CDCの台頭でスパコン業界
トップの座から滑り落ちる
今回もIBMの話である。IBMは、IBM 1401シリーズで築き上げたミドルレンジのマーケットシェアを固める一方で、より高速なコンピューターの構築に向かい始める。その最初のものがIBM 7030 “Stretch”である。
Stretchの話は連載272回で紹介したが、簡単に言えばIBM 704の100倍の性能を目指したシステムである。実際には性能改善は50倍程度に留まり、顧客に出荷された台数は8台に留まった(+IBM自身が1台保有)とは言え、ここで得られた知見はこの後のSystem/360に大きく生かされることになった。
その一方でより高速なコンピューター、つまりスパコンの分野では1963年にCDC(Control Data Corporation)がCDC 6600を発表したことでIBMは業界トップの座から滑り落ちることになる。このあたりの経緯は連載273回に書いた通りである。
これにWatson Jr.氏は大きなショックを受けて社内に回したメモの話も、これまた有名である。
画像の出典は、Computer History Museum
IBM 709をトランジスタ化して
ランニングコストを抑えたIBM 7090
IBM側の背景をもう少し書いておくと、Stretchと並行して同社は7000シリーズとしてIBM 7090というシステムを開発していた。
これはIBM 709(*1)をトランジスタ化した製品で、1959年に発表され1960年に出荷開始された。
画像の出典は、wikipedia
IBM 709は価格もさることながら、250KWの消費電力(+ほぼ同等の冷房用の電力)を必要とするなど維持コストも馬鹿にならない製品だったが、IBM 7090はこれをトランジスタ化したことで消費電力が大幅に下がり、しかも演算性能は100KFLOPSとほぼIBM 709の6倍に達している。
それでいて月間レンタル料はIBM 709のおよそ半額の月あたり6万3500ドルということで、IBMの目からも結構お買い得な製品に仕立て上がったし、実際結構売れた。
(*1) IBM 704の後継で1957年に発表、1958年に出荷開始された真空管式システム。毎秒42000回の加減算と5000回の乗算が可能で、32KWords(36bitシステムだったので、144KB相当)の磁気コアメモリーを搭載したシステム。
このIBM 7090がメインストリーム向けとしたら、Stretchはハイエンド向けであって、「性能を求めるお客様にはStretchを、性能/価格比のバランスの良さを求めるお客様にはIBM 7090を」というストーリーができていたのに、そのStretchの2倍近い性能を叩き出すCDC 6600が登場してしまうと、ストーリーそのものが台無しである。
しかも後述するSystem/360は、システムとしての一貫性はこれまでよりもずっと優れているし、この後のIBMの礎と言っても良い大成功を収めるのだが、その一方で性能そのもので言えば、少なくとも当初予定していたハイエンドのSystem/360 Model 65でも567KIPSという数字が残っている程度で、Stretchと大差ない程度でしかない。
System/360はCDC 6600にはなんとか競合できたとしても、これに続くCDC 7600には遠く及ばない。要するに手持ちの製品や、現在開発中の製品ではどうやっても太刀打ちできなのが明白という話で、それはWatson Jr.氏が怒るのも無理もない話である。
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