新会社を設立し最後まで面倒を見たクボタ
その教訓が今に生きる
さてStardentはまずMIPSベースのシステムを手がけていたが、この後継はDECのAlpha CPUを使うことが内定していた。もっとも詳細な設計を始めた直後にこれは中断することになる。要するに、倒産である。
1991年8月、StardentのAVS(Application Visualization System)ソフトウェアは別会社にしたうえで、11月に倒産する。この際Stardentが保有していた製品と技術は、すべてKPCが継承することになった。なにしろ大株主であるから、これは当然ではある。以後、すべての開発はKPCが行なうことになる。
クボタ側の意図としては、当初新規事業としてコンピューターの世界に乗り出したものの、同社の知らない世界だったために、「金は出すが口は出さない」という方針を貫いた。投資先がうまく運営されていればこれでも問題なかったのだろうが、なにかあった時に正しくビジネス上の判断を下すことができなかった。
とはいえこの時点でクボタは総額1億9000万ドルほどArdent/Stellaに突っ込んでおり、これをそのまま無にするのもはばかられた。そこで方針を転換、自身でコンピューター業界に参入することを決断したわけだ。
まずKPCはStilettoとP4(Titanの後継製品)をキャンセルするととこに、DECのAlphaをベースにしたTitan 2の開発を本格的にスタートさせる。
もっともスタート当初は、AlphaとMIPSの2本立てを考えていたようだ。というのはMIPSのR5000プロセッサーをベースとした製品を検討していたらしいのだが、それも1992年にSGIがMIPSを買収したことで軌道修正を余儀なくされる。
ちなみにR5000そのものの出荷は1996年まで遅れたため、もしMIPSがSGIに買収されていなかったとしても、間に合わなかっただろう。
話を戻すと、1992年の段階でAlphaベースでシステムを一から作り上げるには時間も費用も足りなかった。その代わりにKPCはTurboChannelで接続されるDenariというグラフィックユニットを開発。
DECからDEC 3000 AXPというAlphaベースのワークステーションを購入し、これにDenariを組み込んだものをKenaiという名前で発売した。もうこうなるとコンピュータメーカーというよりはグラフィックカードベンダーであり、それもあって社名をKPCからKGC(Kubota Graphics Company)に改称している。
そのKGCだが、所詮はビデオカードの売上しかないわけで、コンピュータメーカーとして存続させるには無理があった。結局1994年で同社も閉鎖、KGC内で進められてきたPCIバス対応のDenariはAction Graphicsに売却された(そのAction Graphicsは後にATIに買収されている)。
またKGCそのものはEvans & Sutherlandが買収している。日本国内の関連会社は2000年代まで生き残ったが、これは主に保守サポートなどのもので、命運そのものは1994年に尽きていた格好だ。クボタがえらいと思うのは、この事実をきちんと社史で公開していることである。
異業種へのチャレンジは非常にハードルが高いものであり、同社が累計でいくら突っ込んだのかははっきりしない(2億ドルを超えているのは間違いないだろうが)とはいえ、それをきちんと教訓にできているのだから、高い授業料ではあっても無駄金ではなかった、と思いたい。
それはともかくとして、やっぱり安直にニコイチというのは上手くいかない、というのがStardentの教訓ではないかと思う。

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