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韓国で「キットカット」が発売半年でシェア10%を獲得できた理由 「ブランデッドムービー」の可能性と未来(後編)

2017年07月14日 06時00分更新

文● 堀 香織(ダイヤモンド・オンライン

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韓国で発売したばかりの「キットカット」が、なぜ売れたのか。ブランデッドムービーは、「生活者にとっての価値」と「企業やブランド側からのメッセージや理念」の双方を両立する動画マーケティングコンテンツとして、いま非常に注目を集めている。リポート後編では、国内外の優れたブランデッドムービーを上映・表彰する「Branded Shorts」を取材。優秀賞受賞作や話題作の事例を紹介しながら、ブランデッドムービーの現状と未来を考察する。(文/堀 香織)

 米アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2017」は、企業のブランディングを目的として制作されたブランデッドムービーを上映・表彰するイベント「Branded Shorts」を6月に開催した。国内外問わず公募制で集まった作品は36本。最優秀賞の「Branded Shorts of the Year」は、インターナショナルカテゴリー部門では『Notes』(カナダ・トロントの文具店Take Note)、ナショナルカテゴリー部門では『THE WORLD IS ONE FUTURE, JAPAN, SOUTH AFRICA, AND AUSTRALIA』(トヨタ自動車)がそれぞれ受賞した。

 『Notes』は、一組のカップルの初デートから結婚、出産、夫婦の危機、老後、そして別れまでを、互いが直筆で交わすメモのやりとりを軸に描く秀作だ。審査員長の映画監督・崔洋一氏は「非常にアナログな表現だが、一曲のシャンソンがひとりの人生を歌い上げるかのように、約4分に凝縮されたやりとりのなかにふたりの人生模様が見事に描かれていた。そこには男女という枠組みを超えた普遍性が込められている」と高く評価した。

◆インターナショナルカテゴリー部門最優秀賞受賞作品『Notes』(Take Note)

 トヨタ自動車の『THE WORLD IS ONE FUTURE, JAPAN, SOUTH AFRICA, AND AUSTRALIA』は、日本と南アフリカ、オーストラリア、そして近未来という4つの舞台を、4分割された画面に映し出し、同じシナリオ、同じカメラワークでそれぞれの若者の恋と友情を描いた作品だ。「僕たちをワクワクさせるものは永遠に変わらないはずだ」というメッセージが、時代や国境を軽やかに超えて、あざやかに描かれている。

ブランデッドムービーの使命とは?

「Branded Shorts」の最優秀賞はカナダの文具店Take Note(インターナショナルカテゴリー部門・中央)と、トヨタ自動車(ナショナルカテゴリー部門・右から5人目)が受賞。授賞式では、映画祭代表の別所哲也氏、審査員長の映画監督・崔洋一氏ほか7名の審査員が壇上で講評を行った

 授賞式では、「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2017」の代表で俳優の別所哲也氏ほか、審査員8名が登壇し講評を行った。審査員長の崔監督は総評として「企業広告のためではなく、企業の社会性や存在意義、哲学を表現することが、ブランデッドムービーの使命だろう」とコメント。別所氏は、「企業、サービス、プロダクト、それぞれに物語があると思う。ブランデッドムービーが今後どのように変化していくのか、アートか、エンタメか、それとも文化か、非常に楽しみだ」と語った。

 このほか、「ブランデッドムービーは新しい映像文法を開発する場だ(映画監督・山戸結希氏)」、「退屈な日常も、映像にすれば、人生を肯定できる。誰にでも起こり得る出来事をこういう手法で見せることに共感と嫉妬を覚えた(映画監督・行定勲氏)」など、ブランデッドムービーに対する期待を感じさせるコメントが寄せられた。

言語や国境を超えた成功事例

 「日本のブランデッドムービーの走り」と目される岩井俊二監督の『花とアリス』を2003年に自社ウェブサイトで公開し、その後も日本の動画マーケティングを牽引してきたネスレ日本。映画祭では同社の新作ショートフィルム『わかれうた』の完成発表会も行われた。

 本作は、同窓会に集う男女の38年ぶりの再会を、コーヒーの香りを通して甘酸っぱくほろ苦く描いた短編ドラマ。監督は女優の黒木瞳さん、主演は石野真子さんが務め、ネスレアミューズ内のWeb映画館「ネスレシアター」にて無料公開している。

日本の動画マーケティングを牽引するネスレ日本は、黒木瞳さん監督、石野真子さん主演による新作を発表。高岡浩三・ネスレ日本代表取締役社長兼CEOは、ブランデッドムービーの可能性に言及した

 イベントに登壇したネスレ日本の高岡浩三・代表取締役社長兼CEOは、ブランデッドムービーの意義について「新しいブランドを認知してもらう役割において広告はいまも有効だが、『キットカット』や『ネスカフェ』のように認知率がきわめて高い場合は、お客さまのブランド理解を深めることが次のステップとなる。そこでインターネットの普及もあり、ブランデッドムービーという方法にたどり着いた。企業ブランドの哲学を、国境を超えて表現できるブランデッドムービーには可能性がある」と語った。

 2016年10月、ネスレ日本は「キットカット」を韓国で販売開始、またたく間にチョコレート市場のシェア10%を獲得したという。TVCMは行っていないが、2月から岩井俊二監督、韓国人キャストによるブランデッドムービー『チャンオクの手紙』を公開しており、潜在的な「ネスレファン」を獲得していたものと思われる。まさに高岡社長曰く「言語が違っていても、心と心がつながる」、ブランデッドムービー効果の真骨頂といえそうだ。

多くの人に見てもらうために、何が必要か?

 「Branded Shorts」の一環として、「エモーショナルなブランデッドムービーとは何か? ~メディアを横断するブランドデザイン~」と称するトークイベントも開催された。

 登壇したのは、マルチタレントの松尾貴史氏、電通クリエーティブディレクターの中尾孝年氏、読売テレビ放送編成局編成企画部長の西田二郎氏、そして映画祭代表の別所哲也氏の4人。1つ目のテーマ「人の心を動かすエモーショナルな映像とは?」では、野村證券の『世界でいちばん、応援したい人は誰ですか。』という、思春期の娘と父親の関係を描いた作品が上映された。

 初めて見たという西田氏と松尾氏は「不意打ちで、泣けた」と告白。中尾氏は「普段は15秒の世界で勝負しているので、4分という長さが羨ましかった」と前置きし、「ブランデッドムービーもいま、販促広告なのかブランド広告なのかという大きな分かれ目に差し掛かっている。前者は、商品に優位性があるときは効果的だが、技術が進歩して他社に追い抜かれることが日常茶飯事で、果てしない闘いとなる。後者はそのような機能合戦とは違い、“企業のファンにさせる・選んでもらえる商品になる”というシンプルな意図のみで描くことができる」と語った。

 これを補足するように別所氏が述べた2つの言葉が、ブランデッドムービーに求められる要素を端的に示しているだろう。「ベターライフ」と「アナザーライフ」だ。「ベターライフ、つまりよりよい人生の気づきというものを企業がメッセージとして伝える時代になってきたと思うんです。それからアナザーライフ。誰かのひとときや人生まるごとを短い時間ながら描くことで、自分事として受け止めて考える。そんなエンタテインメントの原点のようなものを、いまのブランデッドムービーに感じます」

◆野村證券『世界でいちばん、応援したい人は誰ですか。』


 「ブランドの想いを届けるには?」というテーマでは、日本のレンズメーカー・シグマによる作品『blur』が上映された。

「100人の知人より一人の親友」を得る

 本作は、キャンピングカーで暮らす、目の悪い冴えない父親と息子の心の交流を描いた、15分の長尺モノ。制作チームは日本だが、舞台はアメリカ。全編英語で物語られた異色作だ。また、他の作品と大きく違うのは、エンドロールがあり、よりシネマチックなだけでなく、「カメラレンズ」いう商品がしっかりと描かれている点にある。

 YouTubeでの再生回数は多くはないが、「企業が15分じっくり見てくれるような人を購買層・ファン層に考えているのではないか。『このカメラ、持っててよかった』と思わせるような、企業の存在意義に帰着させる作品だと思う(別所氏)」「『知人を100人つくるより、親友が一人いればいい』という関係性があるとしたら、そういう意味で非常に成功している(中尾氏)」などの感想が語られた。

 読売テレビの西田氏は「本作はテレビとの親和性が高い」と分析する。「テレビというのはたまたま見た人間をつかまえていくというメディアであり、見る気のない人間を最後まで見させるパワーがあるんです。本作のようなブランデッドムービーの集大成みたいな作品には、それと同じような要素があるのではないかと思う」

◆シグマ『blur』


 現在、ブランデッドムービーは「“ノールール”がルール」だと別所氏はいう。過渡期にあるからこそ、さまざまなチャレンジが可能であり、ブランドに新しい価値を付加する可能性を秘めているのだ。来年20周年を迎える「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」では、8月から2018年度に向けた作品募集が始まる。ブランデッドムービーのあり方や新たな価値を感じられる作品と出合えることが、今から楽しみだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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