PC/モバイルセキュリティ、「フリーミアムモデルが通用しなかった日本」での戦略は
「世界4億ユーザー」のAvast、日本の家庭向け市場で本格展開開始
2017年04月07日 07時00分更新
チェコのセキュリティソフトベンダーであるAvast(アバスト)が4月7日、日本のコンシューマー市場(家庭向け市場)での本格展開に向けた記者説明会を開催した。グローバルで4億以上のユーザーベースを持つ実績と技術力を生かしつつ、近日中に日本法人を設立し、日本市場独自のマーケティング/販売戦略を構築、実施していく。
PC/モバイル/ホームネットワークにセキュリティを提供
チェコの首都、プラハで1988年に設立されたAvastは、PC/Mac向けの統合セキュリティソフト「Avast 2017」や、iOS/Android向けの各種モバイルセキュリティ/ユーティリティアプリ群を提供している。現在は米国シリコンバレーや欧州、イスラエルにも主要オフィスを構え、昨年(2016年)には同市場で競合だったAVGを買収し、グローバルでのユーザー規模を「4億ユーザー以上」に拡大した。
PC/Mac向けAvastには、無償版で基本機能を備えた「エッセンシャル」、有償版でより高機能な「アドバンスト」「コンプリート」の3種類がある。最新版(Avast 2017)のアンチウイルス/アンチマルウェア機能には、買収したAVGの技術も統合されており、単純なファイルスキャンだけでなく、リアルタイム解析による未知のマルウェア対策、ランサムウェアなどの活動を検知/ブロックする「挙動監視シールド」といった機能も盛り込まれている。
また、アンチウイルス以外のユニークな機能として、ホームネットワーク内のルーターやデバイスの脆弱性をスキャンする「Wi-Fiインスペクター」、あらゆるWebサービスのパスワードを暗号化領域で一元管理するパスワードマネージャー、Adobe Reader、Microsoft Office、Javaなど脆弱性が狙われやすいソフトを自動的に最新版にアップデートする「ソフトウェアアップデーター」なども提供している。
一方、モバイル向け製品では、アンチウイルス/マルウェアやパスワード管理、盗難対策といったセキュリティのアプリだけでなく、デバイス内の不要ファイル削除やバッテリーセーバーなどのパフォーマンス向上アプリ、無料Wi-Fiスポット検索、VPNといった“ライフハック”アプリをラインアップしている。
また、モバイルデバイスはアプリから制御できる機能に限りがあるため、ハードウェアベンダーやモバイル通信事業者とも協業している。たとえば、チップベンダーのクアルコム(Qualcomm)との技術協業によってハードウェアレベルでのセキュリティ機能を実装しているほか、米国のモバイルキャリアが提供するセキュリティサービスも支援しているという。
またAvastでは、家庭向けルーターメーカー向けにセキュリティプラットフォーム(ソフトウェア)を提供する“セキュアルーター”の取り組みも行っている。具体的には、Linuxベースのルーターに対し、Avastが開発したセキュリティ機能ライブラリを提供し、Avastクラウドとも連携させることで、簡単にセキュリティフィルタやペアレンタルコントロール、VPNといった機能が追加できるという。米国ではすでに“Powered by Avast”のセキュアルーターが販売されている。
この動きの背景にあるのは、コンシューマー市場でIoTデバイスが急増している一方で、ほとんどのデバイスにはセキュリティ機能が実装されていない(できない)という現実だ。ヴルチェク氏は、IoTデバイスの世界は開発者にも利用者にもセキュリティの専門知識がなく、非常に危険な状況にあることを指摘し、ルーターメーカーや通信キャリアと協力して、ネットワークレベルでセキュリティを提供していく方針だと説明した。
フリーミアムモデルが通用しなかった日本市場に“全面ローカライズ”で挑む
Avastでは、5~6月を目処に日本法人を設立し、日本のコンシューマー市場への本格展開を開始するという。説明会終了後、単独インタビューの機会が得られたので、ヴルチェク氏と日本カントリーマネージャーの髙橋実氏にその戦略を聞いた。
これまでAvastがユーザーベースを急速に拡大してきた背景には、「フリーミアムモデル」の採用がある。同社では、まだ“フリーミアム”という言葉が生まれる前の2001年から無償版ソフトウェアを提供してきた。無償版配布で多くのユーザーベースを獲得し、より高度で便利な機能が使える有償版への乗り換えを促すモデルだ。
ヴルチェク氏は「過去10数年間、このフリーミアムモデルはほとんどの国で成功を収めたが、日本は例外だった」と説明する。
ヴルチェク氏の見解では、日本の市場では「無償製品=品質が低い」というイメージが根強く、高い品質を期待する日本の消費者には敬遠されがちである。さらに、消費者はカスタマーケアの品質も重要視するが、日本語によるサポートには大きなコストがかかるため、ビジネスモデル構築が難しかったという。消費者の購買行動も、欧米市場と比べて保守的だ。
今回の本格展開開始に当たっては、日本法人を立ち上げて営業やサポートの 基盤を整え、「日本市場に合う形で、あらゆる面でのローカライズを実施していく」と高橋氏は説明した。たとえば有償版ユーザーへのカスタマーサポートやユーザー向けコンテンツ(SNS、ブログなど)などを、日本ローカルで企画し、提供していく。
また販売チャネルも、日本の消費者の購買行動に合わせて幅を広げていくという。従来はオンライン直販が中心だったが、ローカルの販売パートナーを通じたオンライン間接販売や、ディストリビューター経由でのリテール(小売店)販売も検討していくという。高橋氏は、アフィリエイトプログラムも日本独自のものを展開していくと語った。
そのほか、すでにグローバルで取り組んでいるモバイルキャリアやルーターメーカーとの協業に関しても実施していく方針だ。
「Avastの製品、そして技術は、世界中で認められた“No.1”のものだと自負している。これからローカルのパートナーとともに、自信を持って日本市場にも展開していけると考えている」(ヴルチェク氏)