの中国大攻勢の“切り札”が今回の提携だった。ソフトバンクグループの投資先である中国のライドシェア、滴滴出行(DiDi)との協業に向けた布石となるからだ。

 年初に、車を造る会社からサービスも提供するモビリティー・カンパニーへ変わる宣言をしたトヨタ。豊田社長が「ドアを開けると必ず孫さんがいた」と言うように、米ウーバー・テクノロジーズ、シンガポールのグラブなどライドシェア領域の投資では、常にトヨタはソフトバンクに先を越されていた(下図参照)。中でも、中国政府との因縁から近づき難かった滴滴との関係構築は、トヨタにとって提携の大きな狙いになっている。また、ソフトバンクの目利き力や孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長のネットワークを頼りに、サービス領域の情報収集の精度を上げる目的もあるだろう。

願ってもない売却先を確保

 トヨタグループや競合への揺さぶり、中国攻勢の切り札、モビリティーサービスの情報収集──。トヨタの打算が凝縮された提携は、ソフトバンク側から見れば、格好の標的が自ら手を挙げてくれたようなものだろう。

 ソフトバンクの投資先企業であるライドシェア4社合計の1日当たりの乗車回数は3500万回。17年の取引総額は計7.1兆円に達した。孫社長は、「(乗車回数ベースで)世界のライドシェアの90%のシェアを握る。われわれが世界で圧倒的最大の交通機関になった」と言ってはばからない。

 その自信の表れとは裏腹に、「孫の本音が漏れてしまった」とソフトバンク幹部が苦笑いしながら振り返るのが、7月に開催されたイベントの講演での1コマである。

「日本はライドシェアが法律で禁止されている。こんなばかな国がいまだにあることが信じられない。未来の進化を自分で止めている危機的な状況だ──」。孫社長はこう声を張り上げ、政府の規制をぶった切った。国内ではライドシェアはいわゆる「白タク」扱いで、道路運送法で禁止されている。ライドシェア解禁を阻もうとする抵抗勢力であるタクシー業界に真っ向からけんかを売ったのだ。

 孫社長がタクシー業界の反発をはねのけ、がちがちに固められた日本の規制を突破するために、トヨタの政治力は強力な援軍になるに違いない。例えば、戦略特区構想の実現が近づくかもしれない。

 何より、“投資家”たるソフトバンクにとって、提携の最大の利点は、投資先のイグジット(出口)戦略を描きやすくなることだ。

 まず、投資先の半導体や保険、地図サービスなどをトヨタグループが採用するようになれば、投資先はさらなる成長が期待でき、ソフトバンクの利益にも直結する。将来的には、ソフトバンクが目利きをしたテクノロジー関連の投資先をトヨタへ売却する選択肢も考えられるだろう。

 思惑先行で電撃提携に至ったトヨタとソフトバンク。世界中の自動車メーカーやIT企業がこぞって参画するモビリティー分野の覇権争いに一石を投じたことだけは間違いなさそうだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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