優れた製品、優れた思想も、それを雄弁に語る人がいて初めて本当の輝きを得る。“アップル社の製品のよさ”は誰もが好んで論じるが、これを最も雄弁に語るのがスティーブ・ジョブズCEOだ。
“プレゼンの魔術師”であるスティーブ・ジョブズCEO |
“現実湾曲空間”とも揶揄される彼のプレゼンがなければ、今のアップルの好況はなかったかもしれない。アップル文化の発信源とも言えるジョブズの基調講演から、日々の仕事へのヒントを見つけてほしい。
まずは、幾多のプレゼンを見てきた米UIEvolution社のCEO、中島聡氏がジョブズのプレゼンを考察。ほか、Kyenoteのスライド、基調講演の構成の秘密を解き明かしていく。
“Macと人の新しい関係”をコンセプトに掲げる、弊社刊『MacPeople』の連載記事。9月29日発売のMacPeople11月号では、特集“「音」を楽しむ。”に加え、(株)に・よん・なな・みゅーじっくの丸山茂雄氏のインタビューが掲載されている。
スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションに学ぶ
小学生の時からプレゼンの練習をさせられる米国人は、概して日本人よりもプレゼンが上手だが、その中でもスティーブ・ジョブズは際立っている。
私も今までたくさんのプレゼンを見てきたが、ジョブズほど自然で、わかりやすく、かつ魅力的なプレゼンをする人を見たことがない。彼のプレゼンは、観客をいつの間にかファンにしてしまい、彼の紹介するアップル製品を欲しくなってしまうほどの力を持っている。
なぜ、ジョブズのプレゼンはあれほど素晴らしいのだろう? あれほどまでのプレゼンターになれないとしても、われわれにも何か学べることはないだろうか?
『Keynote』で作ったスライドやアナウンスされる商品のよさもあるが、最も注目すべき点は、ジョブズのプレゼンの主役が“ジョブズその人”だということである。
プレゼンの最中、観客の目はたまにスライドが切り替わった時に目をそちらに向けるものの、そのほかの時間はジョブズを見ている。観客の意識は常に耳から入ってくるジョブズの言葉に集中しており、ジョブズから意識を離してスライド上の文字を読んだりはしない。
この“観客がついジョブズに注目してしまう”状態は、ジョブズのカリスマ性ゆえに起こるのではなく、実は綿密な計算のもとに作られた状態なのである。
極端に文字の少ないスライド、あえてスライドに書かずジョブズの口から伝えられる商品の情報、新しいトピックに移る際に常にスライドより一歩先に話し始める手法――すべてがジョブズを魅力的に見せ、彼の口からアナウンスされる商品もより魅力的に見せるためのテクニックなのだ。
誰もがジョブズのようなプレゼンができるようになるべきとは言わないが、少なくとも文字で埋め尽くされたプレゼン資料を棒読みするだけのプレゼンはやめたほうがいい。“プレゼンの最中に観客の注意をどうやって自分に引き付けるか”を意識して準備するだけでも、けっこう効果はあるものだ。
米UIEvolution社CEO。米マイクロソフト社で次世代ユーザーインターフェースの設計に関わり、2000年にソフト会社のUIEvolutionを起業。ブログ“Life is beautiful”も開設