このページの本文へ

「衰退する西洋と日本の共通点」知日派エモット氏語る ビル・エモット(国際ジャーナリスト)特別インタビュー

2017年07月25日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

元「エコノミスト」誌編集長で、知日派として著名なビル・エモット氏。同氏は最新作『「西洋」の終わり』で、日本や欧米先進国の繁栄の基盤となった「平等」と「開放性」が、衰退の危機にあると警鐘を鳴らしている。世界と日本は今、どう変容しようとしているのだろうか。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

Photo by Kazutoshi Sumitomo

──著書『「西洋」の終わり』の中で、西洋の繁栄を支えた二つのキーワードである「平等」と「開放性」が、衰退の危機にあると指摘しています。衰退のきっかけは何だったのでしょうか。

 トリガーは、2008年のリーマンショックによって引き起こされた金融危機だと考えています。

 世界中に広まったこの問題は、多くの人々に対して所得の減少や、教育や福祉など子どもたちに対するさまざまな機会の喪失、それによって将来への希望の喪失をもたらしました。

 一方で、元凶となった金融機関の経営陣や富裕層は生き残り、責任者が罰せられることはありませんでした。所得の低い人々を中心に被害を受けたということです。多くの人々はそんな実態を見て、西洋的市場メカニズムに疑問を持ち、信頼は大きく揺らぎました。

 この影響が政治に及び、西洋の繁栄の基礎となった平等や開放性に対する信頼が地に落ちることになり、今は危険な状態にあります。

 これから日本や欧米先進国は平等や開放性の価値を再び認め、維持するのか、または、衰退して経済や政治が長い凋落の時代を迎えるのか、今はターニングポイントにあるといえるでしょう。

──格差の拡大も、世界中で問題視されています。

 私は格差の拡大は、「平等の欠如」によって生まれる差だと考えています。

 自分は政治的に存在を認められているのか。同じ権利があるのに、平等に扱われているのか。自分たちの声は届いているのか──。多くの人々は、リーマンショックで富裕層が生き残り、自分たちが損害を被ったことで、富裕層は政治的にも大きな力を持っているんだと分かってしまいました。

 そこで、ドナルド・トランプ米大統領は選挙戦で、「忘れ去られていたアメリカ人のために」ということを強調して、支持を得たわけです。

日本の監視社会化は
将来的な脅威となる

──日本でも、平等性や開放性は危機的状況にあるとみていますか。

Bill Emmott/1956年英国生まれ。93年から13年間英「エコノミスト」誌編集長を務める。現在は国際ジャーナリストとして執筆活動を続けている。最新刊に『「西洋」の終わり』(日本経済新聞出版社)。 Photo by Kazutoshi Sumitomo

 日本でも平等については衰退していると思います。それによって収入の格差は拡大し、貧困率も上がっています。顕著なのが、増え続ける非正規雇用者と、正規雇用者とが分断されている点です。非正規雇用者はいつでも不安定な状況にあります。

 ですが、開放性については衰退しておらず、米国や英国のように閉鎖的な方向に進んでいるわけではありません。

 ただ、残念なのが、開放性をさらに拡大する方向にはいっていない、いわば“ステイ”な状況だということです。日本が今後、成長してゆくためには、経済のダイナミズムが必要です。それには開放性の向上が大切なはずです。

──著書の中で、二つのキーワードから、西洋が従うべき八つの原則が示されていて、その中で監視社会は法の支配をむしばみ、平等を損なうと指摘しています。日本は共謀罪や特定秘密保護法等、国民への監視を強め、閉鎖的な方向へと進んでいるように見えます。

 確かに、そうです。日本政府が最近通した法律の中には、監視社会を強める法律があります。監視する力が増すということは、政府の力が増すということ。将来的に平等や開放性が損なわれる脅威であるといえると思います。

 こうした政府の動きには、日本国民は抵抗しなくてはならないのではないでしょうか。

──今、安倍政権の支持率は急落しています。これも著書にありましたが、政府は支持率が落ちると、短期的に支持を得るために、大衆迎合的な政策を打つ傾向があります。今後、安倍政権はどういう方向へ政策を進めると考えますか。

 そもそも、安倍晋三首相は、ポピュリストです。これは何も新しいことではありません。

 日本の政治の先行きを見通すのは非常に難しいのですが、私はフランス大統領選挙が参考になるのではと思っています。

 マクロン仏大統領はポピュリストで穏健右派。短期間で多くの支持を集めました。同様に、日本では東京都知事選挙で大きな支持を集めた小池百合子氏も、ポピュリストであり穏健右派です。小池氏のように、新しいメッセージを示せば、短期間で多くの支持を集められることも実証されました。

 次にどのような政策が打ち出されるかの詳細は分かりません。楽観主義的な見方かもしれませんが、極端な政策が出てくることはないと思っています。

 都知事選を見ていると多くの人々が、平等の欠如による格差拡大や不公平感、女性や子どもに対する支援の充実について、高い関心を持っていることが分かりました。つまり政治的には、こうしたテーマについて何かポジティブなことをやっていく、強いインセンティブになっているわけです。

 もちろん、これからどのような政治や政党の勢いが増すのかについては分かりませんが。

──平等と開放性は、外的要因によって失われることもあります。日本でいえば、「北朝鮮情勢の不安定化」のように、二つのキーワードの価値観を全否定する存在が脅威として浮上すると、その脅威から自らの価値観を守るために、閉鎖的な政策にかじを切ることがあると思います。

 確かに、外の脅威はいつの時代にもあります。今は北朝鮮やIS(過激派組織「イスラム国」)がそうで、欧州ではテロの脅威があります。

 ですが、今がこれまでと違うのは、私たちの内部からこの二つのキーワードを衰退させる要因が生み出されているという事実です。

 私たちは「平等」と「開放性」がもたらした繁栄や強さをもう一度認識して、これまでの市場や社会の仕組みを再構築しなければならない時期にきています。

 08年の金融危機を発端にした大惨事が、いかにして起きてしまったのか。それを振り返る必要があります。民主主義がカネで覆いかぶされてしまい、本来の民主主義の強さが半減されていなかったのか。富が一部の富裕層に独占されていなかったのか──。

 西洋の仕組みの脆弱さを正しく理解すれば、もう一度、私たちはかつての強さを取り戻すことができると考えています。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

アスキー・ビジネスセレクション

ピックアップ