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なぜAmazonですらUXデザインの「ダークパターン」でユーザーを騙すのか

2017年02月12日 23時00分更新

文●Aja Frost

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コンバージョン率を上げ、短期的なビジネスゴールを達成するために、UXデザインの「ダークパターン」を採り入れる企業が後を絶ちません。4つの実例をもとにダークパターンの問題点を考えてみましょう。

多くの人もそうだったと思いますが、2016年11月8日、私はスクリーンにくぎづけになっていました。そのとき私が米国大統領選挙戦の結果をめぐって当てにしていたのはThe New York Timesでした。ほかのどのソースよりも信頼していたからです。

The New York TimesのWebページの一番上に、「選挙予想」というダイヤルがありました。

ダイアルが意味していたのは「大統領選に勝つ確率」で、左側に激しく揺れ動いていました。このとき私はすでに不安でいっぱいでしたが、それはどんどん高まっていきました。

GIF: NYT Election Ticker animation.

GIF:New York Timesによる大統領選予想アニメーション

New York Timesの記者、Jake Swearingenは次のように語っています。

トランプ側、クリントン側ともに支持者はやきもきしていましたが、同時に画面から目が離せなかったようです。情報がすぐに反映されやすいので、情報がさほど変化しないネットワークニュースやケーブルテレビのニュースよりもはるかに中毒性が高く、その分不安がかき立てられたのだと思います。

しかし、ここでのダイヤルの揺れは、トランプ氏やクリントン氏の当選見込みの変化をリアルタイムで反映したものではないと分かりました。New York TimesのデザイナーがJavaScriptを使用してランダムな「揺れ」を作成し、ダイヤルに組み込んでいたのです。たぶん、Times側も「本当の」データはそこまで過激なものにはならないと分かっていたのだと思います。

これはUXの「ダークパターン」の典型的な例です。そう、人びとをだまし、誤解させ、または操るためのインターフェイスです。ここでは4つのダークパターンの特徴、そしてなぜ排除すべきかについて説明していきます。

1. サービス継続をほぼ強制する

サービス継続の強制は、ダークパターンで一番ありがちなものです。誰でも少なくとも1回はこの罠に引っかかったことがあるのではないでしょうか。無料トライアルの代わりにクレジットカード情報の入力画面が出てくるようなパターンです。

こちらとしては、「トライアルが終わりそうになったらキャンセルしよう」と考えています。

問題は、こういうパターンを仕掛けてくる企業は購読停止プロセスをできる限り複雑にしていることです。トライアルの失効時期についてのリマインダーはなかったのに、たまたま覚えていて停止しようとすると、イライラするくらい難解なキャンセル手続きを進まなくてはなりません。

HBO

たとえば筆者の場合、最近銀行の明細書を見ていたら、HBO Go(米国の有料TV局が運営するネットサービス)に6カ月も支払いをしていたことに気づきました。

HBOが私からお金を取っていたのは確かで、しかも高すぎました。私にとってはもう信用できない会社です。

ビジネスがこのパターンを捨てることで得られるものはカスタマー・ロイヤルティだけではありません。というのは、トライアル登録画面にクレジットカード情報入力欄を設置すると、登録率が下がってしまうからです。

私のように以前痛手を受けたことのあるユーザーなら、多くがトライアルそのものをあきらめてしまいます。結局、支払いに関する情報はトライアル期間が終了してから入力してもらうようにしたほうが、基本的にはコンバージョン率が上がるのです。

2. オプトアウトメール

EコマースのWebサイトは、ニュースレターの購読をしないことを自分で選択しなければならないものがほとんどです。そして急いでいたりうっかりしていたりすると「お知らせやプロモーションに関するニュースレターに登録する」ボタンにチェックが入っていることに気づきません。

しかし、長い目で見れば、このオプトアウト戦略はユーザーとの関係を悪化させてしまいます。登録した覚えのないメール受信をありがたがる人はいないからです。

コメディアンのLouis C.K.は自分のWebサイトを作る際、わざと「自分がインターネットで嫌いなことを考慮してデザイン選択をした」そうです。

サイト制作者は「メールリストへの購読ボタンにチェックをあらかじめ入れておくか、入れておかないか? 普通は入れておくものだ」と言っていたのですが、C.K.本人は「ノー」と答えたのです。

本人によると、彼のメールを購読しているのは熱心なファンだけだそうです。しかし、その成果はすばらしいもので、Webサイト立ち上げ1週間以内に100万ドルの売上を叩き出しました。

カスタマーまたはユーザーにオプトアウトではなくオプトインを選択させるようにすれば、その報酬は莫大なものになります。獲得できるメールアドレスは減るものの、エンゲージメント率やクリックスルー率(CTR)は、C.K.の例のように高まります。熱心な「ファン」だけにメールを送ることになるからです。

3. 配信停止リンクが見えにくい

プロモーション目的のメールから逃れるのはとても大変です。それを配信停止するとなるとなおさらです。コンピューターサイエンティストのLea Verouが、プロモーションメールの最下部にある見えにくい、または隠れた配信停止リンクを探し出すツール「Spot the Unsubscribe」を開発したほどです。

たとえば、Amazonは配信停止リンクのコントラストをほかのリンクよりも大幅に低くし、見えにくくしています。見れば分かる通り、この中で配信停止リンクを見つけるのはとても大変です。

笑ってしまうほど探しにくいものもあります。イギリスの鉄道会社のWebページの配信停止リンクは、もはや「ウォーリーをさがせ!」レベルに達しています。

配信停止リンクを隠したくなる気持ちも分かりますが、配信停止をしたがるユーザーはエンゲージメント率が低く、コンバージョンに貢献することもありません。

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配信停止率が高すぎるという心配をしているなら、ユーザーに購読頻度を決めてもらうようにするのがおすすめです。コンテンツやメールの回数を自分で設定した購読者の満足度は高く、エンゲージメント率も高くなるからです。

SaaSマネジメント・プラットホームのBetterCloudでは、登録の時点で購読者にいろいろな購読オプションを示しています。

前もってイエス・ノータイプの質問に答えることによって購読スタイルを決められるので、一般的な購読者がメールの価値をきちんと見いだせるようになっています。

4. 友達登録のスパム

UXコンサルタントでありDark Patternsの創業者のHarry Brignull氏は「友達登録スパム」のことをWebサイトやゲームにログインする際にログイン認証情報を求めてくる仕様と説明しています。それ自体にはあくどい目的はないものの、ユーザーが気づかないうちに、または許可なくアカウントに投稿してしまうことがあるようです。

こうしたスパムは零細企業だけではありません。「コンタクトを追加」機能をめぐり、LinkedInも2015年10月になんと1300万ドルの訴訟に巻き込まれています。ユーザーのアドレス帳からメールアドレスを取得し、LinkedInへの登録メールを何度も送っていたためです。原告によると、このようなメール送信を停止するのはほとんど不可能だったそうです。

LinkedInはもっと透明度の高いサービス提供を約束しましたが、このように友達スパムに手を染めている人気SNSはこれだけではありません。

最近ではFacebookも、新しく友達になったユーザー間で自動的に会話が始まるような機能を追加しました。どういうことかというと、私がJohn Doeさんからの友達リクエストを承認すると、John Doeさんから新しいメッセージがあったという通知が来て、そしてJohn Doeさん側も私から新規メッセージがあったという旨の通知を受けるという仕組みです。

LinkedInのような惨事にならないかもしれませんが、友達登録スパムには依然として高い対価が伴っています。騙されたと感じれば、ユーザーは裏切られたと考えます。SNSでのアイデンティティと現実のアイデンティティとの同化はますます進んでいます。こうしたアイデンティティを自分の利益のために使おうとすれば信用をすべて失います。

ダークパターンを使えば短期間での収益アップが可能ですが、最終的にはビジネスにとって悪影響になってしまいます。ダークサイドには傾倒しないのがおすすめです。

(原文:Dark UX: Dirty Tricks and Tactics to Avoid in 2017

[翻訳:加藤由佳/編集:Livit

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