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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ――番外編

ヤフーがグーグルと提携した3つの理由

2010年07月28日 16時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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狙いは検索エンジンだけじゃない!

 パソコンとテレビは似ている。画面が中心の装置という点も同じだし、それを人間が見て使うからだ。いまやネットのフロントエンド(出入り口ですね)と化したパソコンだが、要するに、テレビと同じようにネットの売上げの中心は「広告」である。

 検索エンジンやコミュケニーションサイトの主要な売上げは広告で、「日本最大級の通信販売ショッピング」とうたう楽天ですら、その売上げ構成でいちばん大きいのは30%を占める広告である。検索ポータル(ヤフーファイナンスをみると「通信業」となっているが)のヤフー株式会社も、その半分以上が広告売上げである。つまり、

ネット=広告ビジネス

といってもあながち文句もつかない。ネットで商売をするのなら、広告、ショッピング以外のたとえば、「有料コンテンツ」の販売なんかは、いまのところ簡単ではないということだ(もちろん簡単ではないというだけでこれをやることには価値があるのだと思うが)

 今回のヤフー株式会社(Yahoo! JAPAN)がグーグルの検索エンジンを使うという提携の話は、たぶん次のような整理だろう。

  1. 米ヤフーが自社の検索技術を捨ててマイクロソフトのBingを採用した。
  2. 日本のヤフーも検索技術を乗り換えなければならない。
  3. 検索精度だけならBingが悪くないのは分かっている。
  4. しかし、「広告」のことを考えるとグーグルが「最良」の選択と判断した。

 ヤフーが見ているのは、ユーザーや株主もさることながら、「広告主」なのだ。なにしろ、お金の半分以上をもたらしてくれるのは彼らである。「総合的に判断して」という井上社長の発言というのはそういうことだと思う。

 実は、ヤフーは、検索広告のしくみとしてグーグルの「アドワーズ」に乗り換えたかったからではないかとも思える。今回、検索の部分でグーグルを使うようにすると同時に、アドワーズのシステムの提供も受けると発表された。ただし、アドワーズに関しては、システムは使うが、データも客もグーグルとは別のものになる。

 この理由は、本屋さんにいけば分かることだ。グーグルの検索広告のための参考書が、ちょっと大きめの書店にいけば30センチくらいの幅で棚をとっている。要するに、広告を出す側としては、いままでのヤフーのしくみと同じくらいにグーグルのアドセンスにも慣れている。アドワーズは、いまのネット広告の中では、とても優れた広告代理店なのだということだ。

 もし、アドワーズを使いたいというのでなかったら、マイクロソフトのBingを採用するのでもよかった。


米Yahoo!と足並みをそろえなかった

 それでも、「米ヤフーがマイクロソフトと提携したのに、なぜ日本のヤフーはグーグルとなのだ?」という疑問は残るだろう。『朝日新聞』2010年7月27日夕刊によると、日本のヤフーは今年3月末時点でソフトバンクが38.6%、米ヤフーが34.8%の株を所有しているという。米ヤフーとしては当然、同じ路線でいってほしかったと思われるが、要するに「日本語検索」が、ヤフーの世界戦略から外れたという風にも見える(単に時間的な問題で、準備ができれば2年後にBingに乗り換える可能性もないではないが)。

 しかし、私には、日本のヤフーというサイトの画面を見ていると「積み木」を連想してしまうのだ。そのトップページの「ヤフーニュース」は、それのために多くの人が訪れる、もはや国民的メディアといってもよいだろう。ヤフーオークションは、いまやヤフーそれ自身よりもPVを稼いでいるという噂もあるほど、日本人の生活に根をおろしている。それぞれのサービスが、絶妙なバランスとノウハウでつみあげられてヤフーがある。この息のぬけない作業をやっていくには、米ヤフーの戦略なんか知ったこっちゃない。

 しかも、ネットの世界はここ2~3年で、また大きく雲行きがおかしくなっている。梅田望夫さんの『ウェブ進化論』が書かれた時代までは、グーグルが発電所のように機能して、情報を精錬して価値を生み出して届けていた。第2章の「グーグルの本質は新時代のコンピュータ・メーカー」という見出しは、いま見ても素晴らしいと思う。ところが、1994年頃から15年以上にわたってネットの世界を支配してきた「検索」というサービスの足下を、将来的にはゆるがしかねないニュースがここのところ目立つ。

ヤフー株式会社のグーグルとの提携を伝える記事
ヤフー株式会社のグーグルとの提携を伝える記事(Yahoo!ニュース)

 昨年、グーグルとマイクロソフトが競ってTwitterのリアルタイムデータを買ったのはご存じのとおり(その結果、Twitterは操業以来初の黒字となった)。Twitterのように「いま」がテーマのサイトでは、1週間に1回しかクローリングしていような、いままでの検索エンジンの発想ではやっていけない(ニュースサイトの情報など、一部はほぼリアルタイムに更新されるが)。

 Twitterに引っ張られるように盛り上がってきている「Ustream」や、目下ネット業界の最も注目されるビジネスモデルともいえる「Groupon」なんかもそうだ。Grouponは、毎日1地域1企業で共同購買をつのる。一定時間内に申し込みが集まる必要があり、そのためにユーザーもそのことをTwitterなどで宣伝する。リアルタイム性が深く関与している。

 ネットのリアルタイム性が増しているということだ。

 その意味で、今回のヤフーとグーグルの提携の目玉は、「ヤフーオークション」、「ヤフーショッピング」、そして「ヤフー知恵袋」のデータを、グーグルに提供するということかもしれない。いままで、グーグルから何か欲しいものを探していて、ヤフーオークションで見つかったとしても「このオークションは終了しています」と出ることが多かった。これが解消されるようになれば、両社は、得難いメリットを手に入れるはずである。


iPhoneやスマートフォンとポータルサイトの相性

 ついでに、もうひとつ検索エンジンにとって嫌なのは「iPhone」である。

 電源を入れるとヤフーのトップページが自動的に立ち上がるiPhoneはないからだ。ポータルサイトというビジネスは、iPhoneやAndroidやiPadと、はなはだ相性が悪いのである。そもそも、検索とスマートフォンというのも相性が決していいというわけではない(ポータルよりはマシだが)。たとえば、宴会場所を探すときに、ケータイですら「渋谷 焼き鳥」と検索していたのが、iPhoneでは、ぐるなびアプリを叩くことが多いといわれる。となると、せめて検索から自社サイトへの流入を考えようというものだ。つまり、スマートフォン時代がくるのは確実なので、早めに背水の陣をしいておきましょうというようなことだ。改めて整理すると、

  1. 検索エンジンは、Bingでもグーグルでもよかった(もちろん米ヤフーがBingなのでBingのほうが妥当性はあるように見えるが)。
  2. 「広告主」のことを考えるとアドセンスがほしかった。
  3. 「ヤフーオークション」「ヤフーショッピング」「ヤフー知恵袋」のデータをグーグルからもフレッシュな状態で検索できるようにしたかった。
  4. 「リアルタイム」と「スマートフォン」の時代に、敵(グーグル)と組んででも戦わなきゃいけないのがいまだろう。

 iPhone、iPadについて、アスキー総研では、その利用実体調査を行なった。3年後の販売予測数字やアンケート結果をもとにした利用内容についても分析を行なっている。それをまとめたセミナーを、2010年7月29日に行なうことになった。詳しくは、以下を参照されたい。


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