前回取り上げたDECを買収したのが、今回紹介するCOMPAQである。同社の設立は1982年、創立者はRod Canion、Jim HarrisとBill Murtoという3人の元Texas Instruments(以下、TI)のエンジニア(当時はいずれも中間管理職)だ。

世界最初のIBM-PC互換機メーカー
COMPAQ
3人は1981年末にTIを退職、IBM-PCの互換機ビジネスに乗り出す。Canion氏がCEO、Harris氏がSVP of Engineering、Murto氏がSVP of Sales&Marketingを担い、会長職には同社に最初の資金提供を行なったベンチャーキャピタルのBen Rosen氏が就いた。
ちなみに同社の最初の名前はGateway Technology, Inc.で、これを11月にCompaq Computer Corporationに改称している。
最初に同社が手がけたのは、ポータブル機である。下の画像が最初の企画イメージだそうだが、Osborne 1や、Kayproを連想させるものがある。実際構成としては近いものがあるが、大きな違いはIBM-PC互換機だったことだ。
画像の出典は、“Open: How Compaq Ended IBM's PC Domination and Helped Invent Modern Computing”
実はCOMPAQは世界最初のIBM-PC互換機メーカーである。キーになったのはROM BIOSである。ご存知の通り、IBM-PCはマイクロソフトが提供するMS-DOSが走っていたが、そのためにはMS-DOSに対応するBIOSを実装する必要があった。
この当時のIBM、というよりIBM-PCの設計・製造に携わっていたESD(Entry System Division)の長であるDon Estridge氏が凄まじかったのは、IBM-PCのすべての設計図はもとよりBIOSのソースコードまで公開していたことだ。
拡張ボードやソフトウェアのメーカーは、この公開された情報を元に、きちんと動作する拡張カードやソフトウェアを作成可能だった。
ちなみにこれを収めたのが通称Blue Bookで、日本でも購入できた。実際筆者も一度、IBM-PC/AT版を購入したことがある。
問題は、公開されているとはいえ、BIOSのコードは著作権で保護されているため、このBIOSをそのまま使って互換機を作ることはできなかったという点だ。これを行なうためには、Blue Bookに頼らずにIBM-PCのBIOSと互換のBIOSを自身で作る必要がある。俗に言うリバースエンジニアリング、という技法である。
リバースエンジニアリングは、クリーンルーム手法という、元のBIOSを解析するチームと、解析結果を元に新規のBIOSを作るチームを完全に分離し、かつ解析結果が合法である(元のBIOSコードが含まれたりしない)ことをきちんと担保する手法を利用すれば、法的にはまったく問題ない。
ただし、手間と時間がかかるため、当時リバースエンジニアリングに乗り出したメーカーは非常に数が少なかった。その最初の会社がCOMPAQであり、次いで後にBIOS専業メーカーであるPhoenix Technologyが続く。
COMPAQは互換BIOSを自社製品にのみ採用したが、Phonenix(その後にはAmerican Megatrends Inc.やAward Software International Inc.などいくつかメーカーが出てきた)は自社のBIOSをさまざまなメーカーに拡販した結果、IBM-PC互換機という市場が急速に立ち上がることになった。
さて話を戻そう。COMPAQはこの互換BIOSの開発に成功、11月にCompaq Portableをニューヨークで披露し、翌1983年1月に最初の250台の出荷を開始した。価格は2995ドルで、同時期に登場したカナダDynalogic社のHyperion(4995ドル)に比べると手ごろで、しかもきちんとMS-DOSが動作したため勝負は明白だった。
画像の出典は、“Obsolete Technology Website”
この年、経営陣は1983年中に1億ドルの売り上げを立てるという目標を立てたが、結果は1億1100万ドルと目標を上回る成績を上げた。

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