ついにあれと向き合うときが来た──。
覚悟を決めて押し入れを開けた。出したのは1枚の白いドレスシャツ。えりについた汚れをとるのが面倒で、そのうちクリーニングに持っていこうと思いながら、ずるずる1年放置してしまったもの。なまけ心の塊だ。えりには茶色く帯のような汚れがついており、妖怪のようなまがまがしさを感じさせる。
妖怪シャツと向き合うきっかけになったのは、シャープが発表した部分洗い用のハンディ洗濯機「UW-A1」だ。市場想定価格1万6200円、9月15日発売。38kHzの超音波振動で汚れを落とすハンディサイズの洗濯用品。これさえあれば汚れとなまけ心を断てるのではないかと、神器よろしく試供品を借りてきた。
※試したのは発売前の試供品です。発売後の製品とは性能が異なる可能性があるためご了承ください
超音波で妖怪シャツ退治
超音波ウォッシャーの原理はメガネ洗浄機と同じ。水に軽くひたしたシャツなどの衣類に超音波振動を発生させる「ホーン」という先端部をつけると、水の中に小さな泡が発生する。泡がはじける衝撃で繊維についた汚れを落とす理屈だ。
外出先で洗いたいときは、付属品のお化粧に使うようなパフケースに水を満たし汚れた面にあてることで洗面器代わりにする。
なお説明によれば洗えるのは水洗いできる衣類のみ。ナイロン製品、革製品、和服など、水につけられないものは洗えない。そのほか染料で染まったもの、黄ばみ、しみ、墨汁、マニキュアの汚れなどは落ちない。
さて妖怪退治だ。洗面器いっぱいに水をため、妖怪シャツのえりを沈める。本体底部の電源ボタンを長押しして白色の電源ランプを点灯させたら、いざシャツにホーンを当て動かしていく。
「ヂィィィィ」という小さな音とともに細かい泡が発生。何回かなぞると、黒い汚れが薄れていくのがわかった。心が動かされる。
しばらく往復を続けていると、シャツが邪気を払われて白さを取り戻していく。3分ほどで自動的に電源が落ちてしまったが、再起動して数回ほど動かしたところでドレスシャツは完璧にきれいになった。妖怪退治完了だ。あまりにあっという間に落ちてしまったので拍子抜けした。低級妖怪だった。
皮脂汚れがよく落ちるのはわかった。シャープは他の汚れもきれいに落ちると言っていたが実際はどうなのか試してみる。
なぜ?赤ワインが落ちない
試した汚れは赤ワイン、ドリップコーヒー、しょうゆ、中濃ソース、ラー油、キムチの汁、水性ボールペン、万年筆、トマトケチャップの9種類。ユニクロで買ったスーピマコットン100%クルーネックシャツを被験体にした。汚れは定着すると落ちなくなるので、5分以内に超音波ウォッシャーを当てている。
結果は少々意外なものだった。
■超音波ウォッシャー試験結果
※カッコ内部は洗剤あり
赤ワイン ▲(▲)
コーヒー ▲(○)
しょうゆ ○(○)
ソース ○(○)
ラー油 ▲(○)
キムチの汁 ▲(▲)
ボールペン ▲(○)
万年筆 ×(▲)
ケチャップ ▲(○)
赤ワインが落ちない。だいぶ薄くなっているが、洗剤を使って天日干しをした後も色が抜けきらず残った。キムチの汁もうっすら残る。コーヒー、ラー油、ボールペンは水だけだと残っていたが、洗剤を使えばすっきり落ちる。万年筆はそもそもインクなので“落ちない”汚れに該当していたが色としては意外と薄れた。
シャープの担当者に問い合わせてみると「赤ワインは商品によって濃さが変わってくるかと思います。赤や黄の汁系は結構手強いので、落ちるのに時間がかかることがあります」ということ。試験に使ったワインはチリ産のピノノワール。シャープが試していたのはもっとライトな赤だったということなのか、悔しい。
超音波ウォッシャーは洗濯前に気になる汚れを落とす“予洗い”に使うものなので応急処置としては使える。それと外出先で使うときもスティックタイプの洗剤をポーチなどに入れておいたほうがよさそうだ。
充電に5時間かかるのが残念
本体について。サイズは幅40×奥行き40×高さ168mm、重量は約200gで持ち歩きしやすい。デザインは流行りのステンレスボトルのようでかわいい。収納・充電用のスタンドを含めて洗面所に映える。カラーはピンクがいい色だ。
難点はニッケル水素電池(900mAh)の充電に約5時間かかること。外出先でいざ使おうと思ったとき電池が切れていたら使えない。乾電池駆動は難しいかもしれないがUSBケーブルから充電しながら動くように作ってほしかった。逆に動作時間は約30分間と短く、3分おきに自動停止する。食べこぼしのような点の汚れではなく、皮脂汚れのような面の汚れを落としたいときは気を使う。
もう1点気になったのは浮かせた汚れがそのまま水面に浮かんでただようこと。たとえばラー油をシャツからはがすと赤い点として拡散してしまう。浮かせた汚れを吸い込んだり拭きとったり、回収できる工夫があるとよかった。
最後に他の製品との違いはどうか。たたき洗いをするハイアールアジア「AQUA COTON」(実売価格1万800円)を詳しくレビューしていた家事男子・西牧くんに試してもらったところ次のようなコメントがあった。
COTONより音は小さいがやはり電源が難
「まず音がとても小さいです。素晴らしい。出先や会社でシャツを汚してしまったときに作業音がすると、いくらシミがキレイに落とせても使うのをためらってしまいます。超音波ウォッシャーはその点において、ほぼ無音に近いです。これなら場所を選ぶことなく使えるでしょう。
絶望的になったのはバッテリーが30分しか持たないこと。使用感でいうと襟の黒ずみや黄ばみをがんばって落とそうとするとすぐにバッテリーが切れます。小さなシミは落とせても広範囲の汚れには相当な時間がかかりそうです。さらに充電に5時間かかります。長いです。有線でも使えるか(充電中は動かなかった……)、電池駆動だとうれしいと感じました。
肝心の汚れ落としについて醤油と赤ワインで試したところ、しょうゆは水だけで、ワインは液体洗剤と水の併用でほぼ落ちました。ちなみに以前使ったCOTONも同じ結果でした(「ハンディ洗濯機COTONでシミを落としてみた」)。
最後に、電源が入った状態で誤って先端を触ってしまったのですが痺れるような痛みを感じましたので、先端には触れぬようご注意ください」
やはりバッテリーが気になるという意見が。西牧くんは赤ワインの汚れもほぼ落ちていたらしい。悔しい。ぶどうの種類なのか、わたしの試したシャツが汚れを定着させやすい素材だったのか、原因は究明してみたい。
◇
あらためて超音波ウォッシャーは部分洗いに一定の性能を発揮してくれるハンディ洗濯機。とくに皮脂汚れはすっきり落とす。もみ洗い・たたき洗いをしなくて済むぶん、シャツのえりのように負担をかけたくない衣類の予洗いに向いている。
予洗いに限らず洗濯機に超音波発生装置を搭載すればいいのにと思ったが、きっとそういうものではないのだろう。ともかくドレスシャツがきれいになってよかった。これからは1年も洗わずにためておかないようにしたい。
盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、記者自由型。戦う人が好き。一緒にいいことしましょう。Facebookでおたより募集中。
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