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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第308回

スーパーコンピューターの系譜 GPUをアクセラレーターに活用したClearSpeed

2015年06月15日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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 今回のスーパーコンピューターの系譜は、GPUを使ったアクセラレーターの話である。GPUを使ったアクセラレーターといえば、まずNVIDIA、ついでAMD、最後にインテルあたりがぱっと思いつくと思う。

 他にもARMやImagination Technologyも広義のアクセラレーターとしてはやはり名乗りを挙げているし、細かいところではVivante Corporationもこれに含まれるが、これらのベンダーは今のところモバイル向けSoC用のGPU/GPGPUを提供しており、HPCの枠からは外れるのでと除外すると、この3社が一番有名である。

CSX600

 だが、GPUを使ったアクセラレーターとして一番最初に名乗りをあげたのはClearSpeed Technologyである。ClearSpeedのCSX600は、国内では東京工業大学のTSUBAME 1.0にも採用されたので、ご存知の方も多いかと思う。ただし「あれってGPUだっけ?」と思われる方もいると思うので、今回はこのClearSpeedの話をしよう。

幻のビデオカード
「FUZION 1」

 ClearSpeed Technologyはイギリスに本拠を置くファブレス企業だが、その前身はPixelfusion plcという、やはりロンドンに本拠地を置くファブレスのグラフィックベンダーである。

 1999年8月のHot Chips 11で同社は“Massively Par allel Comput ing on the FUZION Chip”という講演を行なっており、1999年にはFUZION 1という製品を発表することを明らかにしている。

FUZION 1を発表。1999年8月の講演にも関わらず、なぜかスライドの日付が10月2日になっているのは謎。この時点で17年ほど水面下で色々な開発を行なってきて、99年にやっと製品化にたどり着きそう、という話になっている

 そのFUZION 1の内部構造が下の画像だ。“AGP/PCI Core Logic”や“Display Unit”、“Video I/O Unit”といった存在が辛うじてビデオカードらしいことを主張しているが、逆に言えばビデオカードらしい部分はこれだけで、肝心のFUZION CoreやLocal Memoryを見ると全然ビデオカードらしくない。

FUZION 1の内部構造。FUZION Coreが肝心の画像処理を行なうのだが、画像処理「しか」できないので、その他全般の処理は右端にあるARCコアが担うという、これもまた極端な構成。メモリーは4chのDirect RDRAMである

 FUZION Coreの内部がこちらであるが、6つのFuzion Blockがそれぞれ256のPE(Processor Element)とLocal Memoryを持ち、この256個のPE毎に1つのLEE(Linear Expression Evaluator)を持つ、というおもしろい構造である。

FUZION Coreの内部構造。PEの構造は後述する。正直なところ、LEEは汎用プロセッサーとしては意味があるが、グラフィック向けにこうした機構が必要なシーンがあまり理解できない。普通ならこれを固定機能で持つからだ

 LEEの話は後にして先にPEの構造を下の画像に示す。各々のPEは8bitのALUで構成され、32個のLocal Registerを利用できる仕組みだ。

PE(Processor Element)の構造。このPEが256個ということで、Registerは合計で8KB、DRAMは512KBの構成となる

 また各々のPEは2KBのメモリーを持つことができる。PE同士は相互に接続されており、連携して作業ができるようになっている。要するにFUZION 1は小規模ながらMPP(Massive Parallel Processing:超並列)の構造を持っているわけだ。

 ではLEEはなにをやるかというと、より複雑な計算である。直線の補完やポリゴンの塗りつぶし、シェーディングやZ-Bufferingなど、複数の頂点にまたがる処理がLEEの作業範疇だとしている。

LEEの処理内容。理屈はともかく、この時点で市場から求められていた機能はこうしたものではない気がする

 ちなみにこのFUZION 1は、0.25μmプロセスを利用してダイサイズは500mm2以上、消費電力は35W、7000万トランジスタという構成で、しかもeDRAMを使う関係でUMC/USICのみで製造できることになっていた。

 性能(予測値)は以下のとおりで、演算性能こそ異様に高いが、肝心のグラフィック性能があまりたいしたことがない。

  • 1.5T 8bit演算/秒(Multiply and Add)
  • 600GB/秒 on chip DRAM Bandwidth
  • 1.2TBytes/秒 PE bandwidth
  • 3GFLOPS Processing(IEEE互換)
  • 7GMACs(16bit×16bit)
  • 150M 3D Transformations/秒
  • 50M Triangles/秒

 当初の予定ではテープアウトが1999年10月、最初のシリコンは1999年12月初頭、これを搭載した最初のボードの製造が2000年第1四半期、システム検証とOpenGL/Direct3D対応ドライバーの準備ができるのは2000年第2四半期、という勇ましいロードマップを立てていたが、これを搭載したボードが世の中に出ることはなかった。

 1999年といえばNVIDIAがNV10ことGeForce 256をリリースした年であるが、そのNV10は0.22μmプロセスを使いトランジスタ数は1700万、ダイサイズは111mm2でしかなかった。

 消費電力はわからなかったが、ファンは必須といいつつそう大きいものではなかったから、35Wよりはるかに少ないのは間違いない。

 しかもNV10にはハードウェアT&Lを搭載していたが、FUZION 1にはその機能もない。FUZION 1そのものはコンシューマー向けというよりもワークステーション以上を指向した製品風だったため、必ずしもGeForceと競合はしないが、価格/性能比を考えたらどう考えても勝ち目はなかっただろう。

→次のページヘ続く (PixelFusionがプロセッサー製造ビジネスに転換

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