このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

実績と未来を見せた「AWS Summit 2016」 第7回

優良なコミュニティには魅力的なサービスが必須!

AWS幹部に聞いたエネルギーあふれるコミュニティの作り方

2016年06月20日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

AWSのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」がグローバルで大きな注目を集めているのはご存じの通り。では、AWSがコミュニティを重視するのはなぜか? そしてコミュニティをうまく運営するには? グローバルマーケティングチームを率いるアリエル・ケルマン氏と日本でのマーケティングを統括している小島英揮氏に聞いた。(インタビュアー:アスキー 大谷イビサ 以下、敬称略)

コミュニティで学びの機会と交流を作っていく

――まずケルマンさんがAWSの中でどういった部分を担当しているのか、教えてください。

ケルマン:AWSのマーケティングを担当している。いわゆるマーケティングとしての仕事は大手ベンダーと基本的に同じだが、特に注力しているのはお客様の教育だ。われわれは既存のITベンダーとビジネスが違っており、サービスを使い続けてもらえなければ、ビジネスにならない。だから、開発者に対してはいかにクラウドを活用してもらえるか、どうやって新しいクラウドアプリケーションを構築するか、ビジネスの方には従来型の人や組織をどのようにクラウドに移行させるかなど、今までのITとは異なることを教育している。

米Amazon Web Services グローバルマーケティングチーム アリエル・ケルマン氏

――いわゆるエバンジェリスト活動とは異なるのですか?

ケルマン:もちろん、そういった仕事も含まれている。ただ、われわれは組織の中に選任のエバンジェリストがおり、彼らは主としてソーシャルメディアを使って情報発信をすることが多い。お客様は、ソーシャルメディアを通じて情報収集されることが多いので。

――私はユーザーコミュニティをよく取材しているのですが、グローバルではコミュニティに対して、どんな活動をしているのでしょうか?

ケルマン:コミュニティをエンゲージする活動を推進している。コミュニティを通して、開発者はわれわれからいろいろ学んでいただけるし、開発者同士で学ぶこともできる。こうしたリアルな機会、あるいはデジタルな機会を開発者に対して提供するのが、われわれの役割だ。

――具体的な活動としてはどんなものがありますか?

ケルマン:リアルな機会としてはハッカソンやMeetupを実施している。デジタルな分野ではいわゆるコミュニティヒーローを創出する機会を作っている。たとえば、ブログを書いてもらったり、OSSのプロジェクトに周りのユーザーを巻き込んでもらうのが、われわれにとって効果的な取り組みだと考えている。

コミュニティヒーローにはエネルギーが蓄積する

――AWSはなぜこうしたコミュニティ活動をなぜ重視しているのでしょうか?

ケルマン:クラウドコンピューティングの本質は、破壊的(Disruptive)で大きな変化をもたらすものだ。人々はクラウドの技術的シフトというより、たとえるなら大統領選のような、何かを大きく変えるかもしれないという事実にわくわくしたり、興奮しているわけだ。その一方で、スキルがない企業や古いやり方で利益を上げてきた企業にとってクラウドは、その波に追いつけなくなるし、脅威になる。

――エンタープライズにとっても、クラウドは機会であり、脅威でもありますね。

ケルマン:多くの企業はオンプレミスから始まり、ITマネージャーがクラウドの存在を知り、そこから勉強を始める。そして実際に使って、新しいプロジェクトをやってみようと、メンバーに持ちかける。しかし、多くの企業にとって、新しいことはチャレンジだ。怖いからなかなか進まないし、苦労することもある。開発者やITマネージャーは周りから疑いの目を向けられながら、クラウド導入をまわりに説得しなければならない。でも、いったん成功すると、非常に満足度も上がるし、評価も上がる。ここまで進むと、この成功体験を共有したくなる。こうした方はヒーローになるわけだ。

――同じような立場の人によい影響を与えられるようになります。

ケルマン:大変な苦労をしながらヒーローになった方々は、プラスのエネルギーが溜まっている。実際の苦労や成功までの経験をほかのITマネージャーに伝えていきたいと考えているので、コミュニティではそのエネルギーを共有できる。そして、ヒーロー同士がお互いに体験を聞きあって生まれたストーリーは驚くべきパワーがあると思う。

コミュニティ作りの前提にはいい製品が必要

――とはいえ、こうしたエネルギーを自らわき出すように作るのは難しいですね。

ケルマン:昔、いっしょに仕事をしていたブランディング担当のマネージャーからは、「ブランドとはロゴじゃない」とよく言われていた。ブランドは他の人から自分がどう見えるかであって、そこで働く人や組織の動き方、お客様や取引先とのやりとりで決まるもの。だから、簡単に作れるものではない。われわれのコミュニティは、とにかく話したくて仕方ないというエネルギーが満ちあふれた場所。でも、そもそもいい製品・サービスがなければ、そんなエネルギーは生れない。単なるマーケティングイベントになってしまう。

――従来の大手ITベンダーは教育プログラムや認定、トレーニングを重視し、開発者やエンジニアを囲い込むのが、いわゆる勝ちパターンでした。最近は、他のベンダーもこうした教育プログラムだけでなく、AWSのようにユーザーコミュニティにシフトしている感じがするのですが、どういった事情があるのでしょうか?

ケルマン:他のベンダーがうちのようなことをやりたい気持ちはわかるが、それを成功させる前提としては、まず開発者がエキサイティングする製品がなければならない。その上で、エンゲージを実現するような組織体制が必要になる。

――ワクワクさせるような製品・サービスが前提だと。

ケルマン:たとえば、ネットワーク機器がバージョンアップして、新しいOSの認定を受けるとしても、それはエンジニアにとってエキサイティングなことだろうか? 彼らがエキサイトするのは、未来のコンピュータ言語やアーキテクチャなど次に来るもの。これに対してブラッシュアップしたいと考えるはずだ。過去の製品に新しいというラベルを貼り付けるようなやり方では、開発者やエンジニアはエキサイトしないと思う。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事