まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第53回
平澤直Pに聞く『ブブキ・ブランキ』とサンジゲンの新たなチャレンジ
甲子園を日本最大の興行たらしめる「物語のルール」をアニメに取り入れる!
2016年03月20日 17時00分更新
フェチシズムがハードルを高くしている?
平澤 じつはこのフェチシズムが、作品の魅力を形成すると同時に、若いアニメファンにとってはややハードルの高いものにしていると、ネット上の反応から感じています。
―― ハードル、ですか?
平澤 長くアニメに親しんできた比較的年齢層の高い人たちや、映画好きの人からは好評なのですが、若い方には1話、2話と回を重ねた後でも「物語がよく分からない」と言われてしまうことがあるんです。
―― 確かに、特番がスチームパンク的なところからスタートしたのに、第1話はラピュタ的な世界観で驚かされました。それぞれの世界の描かれ方に『ニヤリ』とできるか、『えっ!?』となるかで、楽しみ方が全然違ってきそうですね。
平澤 そのギャップは正直なところ我々が思っていた以上に大きなものがありました。フェチ的要素、そして絵作りの魅力などで訴求すれば、お客さんはついてきてくれるだろうと。でも、それが結果的に高いハードルに感じさせてしまった、と反省もしています。
いま多くの作品が、作品のほうから敷居やレベルを下げて、相対的に視聴者のほうが賢く――上から目線で――作品を語ることができる構造を取っています。ライトノベルやアプリゲームの多くがそうであるように、作品を主体的に読み解く努力を省ける作りになっているわけですね。お肉に喩えればどんどん柔らかくなっている。
―― 食べやすいけれど、噛む力は弱くなってしまいますね……。
平澤 そうかもしれません(笑) とはいえ、そこは僕の読み違いなので、主人公の目的や、ブブキとブランキの関係など、物語の構造や作品の魅力を伝えていく工夫をこれからも続けていきます。
作品を読み解く大きなヒントは、じつはオープニングに隠されています。第3話以降は登場人物、王舞や炎帝などすべての要素が描かれていますので、迷ったときには見直してみてください。
ニコニコチャンネルの『ブブキ・ブランキ』ページでは、第1話(および最新話を1週間)無料配信中。 |
新しい「スーパー戦隊のレッド」像を見せたい
平澤 いまの作品づくりは、これまでのジャンルの再開発・アーカイブ消費に即したものです。私がプロデューサーとして関わった翠星のガルガンティアもそうでした。先行するクリエイティブの成果に対して自分たちがどうアプローチするか、ということです。
―― 『ブブキ・ブランキ』の場合は、大きなロボット(王舞)がいて、それぞれ特色のある5人がいて……。
平澤 まさに“戦隊もの”がやりたかった。そして戦隊ものを新しく解釈するにあたって、『いきなりみな仲が良くてすぐロボットを動かせるけど、いまの時代でもそれで良いのか? そこにリアリティーはあるのか?』という疑問もあったんです。
もっと不揃いな人間たちが、ある宿命をもって集められ、何とか“団結や友情の象徴”である巨大ロボットも操縦できるようになる、そういうものではないかと。
さらに言えば、戦隊もののレッド(リーダー)って、時代と共に変化してますよね。あるときからチームを引っ張らなくなった。僕は中高一貫の男子校育ちで、ある種の“童貞力”を身に付けていると思っているんですが(笑)、大学に進学してから痛感したのが『戦隊もののレッドってウザい』ってコトなんですね。
―― 別のインタビューでゆうきまさみ先生も同じ指摘をされていましたね。「パトレイバーの太田は苦手」だって(笑)
平澤 いま求められる“戦隊”の形、新しいリーダーの有り様って何だろうというのが『ブブキ・ブランキ』の大きなテーマなんです。
ゆうきまさみ先生が仰るように、世の中が複雑になり、体罰のような暴力が世界中で否定されている。殴り合ってわかり合う、では通じなくなって、リーダーシップの有り様を変えなければならなくなった。就活でもコミュニケーションの巧拙が評価される時代、女性が輝く時代とも言われます。
そんな時代に男の子がどうやったら“輝ける”のか? 戦隊(チーム)内では、昔のレッドじゃダメなんです。
―― 確かに、そこは新世紀エヴァンゲリオンでシンジ君がどーんと投げかけて、しかしまだ誰も明確に答えが出せていないテーマの1つでもあります。柊の「俺のために王舞を動かせ」という台詞も印象的でしたね。
平澤 そういったある種“肥大した感情”が動かしたのが、第2話の王舞でした。では、あれが、王舞の“最強”の状態なのか? というのがこれからの物語での見所ともなると思います。
今回は「バットを長めに持った」作品
―― 先ほど「噛む力が弱くなった」という話もありましたが、視聴者も皆それぞれの問題と向き合っている。いま多くのアニメという“物語”が、そういった問題に目を向けさせない構造になっている。
平澤 エヴァンゲリオンもそういったタイプの作品だったと思うんです。みな面食らったけれど、なんだかよくわからないけど見なくちゃいけない、となった。いわばクリエイティブの力でねじ伏せられたんですね。そして10年以上続くヒットになった。
いわゆる売れ筋からどのくらいの距離を置いて、そのギャップをクリエイティブでどう橋渡しするかが、ヒットさせるには重要なんだろうなと思います。バットを長めに持つ、というイメージですね(笑)
―― なるほど(笑)
平澤 “就活アニメ”なんて言われたガルガンティアは、僕にとっては“バットを短く持った”作品なんです。職に就く、働く、ということは現実の世界でも様々な課題を突きつけてくる。その“課題を何とかしたいという欲望”に寄り添った形でコンセプトと宣伝のキーワードを作った部分が大きかったです。
―― 先ほどからバットやヒットという単語が出てくるように、野球の喩えはホントにわかりやすくて、深夜アニメも、試合をする選手=作品と、観客=視聴者という関係で言えば、バットを長く持った作品というのはある意味、ピンチヒッターですよね。
平澤 ホームランか、三振か、ですよね(笑) 『ブブキ・ブランキ』は通常よりもバットを長く持った、リスクをいつもより多く取った作品です。どんなプレーを見せるか、見守って欲しいと思います。
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