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国立大学改革を「地元就職向上」で評価に現場から不満噴出

2017年05月16日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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国立大学改革の一環として、目標達成度に応じて各大学への国の運営費交付金に差をつける制度が2016年度から始まった。ノルマの一つ「地元就職率向上」について、初年度の進捗具合が今後明らかになるが、高い目標を掲げる大学経営陣に対し、現場から不満が噴出している。(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)

「さらに地元就職率をアップさせろって? ああばかばかしい」

 地方国立大学のある教員はそう吐き捨てるように言う。国立大学へ改革を促すために、国は評価指標の達成度に応じて運営費交付金の配分に差をつける制度を導入した。この教員が勤める大学は、評価指標の一つに地元就職率を選び、高い目標値を設定した。

「都会で働きたいという希望も大いに結構。学生の可能性に対して中立でいたいというのが当たり前でしょう?」と教員は憤る。こうした不満が今、全国そこかしこで噴出している。

 2016年度に導入されたこの制度は、国立大学に機能強化する方向性を「(1)地域貢献」「(2)特定分野の教育研究」「(3)世界水準の教育研究」の三つから選ばせるというもの。この類型に則した評価指標の達成度に応じて、運営費交付金の一部(17年度は約100億円)が配分される。

 (1)の地域貢献を選んだのは86大学中55大学。そのうち約半数が「地元就職率の向上、維持など」をあまたある目標の一つに掲げた。地元への人材輩出というのは、地域貢献として分かりやすい。

 地元就職率を評価指標にした大学のほとんどは首都圏以外(下表参照)。中には目標値をかなり高く設定した大学もある。

 目標達成までの期間や基準値が大学ごとに異なるので一概には比較できないが、単純に基準値と目標値のポイント差で見ると、表で枠で囲った島根大学など6大学はポイント差が大きい。つまり高い目標を掲げている。

 島根大は14.7ポイント、京都工芸繊維大学は13ポイント、愛媛大学は12.3ポイント以上、秋田大学は10.1ポイント、茨城大学と大分大学は各10ポイント以上を積み上げる計画だ。

 もちろん、現状維持または現状よりわずかにアップすることを目標に掲げる“現実路線”の大学も少なくない。例えば、旭川医科大学は道内就職率65%以上維持を掲げている。

 基本的には、地元就職率が高かった大学は現実的な目標を、低かった大学は高い目標を立てる傾向が見て取れる。それに「国からのプレッシャーを感じて忖度し、目標値を高くする」(大学関係者)という要素が加わる。少子化時代を生き残る大学となるために、改革色を打ち出したいというわけだ。

 各大学で集計するため時期は前後するが、夏ごろには、昨年度の実績が出そろいそうだ。

「うちの進捗は遅くないか」「他大学はなぜあれほどアップしたのか」──。ノルマを負う国立大学幹部たちは、他の国立大学の地元就職率の動向に気をもむことになろう。

都市部就職志望へ切り替えた途端 「対応が悪くなった」

「東京大学には無縁のお話」と、地方大学教員はうらやましい? Photo by Masataka Tsuchimoto

 冒頭の教員が勤める国立大学は、「地方の雄」。就職においては、これまでも地元企業から引く手あまた。学生の地元就職率はまずまずで、教員の目には“飽和状態”に映る。それなのにさらに数字を上げる目標が掲げられた。

「教員にノルマが課され、ゼミ生に地元就職を強制する事態になるのではないか」と教員は懸念する。

 この大学で現状、地元就職率アップのプレッシャーを直接受けているのは、就職活動をサポートする就職支援課である。

 ある学生は「地元就職志望だと手厚くサポートしてくれたのに、都市部希望に切り替えたら、途端に対応が悪くなった」と首をかしげる。大学が地元就職率アップを目標に掲げていることを、ほとんどの学生は知らないという。

「学生は自分の将来を真剣に考えているのに、大学の忖度に付き合わされて地元就職へ誘導されるようなことがあれば、罪深いことになる」と前出の教員は憂う。

 地域貢献を焦点にした大学の機能強化は、国の地方創生推進と密接に絡んでいる。

 地方創生の理念に異論は少なかろうが、若者の東京一極集中の是正を「地方大学にばかり求めるな」という声も根強い。学生の「職業選択の自由」(憲法22条)を狭める恐れがあってはならないのは言うまでもない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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