今年の文化庁メディア芸術祭でアニメーション部門優秀賞を受賞した「天元突破グレンラガン」。「週刊少年ジャンプ」に連載中の漫画をアニメ化した「アイシールド21」。ハイクオリティーな劇場版「河童のクゥと夏休み」──。
みなさんはこれらのアニメーションに共通する、ある要素を想像できるだろうか? 実はこれらの作品制作には、とあるベトナムのアニメ会社が関わっているのだ。
日本アニメの海外下請けといえば、韓国や中国はよく聞くが、ベトナムは初耳だ。どんな状況で日本のアニメが作られているかは、正直想像がつかない。そのアニメ会社のご好意でスタジオを取材させてくれるというので、さっそくベトナムのホーチミン市まで行ってみた。
アニメの下請けと経済発展の関係
ベトナムで迎えてくれたのは、アニメ制作会社「スタジオキャッツ」の代表、工藤秀子さん。同社の本社は東京都内にあるが、中国とベトナムにも現地企業と協力して関連会社を設立した。
「ベトナムに『AXIS & キャッツ』を作ったのは2年前。人件費の安さと経済発展の度合いを考えて決めました」と、工藤さんは語る。
なぜ下請け先にベトナムを選んだのか? その理由を探っていくと、実は日本アニメの海外下請けと、東アジアの各国が密接な関係を持っていることが分かった。
「アニメ制作は、流浪の産業」
アニメに詳しい人なら、日本のアニメーターの給料が非常に安いという事実をよくご存知だろう。日本のアニメ作品は絵を細かく描き込むなどの理由で作るのに非常に手間がかかるが、ギリギリの予算で作られているため、制作サイドに必ずしも苦労に見合った報酬が支払われているわけではない。
そうした状況の中でもより多くの作品を作るために、日本のアニメ産業は人件費が抑えられる海外に関連会社を作るという手段を選び、すでに30年以上が経過している。
最初に白羽の矢が立った土地は、韓国や台湾だ。だが、両国の経済が発展するにつれて人件費が上がり、下請けに出す「うま味」が薄らいできた。そこで15年ほど前から主な下請け先が、中国、フィリピンへと移行している。
だが、そういった国に進出するアニメ企業は日本だけではない。米国、フランス、ドイツといった国々もアニメ会社を設立しているし、さらに各国自身の企業も乱立していて、優秀なアニメーターを引き入れるための賃上げ競争は激化している。
スタジオキャッツの中国スタジオは、かつて150人のアニメーターを抱えていたが、そうした競争の中で80人まで減ってしまった。より賃金の高い外国企業に流れていったのである。
「アニメ制作は流浪の産業なんですよ」と工藤さんは言う。
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