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超多趣味デザイナー・吉竹 遼さんとカメラと本、ガンダム、デザインツールの話

2016年11月13日 23時00分更新

文●小島芳樹

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デザインとエンジニアリング、デザインとビジネスなど、クリエイターにも従来の仕事の範囲を超えた知識と発想が求められる時代。クリエイターたちは日々どんなことを考え、実行しているのか?  連続インタビュー企画「Borderline」では、ブログ「テクニカルクリエイター.com」を運営する小島芳樹さんが注目のクリエイターにオン/オフの両面からお話を伺います。
記念すべき第1回は、UXデザイン会社・スタンダードの吉竹 遼さん。デザインツールの話から、ガンダムやカメラ、本まで話はどんどん膨らんで……。

小島 僕は以前からお付き合いがあるので大体知っているんですけども、読者のみなさんのために自己紹介からお願いします。

吉竹 あ、そうですね。株式会社スタンダードの吉竹です。普段は、デザイナーとしてクライアントのプロジェクトの中に入って、スタートアップや新規事業のビジネスの設計、サービスの検証から、リリース後の改善といったところまでをお手伝いしています。

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吉竹 遼(よしたけ・りょう) 2011年からフェンリル株式会社にてiOS/Android/ Windowsストアアプリの企画・UIデザインに従事。2014年10月よりStandardへ参画。多くのプロジェクトを手掛けた経験を活かし、ユーザーと情報が正しく繋がるインターフェイス、心地よさを感じられるデザインを提供する。 趣味はカメラと写真撮影。最近よく読む書籍の分野は組織論やチームビルディング、SFなど。好きな漫画作家は石黒正数、藤田和日郎、Ark Performanceなど。よりぶろ(http://yo-ry.hateblo.jp/)、よりフォト(http://yory.photo/

小島 モノを作るだけっていうよりは、企画からがっつり一緒にやっていくみたいな感じなんですね。

吉竹 そうですね。スタンダードに入社してから、いわゆるデザインツールを使う機会がぐっと減ってきていて。

小島 あ、減っているんだ。

吉竹 いまのクライアントに同僚と2人で出向してから半年ぐらい経つところなんですけど、ほぼ毎日Excelとにらめっこみたいな(笑)。

小島 へえ。いまお手伝いしているのはどんなお仕事なんでしょう?

吉竹 一度リリースしたサービスなんですけど、もう一度、チームビルディングから立て直したいみたいな状態になっていて。サービスの本当に根っこのところ、どんなサービスを提供するのか? ってところから、クライアントと一緒に考える仕事をしています。

小島 だいたいどんなリズムで動くのか、決まっています?

吉竹 出向先のクライアントのオフィスに10時出社で。まあ僕は朝弱いので(笑)。 そのあとはそのときどきのフェーズによって、やることは変わってくるんですけれど、いまはちょうどサービスのコアとなる部分、その顧客はどんな人なのか、どんな部分が課題なのか、といったあたりを明確にするためにペルソナを設計したり、仮説を立てて検証したりしていますね。昨日みたいに、出向先のデザイナーやディレクターさんと一緒にペルソナの設計を丸1日詰めてやっていたり……っていう場合もあれば、もう普通にSketchを使って……

小島 作業したりする、と。 社外の人っていうよりは、かなり踏み込んで動く感じなんですね。

吉竹 そうですね。もう完全、中の人に近い立場で一緒にやっています。もちろんスタンダードって会社の人間の立場もありますけど、一緒にやっていく中で社内の事情をいろいろと教えてもらったりとか。

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小島芳樹(こじま・よしき) ソーシャルゲームやUIデザインの会社にてWebデザイナー・フロントエンドエンジニア・ディレクターを経て、現在は都内のIT企業で企画やアライアンスを担当。2016年より「エンジニア」+「デザイナー」=「テクニカルクリエイター」のためのWebメディア「テクニカルクリエイター.com」を立ち上げ、IT・Web技術やデザインについての最新トレンドを発信している。 最近の趣味は水泳、トライアスロンへの出場を目指して練習中。

ガンダムと富野由悠季は、僕の人格形成に関わっている(笑)

小島 ここでちょっと話を変えて、プライベートなことをお聞きしたいんですけど。吉竹さんといえば多趣味な印象がありますが、挙げていただくとどんな趣味がありますか?

吉竹 カメラ関係とガンダム、アニメ、あとは美術展巡りとか……。最近だと、カメラの趣味に付随して写真を撮りに出かけるのがメインですかね。

小島 もともと芸術系の高校の出身でしたっけ?

吉竹 高校が演劇科で。本当は舞台俳優とかを目指すべきなんでしょうけど、何の因果かデザイン系に進んだっていう。

小島 (笑)。やっぱりそのころから、アートとか、写真とか、興味があったんですか?

吉竹 写真は大学に入ってからで、ガンダムは幼稚園のころから(笑)。

小島 演劇科へ行くことになったきっかけは?

吉竹 ガンダムを作った富野由悠季さんがよく自分の新作に舞台俳優を起用していたからですね。

小島 声優さんを?

吉竹 そう。「俺もそれに乗っかれないかな」、みたいな(笑)。

小島 (笑)。なるほど。ガンダムに出たかった、と。

吉竹 そういう不純な理由で。で、大学ではプロダクトデザインを専攻しました。建築とかも学んではいたんですけど、最終的にはプロダクトに落ち着いて。カメラやってみたりとか、展示会をやったりとかしていましたね。

小島 じゃあもう小さいころからガンダム。ガンダムが吉竹さんのルーツなんですね。

吉竹 ガンダムと富野由悠季は、僕の人格形成に割とか関わっていますね(笑)。

小島 一番好きな富野作品は?

吉竹 ブレンパワード(※)です。

小島 ブレンパワード?

吉竹 WOWOWが初めて作ったオリジナルアニメ作品なんです。Vガンダムのあと休養中だった、富野さんの復帰作なんですよ。リアルタイムではなかったんですけど、高校生のときに見て。ご存じないですか?

小島 知らなかったですけど、メカニックのデザインって……

吉竹 永野 護。

小島 ですよね。エルガイムっぽいなあって、これ。しかし、この話がインタビュー記事になって、喜ぶ人がいるんだろうか(笑)。

吉竹 一定数いるんじゃないですか(笑)。 ちゃんと漫画版はKADOKAWAから出てましたし。

メカニカルなデザインがお気に入り

小島 今日は普段持ち歩いていて、お気に入りのものを持ってきてもらったと思うんですけど。

吉竹 ちょっと迷って、2つ持ってきました。1つは、いつも使っている時計で、もう1つが名刺入れです。カメラもありますけど、日常的に持ち歩くわけじゃないので。

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小島 名刺入れがめっちゃかっこいい! 時計は普通の時計ですよね。スマートウォッチじゃなくて。

吉竹 普通の時計です。学生のころに文房具にはまったんですよ。もう文房具オタクになって。文房具ってメカニカルなところがあって、カメラもメカニカルじゃないですか。メカニカルなものに惹かれると、いずれ時計に行くんですよね。
で、ずっと残るような、これ1つだけであればいい、という時計を買いたいなと思っていたら、NOMOS(※)というブランドが、文字盤のシンプルさ、全体のスタイリングが自分好みで。一生持つならこれだな、っていう。

小島 結構お高いんですか?

吉竹 たぶん、僕が持っている所持品の中で一番高い(笑)。

小島 で、続いて名刺入れなんですけど、これも革と鉄でできていて、ちょっと変わっていますよね?

吉竹 はい。開けるときに、こうひねると……

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小島 ん?

吉竹 僕は名刺入れとしてしか使ってないんですけど、たばこが6本ぐらい入るみたいです。だから製品名はビジネスカード&シガレットケース。

小島 たばこも入れられるのはおもしろいですね。これはいつごろから?

吉竹 学生時代、六本木にあるAXIS(※)でバイトしたことがあるんです。展示会の受付だったんですけど、そのときAXISの中にある「リビング・モティーフ」で買いました。高級な生活用品や雑貨を売っているお店なんですけど、たまたま行ったらこれが売ってて、ちょうどその日のバイト代で買えるレベルだったので。

小島 バイト代、使っちゃったんですか(笑)。

吉竹 その日に働いた分をその日で使っちゃいました。ちょうどマテリアルとかテクスチャーにはまっていたんですよね。鉄と革っていう、異なるマテリアルがうまく融合してるのがすごく好みで。しかも、木と革の組み合わせとかはあるんですけど、鉄と革を組み合わせたタイプはもう売っていないそうなんですよ。

小島 長持ちしそうですね。というか、大学のころから使ってるんだったら、もう結構長持ちしていますよね。

吉竹 どちらも20歳ぐらいから使っていますね。あと、名刺入れは出したときに会話になる、っていうのがポイントで。

小島 デザイナーっぽいですね(笑)。

「写真を撮るついでに、旅に出るって感じ」

小島 あとは趣味のこだわりを象徴するものをお願いしていたんですけども。

吉竹 カメラを2つと、あともう1つ持ってきたんですけど……あまり見栄えしないんですけど、ジンバルです。

小島 ジンバルって何ですか?

吉竹 スマホを挿して、電源入れると……こうやって水平でぶれずに動画を撮れるっていう。テレビドラマとか映画の撮影であるじゃないですか。あれが小さくなったものです。ドローンを作っているDJIというメーカーが出しています。そこそこぶれはするんですけど、普通に歩きながら持つよりは全然いいですよね。今度の社員旅行に持っていこうかなって思っています。

小島 あ、人物を認識して追いかけることもできるんだ。これ、すごいです!

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(と、ここで思わず会話に参加するカメラマンの宮川さん) すごいな、カメラマンいらなくなるな、こりゃ。

一同  (笑)

小島 で、こちらは?

吉竹 これは、ライカのフィルムカメラですね。

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小島 デジカメじゃなくて、フィルムのライカ。アナログへのこだわりがあって使っているって感じですか?

吉竹 ライカのデジタルカメラがいろんな意味で好きじゃなくて。まず、高い。100万円ぐらいするんですよ、ボディだけで。で、レンズが20万〜30万円。まあ買えないな、っていうのと、僕はもともとライカは嫌いで、絶対買うもんかと思ったんですよ。でも、あれだけ多くの人を夢中にさせているのだから、何かしらあるんだろうなと思って。自分も触れてみたいと思って買ったら、「いいじゃん!」みたいな(笑)。

小島 はまった?

吉竹 はまったというか、ライカが多くの人から支持を受ける理由ってのは確かにあるんだろうな、って実感できましたね。

小島 どれぐらい使っているんですか?

吉竹 これは、まだ5年は経っていないかな。このカメラを持ち出すときは、なるべくほかに荷物を持たないで出かけたいときですね。

小島 軽いんですかね?……あれ、重い、すごいずっしりですね。普通のデジカメより全然重いです。

吉竹さんがライカで撮影した作品の中から1枚。2014年7月に沖縄で撮ったもの。

吉竹 真鍮とかを使っているので、手に持ったときの感覚も他のカメラとはちょっと違う。ライカはちょっと持ち出して、旅のおともにしていますね。

小島 それから今日、胸に付けているのは……?

吉竹 この間、資金難で倒産しちゃった、Narrative(※)っていう……

小島 あれ、倒産しちゃったんですか?

吉竹 そうなんですよ。ハードウェアスタートアップは難しいですね。これは2代目にあたる「Narrative Clip 2」というカメラなんですけど、クラウドファンディングで資金を募っていて、今年の春に届いたものです。
いわゆるライフログカメラで、30秒に1回、勝手にシャッターを切ってくれます。1日中身に付けていると2000〜3000枚撮れるんですけど、それをクラウドに保存して、人の顔が写っていたりとか、急に明暗が分かれたりしている写真をいいショットだと判断して、チョイスしてくれるんです。

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吉竹さんが首から提げているのが、Narrative Clip。自動的にシャッターを切ってクラウドにアップしてくれるライフログカメラ。

小島 いい写真を選んでくれるのがすごいですよね。

吉竹 よく盗撮って言われますけどね(笑)。電車の中では外しているんですけど、外さないと結構怪しまれますし、Narrative側も公式でやめてって言っていますね。音も鳴らないんですけど、こうやって(コンコンコン)って3回叩くと、動画が撮れます。

小島 この、コンコンコンっていうのがいいですね。

吉竹 2回叩くとこの場の写真が撮れます。あ、もう動画を撮り終えました。

小島 このカメラはどんなときに?

吉竹 やっぱりイベントごとですよね。ずっと記録していたいイベントのときに持っていくみたいな。普段の仕事中だとパソコンばっかり見ているので、そんなには使わないですね。旅行のときとかも大活躍です。

小島 吉竹さんは旅行も好きですよね?

吉竹 旅行というか、写真を撮るために出かけるのが好きです。旅行はついでですね(笑)。どっちが目的なのか、って言ったら、写真を撮るためだけに旅行に行く、という。

小島 なるほど。本当に多趣味ですよね。

吉竹  いやいや、そんなことはないです。世の中の多趣味先輩に申し訳ないです。

小島 世の中の多趣味先輩……?(笑)。

吉竹 いや、わかんないですけど(笑)。

後編に続く)

[撮影:宮川朋久]

KEYWORD

ブレンパワード(↑)
1998年に放送された、WOWOW初のオリジナルテレビアニメ。総監督は富野由悠季。富野監督がVガンダム以来5年ぶりに手がけた作品として話題になった。ちなみに、杉崎ゆきる作画によるコミック版は弊社(KADOKAWA)刊ですが、あいにく「品切れ、重版未定」となっております。
ノモス(↑)
正式名は、ノモス・グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)。ドイツ、ベルリンにある時計メーカー。バウハウスの影響を受けたシンプルで機能的なデザインを特徴としている。
アクシス(↑)
デザイン情報誌『AXIS』を発行している会社。ちなみにアップルのサイトなどでおなじみのAXIS Fontは同誌のためにデザインされた書体。リビング・モティーフは同社が本社を構えるAXISビルにあるインテリアショップで、家具、雑貨、文具などを販売している。
Narrative(↑)
ライフログ「Narrative Clip」を手がけていた、スウェーデンのスタートアップ企業。2012年にクラウドファンディングのKickstarterで55万ドルもの資金を調達したことで話題になったものの、10月に精算手続きに入ったことが明らかになった。

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