KDDIウェブコミュニケーションズは新たなブログプラットフォーム「g.o.a.t(ゴート)」を5月11日、発表した。4月1日付けで代表取締役副社長に就任したばかりの高畑哲平氏が陣頭指揮を執る代表“肝いり”の新サービスだ。レンタルサーバーの「CPI」の事業本部長、ホームページ作成サービス「Jimdo」の事業責任者を歴任してきた高畑氏。海外ではMedium、国内ではnoteが盛り上がりを見せつつあるとはいえ、いまなぜこのタイミングでブログプラットフォーム事業に参入するのか。狙いを聞いた。
「格好つけたって、いいじゃない」
g.o.a.tは、「Greatest Of All Time=史上最高」を意味する英語のスラングから付けられた。“後にも先にも、これ以上に優れたものは出ないと思えるほどすばらしい”ブログプラットフォームを目指して作られたというg.o.a.tは、日本発のWebサービスとは思えないクールなUIが印象的だ。
「ブログが進化すると、より雑誌に近づくのかもしれない」と語る高畑氏は、昨今流行りのInstagramをはじめ“SNSの世界は見栄の文化”だと揶揄されることに対し、「格好つけたって、いいじゃない」と持論を展開する。
「ブログには、文字の強さをもって自分の主義・主張を展開できる長所がありますが、どうしてもネガティブなムードがはびこるし、人を傷つけやすい面もある。そこに写真のようなビジュアルを多用して、文字とビジュアルを5:5の関係で表現できるようになると、よりよい表現ができるのではないかと思ったんです。清濁混合するインターネットの世界に、“清”の要素を増やしたい。ありたい自分を見せるためのブログがあっても、いいじゃないですか」
インスタ風フィルターなどビジュアル表現に強み
その高畑氏の思いを具現化した機能を紹介していこう。
g.o.a.tにログインするとエディターが開く。そこでまず、カバーフォトを選ぶところから始まる。記事の印象を大きく左右するカバーフォトは、自分で撮影した写真をアップロードするだけでなく、提携するストックフォトの中からも選択できるようになる予定だ。
挿入する画像は横幅いっぱいの全面表示が基本だが、クリック1つでレイアウトの変更もできる。また、FacebookやTwitter、Dropboxのアカウントと連携して、外部サービスにアップロードした写真を取り込み、g.o.a.t上で手軽にトリミングしたり、Instagramのようにフィルターをかけたりもできる。
記事内に追加できるコンテンツは、写真のほかにもYouTubeなどのビデオの埋め込み、LINE風の会話形式の表示、表組み、InstagramやTwitter、マップの埋め込みにも対応している。SNSのシェアボタンも、必要なボタンを選択するだけで配置できる手軽さだ。
「とにかく“書くこと”に集中してほしい。書いているうちにカーソルがどんどん下がって、自分で戻さないといけないストレスから解放されるために、常に画面の真ん中にカーソルがある状態にしてあります」と、高畑氏は細部に及ぶこだわりについて語る。
みんながやった先にある、誰もやっていない世界
このように“表現の進化”を追求したg.o.a.tだが、あくまでブログプラットフォームなのだと強調する高畑氏の背景には、「誰もやっていないことをやりたい」思いと、「誰もやっていないサービスで人々の生活を変えるのは難しい」現実とのジレンマがあった。
「インターネット業界にいると、どうしても世の中にないものを作りがちだが、誰もやっていないものを投入すると、それが何なのかを知ってもらうために多大な投資と労力がかかります。もうこれ以上、進化する余地はないと思われたサービスにこそ、革新的なものを投入したほうが、多くの人を幸せにできると感じていたところから、g.o.a.tは生まれました」
とはいえ、すでに数ある他のブログプラットフォームを利用しているブロガーや、これからブログを書きたいと思う人は、クールなサービスだという理由だけで使ってくれるものだろうか。
この疑問に対し、高畑氏は「メジャーなサービスの過去記事のインポートは検討していますが、優先度は高くない。海外でヒットしているサービスが“Product-Centered”を標榜しているように、そもそも移行ツールを作らなければいけないプロダクトでは世界に通用しません。g.o.a.tで書きたいと思う人が、自然と集まるレベルまで持っていきたい」と語る。g.o.a.tが狙っているのは、最初から世界なのだ。
ブログはまだまだ進化できる
KDDIウェブコミュニケーションズは、5月11日にベータ版(日本語・英語)の事前登録を開始し、6月から順次サービスを提供する。夏ごろには正式版へ移行し、年内に100万ユーザーの獲得を目指す構えだ。
認知拡大に向け、国内外のアーティストとコラボレーションしたプロモーションビデオを作成。人間の表現は声を発するところから始まり、g.o.a.tへと進化していくというメッセージを表現した作品で、独自の世界観を訴えていく。
今後は、第1フェーズとして“書くこと”にフォーカスした機能を、夏以降に追加していく。写真を背景にした縦書き記事や、アカウント間で記事を送信した共同編集機能、背景に動画を敷いて上に文字を載せるといった新たなスタイルも導入していく予定だ。「Evernoteなど他サービスとの連携も積極的に進めていきたい」と高畑氏は話す。
第2フェーズでは“読むこと”にフォーカスし、他のユーザーの記事を読みやすくする機能を随時追加していく。記事が溜まった段階で、ポータルサイトの開設も計画しており、今年中にはiOS・Androidともにモバイルのネイティブアプリも提供する予定だ。
g.o.a.tには広告は一切入らない。基本機能は無料で、いずれはすべての機能が使い放題になる月額課金モデルか、有料機能を利用した記事をパブリッシュする際に課金を求める少額課金モデルの導入による収益化を想定しているとのこと。ユーザーが自分の記事を販売できる課金機能も将来的には搭載予定だ。
「Googleだったら“ググる”のように、g.o.a.tで記事を書くことが1つの動詞になる世界まで持っていきたい。アルファベットの縦書きがクールに見えるようにしたいという野望もあります……いまのところ実現は難しそうなんですけど(笑)」と抱負を語る高畑氏。
「SNSの興隆によってブログは衰退するかと思いましたが、実際、“書く”という文化は残りました。もっと感覚的に自分の頭の中を表現していく世界へ近づけていきたい」