各社の量子ゲート方式量子コンピューターで汎用的に動くソフトを研究開発
慶應矢上キャンパス内に「20量子ビット版IBM Q」へのアクセス拠点
2018年05月18日 13時00分更新
慶應義塾大学とIBMは2018年5月17日、慶應大学矢上キャンパス内に量子コンピューター研究拠点「IBM Qネットワークハブ」を開設した。発足メンバー企業として、三菱UFJ銀行、みずほフィナンシャルグループ、高分子材料を開発するJSR、三菱ケミカルの4社が参画。産学連携で、材料探索や金融リスク計測などに応用できる量子ゲート方式量子コンピューター向けのソフトウェアアルゴリズムを研究開発する。
IBM Qは、IBMが開発して2017年3月に商用サービスとして提供を開始した量子ゲート方式の量子コンピューター。米国ニューヨークにあるT.J Watson Research Centerに設置されている量子コンピューターにクラウド経由でアクセスして利用できる。現在、一般で利用できるのは5量子ビット版、16量子ビット版のIBM Qだが、今回慶應大学の矢上キャンパス内にオープンした「IBM Qネットワークハブ」拠点からは、未公開の20量子ビット版IBM Qにアクセスできるようになっている。
「IBM Qネットワークハブ」は、「量子コンピューターのソフトウェアアルゴリズムの研究開発に特化した研究機関」(慶應義塾大学 理工学部調の伊藤公平氏)だ。IBMは、IBM Q向けのプログラムをPythonで書くための開発キット「QISKit」をGitHubで公開しており、同機関の研究者はQISKitを使って、新規材料開発、実時間金融リスク計測、製造プロセスの最適化、機械学習などに応用できる量子計算アルゴリズムの開発を目指す。
量子ゲート方式の量子コンピューターについては、IBMのほかにMicrosoft、Google、Intelが開発を進めている。各社の量子コンピューターはハードウェアの素材や設計方式が異なるものの、量子計算のアルゴリズムは共通であり、「IBM Qネットワークハブ」で開発したソフトウェアは各社の量子ゲート方式量子コンピューターで汎用的に使える。
米IBM Research バイス・プレジデント ボブ・スーター氏によれば、これまでに8万5000人以上のユーザーがIBM Qを利用し、440万通りの計算が実行されたという。その多くは研究用途での利用であり、IBM Qに関する学術論文は71本発表されている。慶應大学からIBM Q関連の論文はまだ発表されていないが、今回国内大学で唯一20量子ビット版IBM Qにアクセスできる環境ができたことで研究が加速することが期待される。