【ASCII.jp特別企画】 これからはエンジニアが熱い! 第2回
株式会社 ミクシィ 開発部部長 佐藤ニール氏 に聞いた
『これからを生き抜くエンジニアの在り方』
2007年11月09日 09時45分更新
mixiといえば、SNS(ソーシャル・ネットワーキング サービス)の草分け的存在でもあり、本年7月末の時点で1110万人以上の加入者を持つ国内最大のSNSだ。スタートした2004年、当初、設置されたサーバーは2~3台、現在では数千台のサーバーが可動。たった一人のエンジニアが開発したシステムが3年半ほどでここまで急成長した背景には、もちろんmixiそのものが、時代の要求にピタリとマッチしたのはもちろんだが、ユーザーやクライアントが求める新しいシステム、サービスをタイムリーに提供してきた開発スピードに負うものも大きい。
たとえば、この1年を振り返り、大きなものだけを取り上げても、mixiの携帯版「mixiモバイル」、スタート直後から一気に国内最大級の投稿数を誇る動画投稿サービスの「mixi動画」、mixi上にオリジナル小説を連載し、登場人物の日記を公開する新タイプの広告企画「mixi×ドラマ」、日記などに使われる口語などの単語も高精度で検索できる「自社開発サイト内検索エンジン」、マイミクの新着日記の取得や日記投稿画面へのアクセスなどが簡単にできる「mixiツールバー」、mixi日記に引用できる動画広告「バイラル広告」とより使いやすく面白く、タイムリーなサービス提供が目に付くばかりだ。サイトデザインなど小変更を加えれば、まさにどんだけ~っ? プロジェクトがどれだけの規模で、どんな発想から進められているのか? と興味が沸いてくる。
今回、そんなmixiの開発部門を統括する開発部部長・佐藤ニールさんにお話を伺う機会をいただいた。そこには、コレからを生き抜くエンジニアの在り方のための多くのヒントが隠されていた。
編集部:「mixiツール」や「バイラル広告」など独自の発想が活かされたサービスを矢継ぎ早にリリースされていらっしゃいますが、そのスピード感はどこから生まれるのでしょう?
ニール:現在、開発部には、約30人ほどのスタッフがいるのですが、できる限り作っている担当者に理想の仕事を与えるのが僕の仕事だと思っています。たとえば、「mixi PHOTO」なら写真が好きな人、「mixi動画」なら、動画の好きな人にと仕事の内容と人材をマネージメントする。そこそこその仕事が好きな人よりも、大好きな人、仕事をやりたい人に任せた方が早いんですよ。アイデアも良いものが生まれてきますしね。
編集部:多くの企業ですと事業計画があって、その進行上、どうしてもその時期にパワーをかけなければいけないこともあると思うのですが、好きな人に好きなことをと考えるとどうしても無理が出てきませんか?
ニール:事業計画は、アイデアがあって始めて生まれてくるものですよね。「こういう計画があるんだけれど」と提案してみて、すぐ手を上げる人がいればすぐその人に仕事を投げますし、居なければ、そのプロジェクトは、諦める。僕はそうするようにしています。
編集部:それを続けていくとあれほどスピーディに新サービスを提供できないように思うのですが?
ニール:もちろん、新しいアイデアが次々に生まれなければ、実行することは難しいシステムだと思います。しかし、たとえば、営業担当者と開発部は密にミーティングしています。常にお客様の要望が開発スタッフに伝えられ、そのレスポンスがフィードバックされる。また、エンジニアには、「1デイ フリーデイ」という1週間に1日興味を持ったテーマに費やせる制度があるんですよ。そこから生まれてくるアイデアは、実に多様です。チャレンジャブルなことに寛容な会社ですしね。
編集部:一般的な会社ですと、「一体それでいくら稼げるの?」「費用はどのぐらいかかるの?」というあたりが最初に来て、潰れていくアイデアが多いと思うのですが、mixiの場合は、それがあまり無いということなのでしょうか?
ニール:「とりあえずやってみよう!」 そうした姿勢はありますが、もちろんすべてがそうなる訳ではありませんよ(笑)。ミーティングをして、面白いものはやってみる。ボツになるものもありますから。
編集部:まず、アイデアありきでプロジェクトを組み立てていくとすると、アイデアを出す人と出さない人の格差って生まれてくると思うのですが。
ニール:アイデアを多く出す人もいれば、少ない人もいる。大切なのは、アイデアの共有です。色々な視点から、フィードバックももらえるし、アイデア自体も進化していく。
たとえば、アイデアが出る人でも、他のところに欠けたスキルがある場合があるじゃないですか。コミュニケーション能力が欠けている人が居れば、それは周りの人がフォローしていけば済むことです。逆に、引き出すのが上手い人もいるわけで、生まれた優れたアイデアをいかにチームとして形にしていくかが求められているわけですからね。
PL(損益計算書)を見ていただければわかると思うのですが、弊社の場合、コストはサーバーと事務所費、人件費がほとんどです。それだけ人的なものに求められる要求度はどうしても高くなりますね。
編集部:ニールさんはこれからのmixi的エンジニアに求められる要素について、どうお考えなのでしょう?
ニール:たとえば、mixiならmixiで、「こいうことをやりたいんだ」ってモチベーションがまずあること。SNSの世界でファーストランナー的ポジショニングにあるという自負がありますから、それを意識している人。その2つがまず大きなポイントです。若い人なら、スキル的なフォローはしていけますから。
編集部:もう少し広げて、これからのエンジニアに求められる資質とは?
ニール:オープンソースに関わっている人。会ったことも無い人とメール上でやり取りをして開発する能力が身についているわけですから、そういう人はデスクを隣り合わせにしても年齢や言語を超えてやっていけると思います。うちの場合でも、最年少の10代のスタッフと40代のスタッフで開発している上で会話に差はないですから。
編集部:オープンソースに関わっているというとニールさんもかつて、そういう環境で育たれたのですか?
ニール:カナダで生まれ、アメリカで育ったんですが、中学時代に独学でBASICやアセンブラーを勉強してゲームを作ったのがエンジニアになるきっかけかもしれませんね。大学卒業後、シリコンバレーで海外在住者向けのコミュニティサイトの開発を担当しつつ、PHPの国際プロジェクトの立ち上げにも関わりました。本格的にエンジニアを目指すようになったきっかけは、大学時代にWEBサーバを立ち上げ、新しい技術を試すことが楽しかったんですよ。それは今も変りません。
編集部:アメリカ在住時代の生活がやはりニールさんのエンジニアとしての人生にどんな影響を及ぼしているのでしょうか?
ニール:中学時代、学校でフランス、メキシコ、韓国など様々な国籍の友人たちと机の並べて勉強するという環境が、今の自分の考え方や自己形成に大きな影響を与えていると思います。
編集部:言葉や年齢を超えて、システムを開発するそんな姿勢はここから生まれたのかも知れませんね。そんなニールさんのエンジニアとしての醍醐味・楽しみとは?
ニール:自分でサイトを作り上げ、そのサイトを愛すること。mixiのスタッフもそんな人たちの集まりでありたいと思っていますし、実際にそれが今のmixiに繋がっているんです。
編集部:これからのエンジニアとして成功するポイントは?
ニール:自分が作ったサイトを良く知り、良く使いこなすこと。そこから新たなアイデアがどんどん生まれていくのです。
ニールさんのお話をうかがっていて、一番に思うことは、好きであり、その好きさを形にしていくモチベーションの高さこそが、mixiが優れたサービスをタイムリーに提供し続けていける秘訣だと感じた。好きこそものの上手なれ。使い古された言葉だけれど、自分の作り上げたシステムをユーザーの視点で常に見直すスタッフたち。「好き」を生かしてくれる企業で働くことが、まずエンジニアとしての成功への第一歩かもしれない。
●佐藤ニール氏プロフィール
1971年カナダ生まれ アメリカで育つ。アメリカの大学を卒業後、日米で大手ポータル会社にてバックエンドのシステムやセキュリティを担当するチームに所属。ゲーム業界を経て、2007年、株式会社ミクシィに入社。開発部長を務める。
取材協力:
株式会社ミクシィ
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