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JAWS-UGの生みの親が実践した「自走するコミュニティ作り」とは?

AWS卒業の小島英揮さんがJAWS-UGの舞台裏を語り尽くす

2016年09月01日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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日本最大のクラウドコミュニティ「JAWS-UG」の生みの親ともいえるアマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSJ)の小島英揮さんが8月末で退職する。最終日の8月31日、目黒のAWSJオフィスに駆けつけ、自走するコミュニティ作りを実践し続けた6年9ヶ月を聞いてきた。

前職の時代から体感してきたベンダーとコミュニティとの距離感

 AWSJ(当時はアマゾン データ サービス ジャパン)の一人目の社員として入社した小島さんが、ADSJ主体でJAWS-UGを立ち上げたのは2009年12月にさかのぼる。「コミュニティでAWSをドライブする」というコンセプトを据え、当時の小島さんはmixiのユーザーグループや前職のつてで得た人脈、さらにはAWSの書籍を執筆しているエンジニアなど、さまざまな人を訪ね、JAWS-UGのコンセプトを説明し続けた。

 コミュニティ作りで当時から意識していたのは、今でも話題になるユーザーコミュニティとベンダーとの距離感だった。JAWS-UG立ち上げのときも、前職のアドビ時代にAdobeFlexのユーザー会「FxUG」を立ち上げたときのノウハウが活きていたという。

「ユーザーコミュニティとベンダーの距離がそれほど遠くなくてもよいというのがアドビ時代の気づきでした。FxUGのコミュニティは最初からベンダーが近くにいたので、良好な関係ができた。ベンダーは新しい情報を提供し、ユーザーからは不具合や使い勝手などに関するフィードバックが得られた。この体験があったので、自然発生的にコミュニティを待つのではなく、ベンダーから仕掛けても大丈夫だという感覚がありました」(小島さん)。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン マーケティング本部長 小島英揮さん

 ベンダーが近すぎるとコミュニティが忌避するが、ベンダーが強すぎるとコミュニティが自主性を失う。JAWS-UGが大きく成功したのは、小島さんがアドビ時代に体得したこの絶妙な距離の取り方だと言えるだろう。

東京リージョン開設を契機にAWSユーザー同士がつながり始める

 こうして立ち上がったJAWS-UGのキックオフイベントは2010年の2月23日。「このときは米国からジェフ・バーに来てもらって、セッションしてもらいました。当時は日本だけで回せなかったけど、米国ではコミュニティに対して理解していたし、サポートも受けられた」と小島さんは語る。ベンダー主導でコミュニティを作るという新しい取り組みは、グローバルでも珍しかった。「当時のAWSのサイトにもコミュニティの紹介はされていたけど、オーガナイズされたコミュニティはなかった」(小島さん)。その年には、大阪や福岡などでもキックオフイベントを始め、現在の支部制の原型が固まってきたという。

 2011年3月には待望の東京リージョンが開設され、これにあわせて秋葉原で開催したのが「JAWS Summit」というイベントだ。このとき初めて各支部のJAWS-UGのリーダーが集まり、全国組織としての活動が本格的にスタートする。「東京だけでなく、大阪や福岡の人も来てもらったのですが、このとき初めて知ったという感じですかね。リーダー同士がお互い何をやっているか知る機会を設けることは当時から大事だと思ってました」(小島さん)。ちなみにこのとき東京リージョン開設を祝って、胴上げされたのはかなり小島さんの印象に残っているようだ。

 また、東京リージョン開設の時期に起こった東日本大震災支援のタイガーチームの存在も大きかった。「AWSは震災の被害者のためにサイトのリソースを提供することにしたのですが、実際の移行は大変だった。そこで多くのAWS社外のエンジニアが移行作業をボランティアとして手伝ってくれた。JAWS-UGでの関係がなければあのプロジェクトを起こらなかったし、あのときの関係が、今いろんなプロジェクトを進めるベースになっていると思います」と小島さんは語る。

地方支部を盛り上げるためのリーダー作りとリブート

 そして、2011年以降、JAWS-UGには地方支部が次々と生まれることになる。AWSJのメンバーが地方に出張した時に勉強会を実施したり、現地の人からJAWS-UGを立ち上げたいという声があがるなど、地方支部立ち上げのトリガーはさまざま。これに対してAWSでは、さまざまな手段で地元の人を勉強会に呼び込み、コミュニティの継続性をアピールし、地元でファシリテートする人を探してきたという。「私も懇親会の会場でファシリテートできる人を注意深く探していました(笑)。そして、みなさんの前でリーダーをお願いすることで次回からの活動をやりやすくすることが重要ですね」と小島さんは語る。

 どんな人がリーダーとしてふさわしいのか? 「視野が広い人ですね。たとえば、懇親会で話に夢中になっていても、そこオーダー大丈夫ですかと気遣える人は周りが見えている人。こういう人はコミュニティをファシリテートできる資質が高い」と小島さんは語る。実に小島さんらしいシャープな視点だ。技術に精通している人はコンテンツクリエイターとしても、スピーカーとしては素晴らしいが、コミュニティをリードできる人は別の資質が求められるというのが小島さんの論。「パッションがあって、新しい技術が大好きで、人に教えるのをいとわない。かつオープンな人でないと、コミュニティがタコツボ化してしまう」と小島さんは指摘する。

 こうした地方支部の支援でユニークなのは、活動が停滞している支部をAWS側からリブートしていくことだ。「運営側もボランティアなので、仕事が忙しい、個人の事情、参加者や会場の問題など、いろんな理由でやれなくなるのは当然。あと、新陳代謝がうまく行かないと、少数の人に負荷がかかって、行き詰まってしまうこともある」(小島さん)とのことで、休眠状態の支部は必ず存在する。特に運営側が少ない地方支部では、こうしたことも起きやすい。

 これに対して、まず、AWS側では開催回数などが少ない支部のリーダーとコンタクトをとって、ヒアリングを行なうという。ポイントは活動の停滞を個人に押しつけないこと、そして「リブート」というキーワードで支部再生をポジティブに実施することだという。

「ヒアリングした結果、活動が停滞するのはしょうがないですよね。でもリブートした方がいいですよねというのを、リーダーに納得してもらう。その上で、リーダーに承諾をとって、AWS側がいったん引き取って、リブートを仕掛けます。だから、リーダーが知らないところで、リブートになることはないんです」(小島さん)。

 こうしてAWS側に支部が引き取られると、新たなリーダー探しが始まり、AWS側からエンジニアが集まりそうなネタを提供したり、講師を派遣したりする。こうしてAWSが能動的にリブートを仕掛けた結果、息を吹き返した支部も数多くあるという。支部の再生もコミュニティ運営のフレームに組み込まれているのだ。

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