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脳科学者・茂木健一郎とユーミンが語る作品の創作――アップルストア銀座での対談をレポート

2006年05月09日 17時04分更新

文● 編集部

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フリーペーパー『Dictionary』を手掛ける(株)クラブキングは8日、脳科学者の茂木健一郎(もぎけんいちろう)氏とシンガーソングライターの松任谷由実(まつとうやゆみ)さんをアップルストア銀座に招いて公開対談を開催した。お互いにファンだという両氏の間でクリエイターについて鋭いトークが交わされ、ファンや関係者がつめかけた会場を大いに湧かせた。

対談
左が脳科学者の茂木健一郎氏、右がシンガーソングライターの松任谷由実さん

茂木健一郎氏
1962年生まれ。専門は脳科学、認知科学。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院客員教授、東京芸術大学非常勤講師などを務める。“クオリア”(感覚の持つ質感)や“Aha!体験”(ひらめきの体験)をキーワードに、脳と心の関係を研究。2005年には著書『脳と仮想』で、第四回小林秀雄賞を受賞。

対談はホストの茂木氏が毎回異なるゲストとトークを交わすというシリーズもので、一般に公開されるのは3回目。今回の収録分は、6月10日配布されるDictionaryか、6月半ばにiTunes Music Storeで公開予定のポッドキャスト“media CLUBKING”で確認できる。

対談では、茂木氏が「カラオケで“やさしさに包まれたなら”を“クオリアに包まれたなら”と替え歌で歌っています(笑)。“目にうつる全てのことは メッセージ”ってフレーズは、まさにクオリアを表している」と松任谷さんのファンであることを明かすと、松任谷さんは茂木氏の著作について「脳のことを書いているけど、とてもロマンティック。思い出せない記憶の膨大な痕跡が自分の中にあるから何があるかわからない未来に立ち向かえる、と書いている部分などは泣けてしまう」と感銘を受けたことを語った。


また、茂木氏が「本物のクリエーターは、基本的に“キワ”にいる人というイメージ。一歩間違うと“あちらの世界”に落ちていってしまうんだけど、そういう危ないことってありました?」と水を向ければ、松任谷さんは「安定した人格のように見えるけど、そうでもない。曲ができないときには、このまま考え続けると廃人になっちゃうかもってところまで人生や孤独について考える。でも、その悩みを外に見せない精神力も培ってきたと思う」と、創作の舞台裏について触れた。

さらに茂木氏は「クリエーションは、ある種の“毒出し”だと思っているんです。つまり身体には体内に入った毒を外に出そうとする作用があるけど、それと作品を生み出すということは一緒」と独自の見解を述べると、松任谷さんは「いろいろなクリエーターが“失恋したときが一番曲ができる”と言いますよね。でも曲の数だけ失恋という訳にはいかないので、私は失恋の状態を自分の中だけで作り出している。“自分の頭の中で起こっていればそれは実際に起こってること”って茂木さんも著作でおっしゃっているけど、心が傷つくとそれを修復しようとして何かが出る。それが創作なんじゃないのか」と賛同した。

続けて茂木氏は、「つまり自傷行為をやっているということですよね。心の傷が癒える過程で作品が出来上がるというのであればそれもありだけど、実際にやってのけるには強さが必要。脳が一番ヤバいのはバランスを崩しちゃうことで、弱い人は自傷行為をやってはダメ。松任谷さんはその強さを持っているから、それがファンをひきつけているんでしょう」と、松任谷さんの魅力を分析した。


ブックレット表紙 ブックレット内容
会場では、海やサーフィンをイメージして作られたという松任谷由実さんの34枚目のニューアルバム『A GIRL IN SUMMER』が紹介された。iTunes Music Storeでは、5月24日のアルバム発売に先駆けて5月10日から『A GIRL IN SUMMER』のダウンロード販売を始める。なお、iTunes Music Store版の特典として、歌詞や写真、プロモーションビデオが見られるインタラクティブ・ブックレットなどが付属する(写真左はブックレットの表紙、写真右がフォトページ)


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