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「ライブ配信メディア完全解剖 〜過去と今、そして未来へ〜」 第105回

ニコニコがプレミアム会員減少を止める「守りと攻め」の施策

2018年09月04日 09時00分更新

文● ノダタケオ(Twitter:@noda) 編集● ちゅーやん

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 株式会社ドワンゴが運営するライブ配信・動画メディアのプラットフォーム「niconico」のプレミアム会員数が2018年6月末時点で200万人になりました。これはカドカワ株式会社が8月9日に発表した2019年3月期第1四半期決算説明資料により明らかとなったことです。最盛期は256万人だったので、50万人以上がプレミアム会員を辞めたということになります。

 3ヵ月前のカドカワ株式会社の2018年3月期通期決算発表では「2019年3月までの間にプレミアム会員数の減少の底打ち」がされ、「2019年3月末時点でのプレミアム会員数が201万人まで回復する」ことを示しています。以前この連載でも触れたことがありますが「プレミアム会員数の底打ちは200万人台ではなく、100万人台まで落ちてから」という予測は確実な情勢となりました。

カドカワ株式会社「2019年3月期第1四半期決算」資料より

 「2019年3月末時点でのプレミアム会員数が201万人まで回復する」には、この後に発表される9月末および12月末時点で底打ち(せめて横ばい)にならないと、来年3月末までに201万人まで回復するのはとても難しくなります。

 6月28日に新バージョン「niconico(く)」がサービス開始となり、これまでの「既存の基本機能改善による『画質・重さ 完全解決』」という“守りの施策”に注力してきたものは、新しい“攻めの施策”へも少しずつ力を入れていく形に移っていくでしょう。

 これまでの守りの施策とこれからの攻めの施策の両輪がうまく回っていくのかは、プレミアム会員数の底打ちへのキーポイントであるように感じるのです。

長年の信頼(プレミアム会員数)を失っていった2017年

 過去の決算説明資料を振り返ると、プレミアム会員数がピークとなった2016年6月末の256万人以降、2016年9月末は数を維持しますが、2016年12月末に初めて252万人へ減少、その後はプレミアム会員数の減少傾向が続いていきます。

 2017年3月末に243万人になった直後、4月17日に実施されたニコニコ超会議2017発表会では「新バージョンとなるniconico(く)を発表し、10月にサービス開始」と告知したものの、その間にもプレミアム会員数が同年6月末に236万人、同年9月末には228万人までになっています。つまり2016年9月末(256万人)から2017年9月末(228万人)までの1年間で28万人が離れています。

 そして、プレミアム会員数がもっとも大きく減少したのは、この後の同年12月末のことでした。同年9月末(228万人)から同年12月末(214万人)に「これまでの減少ペース以上の14万人減」となった最大の理由は、同年11月28日のniconico(く)発表会が影響したことは言うまでもないでしょう。

 当初、10月サービス開始とされていたniconico(く)は、その月末に「11月28日に発表会を実施する」ことをやっとのことで発表しました。ただし、これはあくまでも「発表会を開催する」という発表です。この発表会では「2018年2月28日サービス開始」という事実上のスケジュール延期を伝え、発表されたniconico(く)の「新しい新機能&サービス」に対するユーザーが求めている「コレじゃない」感が加わり、大きな失望感が広がってしまいます。

 これが大きく影響し、プレミアム会員数の減少がもっとも大きかった14万人減へとつながっていくことになるのです。

2018年後半の注目は「プレミアム会員数の底打ち」も移る

 YouTubeをはじめとする、ほかのライブ配信・動画メディアのプラットフォームでは当たり前にできることができない「現状の仕様をまずはなんとかするべき」というniconicoユーザーの声が大きく挙がりました。これによりniconicoは「新サービスと新バージョンによる『画質・重さ 完全解決』」から「既存の基本機能改善による『画質・重さ 完全解決』」路線への舵を切ることになります。

 2017年12月12日に「動画と生放送サービスに対する意見交換会」と題したニコニコ生放送での番組で、これまでのユーザーとの対話をする広報マン的活動をしてきた川上量生氏がniconicoの運営責任者を退きました。この職務は栗田穣崇氏が引き継ぎ、その後の12月21日にはドワンゴは川上氏を代表取締役会長CTOから取締役CTOへ異動(退任)することを発表しています。

 niconicoの運営責任者が栗田氏へ移ったあとの2018年前半は、2017年に大きく失った長年の信頼を取り戻すべく、ユーザーから寄せられた意見などを基に、ニコニコ動画やニコニコ生放送を中心に多くのniconicoのサービスを改善してきました。

 その後、着実に改善を重ね、その改善がユーザーにも目に見えるカタチへ示してきたのちの6月28日、niconicoの新バージョン「niconico(く)」はサービス開始というスタートラインへとたどり着くことになります。

 残念ながら、2018年前半も「niconico(く)」がスタートするまでの間もプレミアム会員数は減少が続き、同年3月末は207万人、そして今回発表された直近の同年6月末は200万人まで減少しました。

 つまりピーク時の256万人からの約2年間の間に、56万人のプレミアム会員を失ったことになります。ただ、この「200万人」という数字は、約2ヵ月前のniconico(く)スタート直後のもの。今後、niconico(く)という新バージョンがより良い形となったのかという効果を判断するのはこれからです。

 niconicoのバージョンアップ(機能改善)の遅れと、ユーザーとの対話が失われてきたことによる信頼を、niconico(く)によって取り戻せているかどうか。ユーザーからの本当の評価はここから始まっていくのです。

ドワンゴは守りの施策から新しい攻めの施策のフェーズへ

カドカワ株式会社「2018年3月期通期決算」資料より

 niconicoの新バージョン「niconico(く)」が2017年4月に予告されてからサービス開始へ至るまでの間は、プレミアム会員数が減り続けるなどのネガティブ要素が多く苦戦を強いられていました。ただ、この半年ほどユーザーとの対話型の機能改善の進めてきたことによって、その姿勢は多くのユーザーに受け入れられているという手応えをniconicoを運営するドワンゴの人々は感じているはずです。

 そして「niconico(く)」がサービス開始になったことによって「既存の基本機能改善による『画質・重さ 完全解決』」という守りの施策にある程度の目処がついたように感じます。これからは、ドワンゴの新しい攻めの施策を打ち出していくフェーズへ入っていくはずです。

 攻めの施策の目玉のひとつとも言えそうなのは、いまライブ配信や動画メディアのプラットフォームで注目されている「バーチャルライバー(vTuber)」と呼ばれるバーチャルキャラクターによるライブ配信が可能な仕組み。niconicoは「バーチャルキャスト」というサービスで展開していきます。この「バーチャルキャスト」はこれまで培われてきたniconicoのユーザー文化と最も親和性がありそうです。

 ただし、これまでの守りの施策とともに、新しい施策もユーザーに受け入れられていくかどうかの結果は、プレミアム会員数の増減に大きく影響されるはずです。

 冒頭に挙げた「2019年3月までの間にプレミアム会員数の減少の底打ち」がされ「2019年3月末時点でのプレミアム会員数が201万人まで回復する」ことができるかどうかは、守りの施策と攻めの施策の両輪がうまく回っていくかが大きなキーポイントであるように感じます。

ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda

 ソーシャルメディアとライブ配信・動画メディアが専門のクリエイター。2010年よりスマホから業務機器(Tricasterなど)まで、さまざまな機材を活用したライブ配信とマルチカメラ収録現場をこなす。これらの経験に基づいた、ソーシャルメディアやライブ配信・動画メディアに関する執筆やコンサルティングなど、その活動は多岐にわたる。
nodatakeo.com

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