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量子コンピュータ「IBM Q」をIBMリサーチ副社長が解説

量子コンピュータはまだ暗号解読の脅威ではない、でも2020年にはわからない

2017年10月25日 17時00分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

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日本IBMは10月25日、量子コンピューティング・システム「IBM Q」に関する説明会を開催。米IBM Research バイス・プレジデント AI、ブロックチェーン、量子ソリューション担当のボブ・スーター氏が、IBM Qの要素技術や、量子コンピュータの今後の展望を語った。

米IBM Research バイス・プレジデント AI、ブロックチェーン、量子ソリューション担当のボブ・スーター氏

 IBMは2016年5月に、量子コンピュータをクラウドで公開。米国ニューヨークにあるT.J Watson Research Centerに設置されている5量子ビットの量子コンピュータにクラウド経由でアクセスして、実験的に使うことができるサービス「IBM Quantum Experience」を開始した。IBM Quantum Experienceは、実際の量子コンピュータの環境に加えて、従来型コンピュータ上で量子コンピュータの振る舞いを再現する量子シミュレータ環境も備えている。

 2017年3月にIBM Quantum Experienceのアップデート版IBM Qを発表。商用利用も可能な量子コンピュータのクラウドサービスとして提供を開始した。量子コンピュータと従来型コンピュータを接続するAPIを備えており、量子コンピュータと従来型コンピュータをハイブリッドで使うことができる。現在、IBM Qでは16量子ビットの量子コンピュータを提供しており、間もなく17量子ビット版をリリースする予定だ。また、IBM Qの量子シミュレータ環境では56量子ビットのシミュレーションができることをIBMの研究者が報告している。

IBM Qの量子コンピュータの基盤(IBM提供)IBM QはPCやタブレットから量子コンピュータにアクセスできる(IBM提供)

 スーター氏によれば、これまでに5万4000以上のユーザーがIBM Qを使い、およそ100万件の演算が実行されたという。その多くは、論文を書くための小規模な研究用途、量子力学や量子コンピュータに関する大学の授業での利用だった。

 IBMは、IBM Qの量子コンピュータおよび量子シミュレータ向けのプログラムを書くための開発キット「QISKit」をOSSでGithubに公開している。QISKitを使うと、PythonでIBM Q向けのプログラムを書くことができる。「今と同じように従来型コンピュータ向けのプログラムを書き、必要に応じて量子演算を行うというコードを書けば、量子コンピュータと従来型コンピュータをハイブリッドで使う演算プログラムができる」(スーター氏)。

量子コンピュータ・データセンターとはこんな感じ

 量子コンピュータについては、2011年にカナダのD-Wave System社が「量子アニーリング方式」とよばれる組み合わせ最適化計算に力を発揮する仕組みを採用した量子コンピュータを商用化した。一方、グーグル、マイクロソフト、IBM、インテルは汎用量子コンピュータが実現できるとされる「量子ゲート方式」を採用した量子コンピュータの開発を進めている。

 先ごろ、マイクロソフトが「トポロジカル量子コンピュータ」と呼ばれる方式を用いた量子コンピュータを発表した。それに対して、IBM Qが用いているのは「超電導トランズモン(Super Conducting Transomon)量子コンピュータ」という方式である(どちらも、量子ゲート方式の一種)。大まかに、トポロジカルはノイズで計算誤差が生じてもそれを修正する(修正しやすくする)やり方、超電導トランズモンは量子ビット自体にノイズへの耐性を持たせるやり方だ。

 いずれの方式でも、量子コンピュータは量子ビットを実装したチップを絶対零度(マイナス273℃)付近まで冷却する必要がある。IBM Qの量子コンピュータは、大人の背丈ほどもある筒にチップと専用冷却器を1組ずつ入れて0.015ケルビンまで冷やしている。「この筒と、従来型コンピュータが一緒に設置された“量子コンピュータ・データセンター”はこんな感じになる」と、スーター氏はイメージCGを見せていた(下図右)。「量子コンピュータは、従来型コンピュータとハイブリッドで使うクラウド・ソリューションの1つになっていく」(スーター氏)。

筒に量子チップと専用冷却器を1組ずつ入れて0.015ケルビンまで冷やす量子コンピュータ・データセンターのイメージ

量子コンピュータがセキュリティの脅威になるのは2020年以降

 量子コンピュータは、理論が中心の時代を終えて、実際のハードウェアやソフトウェアが登場してクラウドサービスに統合されるフェーズに入った。スーター氏は、16量子ビット~17量子ビットのハードとソフトが実現された今の段階を「Quantum Readyのフェーズ」と表現した。次の段階として、エラーレートの低い50~100量子ビットが実装された量子コンピュータが登場し、いよいよ従来型コンピュータでは解けない問題が解決できるようになる「Quantum Advantageのフェーズ」が2020年頃に到来するとスーター氏は展望した。

 量子コンピュータは、膨大な数の因数分解に基づく暗号を解読してしまい、既存のセキュリティの脅威になると指摘されている。これについて、スーター氏は「今現在のQuantum Readyのフェーズでは、量子コンピュータは既存の暗号を解読してしまうような脅威にはならない。それは2020年以降、Quantum Advantageのフェーズが到来して初めて直面する課題だ」と述べた。

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