V3300は開発中に会社が潰れ、
V4400Eは高コストで製品化されず
V2x00の改善を諦めた代わりに、Renditionは新しく「V3300」の開発を開始した。このV3300は、描画パイプラインを2本持つとされており、1999年1月の完成を目指していた。同社の問題の根源であったRISC CPUの採用を続けるつもりだったのかどうかは不明だが、既存のパイプライン構造をそのまま持ってくるくらいのことをしないと、半年やそこらで新しいGPUを作るのは不可能だ。
察するに、V3300のパイプラインはV2x00のものをそのまま2つ搭載したような形で、下手をするとRISC CPUも2つ搭載するという、凄いものだった可能性もある。このV3300はDirectX 7にも対応予定で、中断した共同開発のスキームを継承して、オフチップの形でHardware T&Lエンジンを搭載する予定だったのかもしれない。
しかしその開発が終わる前に、Renditionの資金が尽きた。Vérité V1000は成功を収めたものの、V2x00シリーズの失敗は、まだベンチャーといってよい規模でしかなかった同社には非常に重い財務的負担となった。さらに、そこからV3300の開発費用を捻出するのは、事実上の自殺行為でもあった。
最終的に同社は1998年9月にマイクロン・テクノロジーに買収されて、V3300の開発プロジェクトはキャンセルされる。その代わりに、マイクロンに新設された「Integrated Products Division」という部門で、旧Renditionグループは新たに「V4400E」の開発に携わることになる。
マイクロンの思惑はなんだったのか? マイクロンは当時、同社が開発していたeDRAM(embedded DRAM)の使い道を模索しており、グラフィックチップがこれに適当と考えたからだ。具体的に言えば、グラフィック統合チップセットをマイクロン自身が手がけることを考えていて、ここに必要なグラフィックコアを模索していた。そこへちょうどRenditionが、事実上売りに出されたような状況になっていたので手を出した、という形である。
実際マイクロンは、Renditionの株主(同社はまだ株式公開前だったので少数)に対して株式交換の形で買収しているので、事実上無償で手に入れたようなものである。Renditionの創業者兼CEOであったJohn Zucker氏は、マイクロンの副社長兼Integrated Products Divisionのディレクターとなり、引き続きV4400Eの開発に携わることになった。
その結果はどうなったのかと言うと、一応ある程度までは設計が進んだようだ。実際に、12MBものeDRAMを搭載したV4400Eのフロアプラン(回路の配置図)が、2000年に開催された半導体業界のイベント「Microprocessor Forum」(MPF)で公開されている。
ところがV4400Eは、この時点ですでに開発が打ち切られていた。マイクロンがこのMPFで発表したのは、V4400Eを搭載せずにAGPポートを搭載した「Mamba」チップセットであった。eDRAMを駆使してビデオメモリーを削減することで低コスト化しても、トランジスター数が1億2500万個ともなると、当時のプロセス技術では相当大きくなる。これではかえってコストが増加してしまい、eDRAM採用で低コスト化どころではない。結局マイクロンはV4400Eの開発で培った知見を元に、もっと小さなダイサイズで実現できるグラフィック機能を搭載しないチップセットを開発するという方針を固め、V4400Eもまたキャンセルされることになった。
このMambaもこの後はまったく話題に上らなくなった。確か2002年頃にマイクロンの人にMambaの消息を尋ねたところ、「まだ何かやっているようです」と返答されたことはあるが、その後はまったく不明である。そうこうしている間に、Socket AのFSBもどんどん周波数があがり、2003年からはAthlon 64の登場でインターフェースが変わってしまったから、恐らくこの前にはプロジェクト自体が中止になったと思われる。John Zucker氏はそれ以前にマイクロンを離れて、RealChip Communications社という会社を設立しており、事実上1999年中には、V4400Eの命運も絶たれていたと思われる。
何が悪かったかと言えば、やはり描画パイプライン+RISC CPUという方式が、プロセスを微細化しても性能向上できなかったことだろう。V1000の結果を見ていると、発想そのものは悪くなかったのかもしれない。だがV2x00でそのままの構造を引き継いだのが、後から見れば失敗の原因だったと言えそうだ。

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