iPhoneアプリでクロック機能も
機能はiPodの再生だけに絞った、極めてシンプルなもの。ハイエンドDockスピーカーというと、AirPlayに対応したり、各種通信機能を備えたものも登場してきているが、Dock端子以外ではアナログAUX入力端子を1系統持つだけ。電源も内蔵しており、メガネ型ケーブルをコンセントにつなぐだけで済む。
操作部も音量調整ボタンがあるだけだ。人感センサーにより、近付くとボタン部分がオレンジ色に光る仕組みになっている。
離れた場所からの操作には、十字キーを備えた赤外線リモコンが利用できる。
質感が高く、iPodのメニュー操作も一通りこなせる。前面のふちの部分はメッキパーツだが、背面はiPadのような梨地のアルミ素材である。メッキやクリア塗装のように指紋が気にならない。反応は若干鈍いが、Dockスピーカーのリモコンとしては標準的なレベルだろう。たくさんの曲をスクロールして選ぶ用途には適さないので、あらかじめ作成したプレイリストを選ぶようにするなど、使いこなしには工夫したい。
なお、フィリップスでは、iPhone/iPad用に「Fidelio」という無料アプリケーションを提供している(AppStoreで入手可能)。これを導入すれば、「天気」や「時刻」の確認、TwitterやFacebookとの連携、タイマー機能などが使える。就寝時にオフタイマーを設定したり、目覚まし代わりにするなど応用が広がりそうだ。
こうした本体そのものの機能は最小限にしつつ、アプリで利便性や機能を補っていくアプローチは中々合理的だと思う。購入後も機能をアップグレードしていくことができるし、製造コストも抑えられる。実際、DS9000の価格は実売で5万円台後半。ボーズの「SoundDock 10」やB&Wの「Zeppelin」などと比べてひと回り安い価格設定になっているのも、このあたりが関係しているのではないか。
力強い中低域に支えられた充実サウンド
さて私がDS9000に出会ったのは、フィリップス本社の会議室だった。20~30人の媒体関係者が楽々と入る「部屋の広さ」に負けないスケール感あふれる鳴りっぷりが印象に残った。最後列の席で聞いても、十分な包囲感がある。一方で空間の表現は緻密で、録音した環境が透けて見えるようだった。
デモ曲の冒頭、バツンとギターが弾かれた瞬間から空気が変わった……と書くと少々大げさかもしれないが、太くて芯のある響き、指と弦が触れるゴリっとした摩擦音のリアルさなどに驚かされたのは事実だ。
後日編集部でDS9000を借用し、より詳細に音を確かめてみたが、聴き始めるとあっという間に数時間が経過。気が付けばすっかりこのスピーカーのファンになっていた。
音調はピラミッド・バランスとでも表現したらいいだろうか。余裕のあるアンプ出力に支えられた、広いサウンドステージには驚嘆。一体型とは思えない堂々とした鳴りっぷりだ。腰の据わった低域が音楽を支え、その上に相対的にエネルギー感の落ちた中域・高域が乗っかってくる。
Hi-Fi機器といえば、一般的にはフラット志向である。DS9000は、それとは一線を画すが、別の意味でのリアルさがある。コンサートホールでもライブハウスでもいいが、生演奏には泥臭く腹にくる低域があるものだ。ソースの臨場感を再現するのがオーディオの目的なら、DS9000は紛れもなくハイフィディリティー(高忠実性)を体現した製品と言えるだろう。