SMPに限界を感じ
ccNUMAに方針転換
さてここまで同社はメモリー共有型の対称型マルチプロセッサーシステム(SMP)を提供してきたが、そもそもノード数が増えると共有メモリー型ではどうしても不利な点が目立つようになる。
そこでSequentはSMPに関わる特許をインテルにライセンス、これを利用してインテルはPentium Pro以降で4wayまでのSMP構成が構築できるようになった。これをライセンスした同社は? というと、ここからはccNUMA(cache-coherent Non-Uniform Memory Architecture)構成を追求する。
NUMA-Q、というのがそのccNUMAベースのシステムで、1995年にまずアナウンスがあり、1997年2月11日に最初のNUMA-Q 2000がリリースされる。ちなみにNUMA-Qのアナウンスから製品発表までの間にChen Systemを買収しており、製品の実装にはSteve Chen博士(やChen System)の知見が生かされた可能性は高い。
NUMA-Qは最大252プロセッサーをサポートしており、複数のOSを同時に走らせることができた。NUMA-Qの場合、4つのプロセッサーをまとめて1つのQuadという単位で管理し、このQuadを63個まで扱えるという仕組みだ。
それぞれのQuadは独自にメモリーコントローラーを持っており、最大32GB/秒のメモリー帯域を利用可能となっていた。1997年8月にはインテルと共同で4Quad(16プロセッサー)のNUMA-Q 2000を利用したベンチマーク結果を公開しており、この時点では世界最速のシステムの1つであった。
IBMがSequentを買収
これに目を付けたのがIBMである。IBMは1999年6月12日、Sequentを買収する。買収金額は1株当たり18ドルの現金で、買収総額は約8億1千万ドルになる。
この買収は、双方の思惑が一致したことが理由である。Sequent側は、NUMA-Qシステムの開発に大金を投じたものの、売上は非常にゆっくりで、資金繰りが非常に苦しくなりつつあった。
Symmetric 5000シリーズは引き続き出荷されてはいたが、こちらはインテル自身がSMPのライセンスを受けてPentium Proの出荷を始めており、またRCCやCorollaryといった新興メーカーが4Pを超えるシステムを構築できるソリューションを提供し始めたこともあり、急速に売上が落ちてきていた。
以上のことから、NUMA-Qシリーズの売上が立つのをおとなしく待っているゆとりがなかった。一方のIBMは、x86サーバーの市場で、それなりの存在感こそあるものの、「それなり」でしかなかった。
CorollaryのC-bus IIを使った6Pサーバーなどもリリースしたものの、肝心のCorollaryが消えてしまったりして、「その先」が続かない状況だった。
また科学技術計算向けも、SSIに1億3000万ドルも突っ込んだにも関わらず倒産したりという、あまり芳しくない状況だった。
これらに比べると、Sequentは実際に存在し、ちゃんと動くマシンを持っているというだけでもはるかにマシだし、NUMA-Qの延長で科学技術計算向けの超並列マシンも現実問題として視野に入っていたのだろう。
別の見方としては、SequentがSun Microsystemsに買収される可能性を考えた時、これが実現するとIBMはいよいよSun Microsystemsに勝てなくなる可能性があったがゆえに、この予防策として買収したというものもある。いずれにせよ真偽は藪の中である。
2000年にはIBM NUMA-Q 2000としてNUMA-Q 2000シリーズを再度リリース、さらにIBMはpSeries 690というPower4ベースのシステム(ベースは8way SMPだが最大32wayまで拡張可能)や、xSeries 430という64way SMP(16ノードのクラスターで最大256way SMPまで可能)システムを発表するものの、x430については結局製品出荷されることがなかった。
2002年にはx430のみならずNUMA-Qベースのシステムも営業活動を終了しており、結局IBMは8億ドルあまりをドブに捨てた格好になる。
これだけ見ていれば、確かにSun Microsystemsに買収されるのを防ぐために買った、といわれても不思議ではない。したがってIBMから見れば無駄遣いであるが、Sequent側から見れば破綻せずに収束したとも言えるわけで、ある意味幸運だったのかもしれない。
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